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33. 戦争の終わりは唐突に

 疲弊しきった国の現状に目を背け、目先の享楽をむさぼっていた中央の貴族や王族たちが気がついた時には、その波は直ぐ目前にまで迫っていた。

 

「おれ達は都合のいい物なんかじゃない!」

「守ってくれない王侯貴族など不要だ!!」

 津波のように押し寄せるのは、クワや鎌を持った民衆が混じる寄せ集めの軍勢で、それでも数は力だった。


 腐敗の中にあっても、国の行く末を憂う良心ある貴族は存在していた。

 飢饉に襲われた地区の領主を中心にひっそりと手をつないだ者達が、慎重に根回しを進め反乱を起こしたのだ。


 旗印は、王の耳に痛い言葉を告げる事で辺境へ幽閉されていた王弟の息子だった。


 確かな血筋と清廉な性質を武器に味方を増やし、目先の利益を求めて戦場ばかりに向けられた国軍の目をかいくぐった手腕は見事の一言に尽きた。

 もともと王弟の血筋が軍を任されていたこともあり、最低限城に残されていた兵力を取り込む事に成功していたのも大きい。


 かくして、唐突に現れたように見えた反乱軍は、ほとんど抵抗を受ける事もなく、王城に籠る王その人のもとまで、一息に駆け上がった。

「国を亡ぼす愚王はいらない!」

 王の頭上から奪い取った王冠を天に掲げ勝利を宣言した姿を、集まった群衆は熱狂でもって迎えた。


 そうして、暗黒の時代は幕を閉じたのである。





「戦争が終わった?」

 医師の指示のもと負傷兵の包帯を取り替えていたレイラは、茫然とつぶやいた。


 日々送られてくる負傷兵が、自国の民から捕虜となった隣国の兵へと変わってくることで、戦況の優位性は感じていたけれど、あまりにも唐突なその一報に呆然となる。


 医療団の一人として前線にたどり着いてから、三か月が経過しようとしていた。

 マリオンが帰ってきた後も、レイラは変わらず薬師として働いていた。


 最初こそ、おそれ多いとどよめいていた周囲も、変わらぬレイラの様子にすぐに慣れた。

 もともと、分け隔てなく手を差し伸べクルクルと働くレイラは周囲に好意的に受け入れられていた為、「まあ、レイラちゃんだし」となんとなく納得してしまったのだ。


「相手国で内乱が起こったんだよ! 王城にいた王侯貴族は捕まって牢に入れられたって話だ!」

 終戦の報告を持って飛び込んできた伝令は、笑顔を隠せないまま言葉を返す。


「もともと戦場の士気も低下してきたところで、戦争をけしかけていた王様がいなくなったんだ。戦争を続ける意味ももうないんだろうさ!」

 男の大きな声に聞き耳を立てていた負傷兵たちも騒めきだす。


「戦争が終わった?」

「本当なのか? なら、……家に戻れる?」

「もう闘わなくていいんだ! 故郷へ帰れる!!」

 かみしめる様な声や歓声まで。

 そこかしこで上がる声は、喜びにあふれていた。

 

「こら、落ち着かんかい。せっかく良い知らせが来たというのに、ここで暴れては傷が開いて帰れなくなるぞい!」


 レイラと共に診察していた老医師が慌てて、飛び跳ねようとする患者を押さえる。

 そこ以外でも、はしゃいで両手を振り上げた瞬間に痛みが走り蹲ったり、歓声が悲鳴に変わったりする患者がいて、レイラは目を丸くした。


「先生の言う通りですよ。故郷に帰るにも移動しなくてはいけないんですから、傷をしっかり治さないと!」


「ああ! 分かっているとも!」

「俺、この間子供が生まれたばかりなんだ。やっと顔を見る事ができる……」

 窘めるレイラにも、嬉しそうな声が返ってくる。

 

 抑えきれない喜びの表情に、レイラもまたじわじわと喜びが湧き上がってくるのを感じる。


(そうだわ。戦争が終わったなら、もうマリオンが命の危険にさらされる事もなくなる。戻ってくるんだわ!)


 無事に帰還したマリオンは、数日砦で体を休めた後、傷が完全に癒えてからにしてはと押しとどめようとする周囲の手を振り切って、すぐに最前線へと戻っていってしまった。


「先頭に立って戦う事は出来なくとも、同じ戦場にいるだけで皆の士気が上がる。単なる置物だとしても、それほどに王家の血というのは価値があるんだよ」


 気負う様子もなく、淡々と語るマリオンに、レイラは引き留めたくて伸ばした手を下ろした。

 マリオンの王族としての覚悟を邪魔することなど出来ないと思ったからだ。


「まだ、完治したわけではないのだから、無理はしないでね。私もここで、私にできることを頑張るから」

 精一杯の笑顔で送り出した事を後悔はしていないけれど、いつだって心は不安でいっぱいだった。


(あぁ!早く会いたい!会って、元気な姿を確かめたいわ)

 歓喜に沸く病室で飛び上がろうとする患者を窘めながら、レイラもひっそりと喜びを噛み締めていた。





 自国の勝利で、戦争が終わった。

 その一報は、疾風の如き速さで国中に広まった。


 遠い国境での争いで、影響を受けることもあまりないといえども、親兄弟が一兵として参加している者達も当然身近にはいる。


 負けることのない戦争だと言われてはいたが、その場に立つ以上、怪我や死が無縁なわけではない。

 日々、不安を抱えていた家族は喜びに涙を流した。


 そして戦勝の喜びと共に、もう一つの噂が国中を駆け巡る。


 それは、尊き身の上でありながら先頭に立ち戦った勇敢な王子と、少しでも愛しい人の助けになりたいと最前線の医療所で看護にあたったお姫様の恋物語だ。





 そのお姫様は、敗戦した国から幼い頃に名ばかりの側室として人質のように送り込まれた。

 自国の身内からは、嫁がせた以上はそちらのお好きなようにと亡き者として扱われ、後宮の端でだれにも顧みられることなくひっそりと暮らしていたそうだ。


 大きな戦の後の事後処理でごたついていた王城の人々は、庇護者のいない小さなお姫様の存在をうっかり見落としてしまったらしい。


 送り込まれてきた時のあまりの幼さゆえに側室として扱われることもなく、たった1人ついてきてくれた侍女と肩を寄せ合うようにして暮らす寂しい日々。


 王城の中にある小さな森で、生きるためにメイドのふりをして薬草や食料を得ていたお姫様は、やがて1人の騎士と巡り会う事になる。


 それは、王である父親を支え、国のために働きたいと近衛兵になる事を選んだ第5王子だった。


 互いの本当の身分を知らないままに惹かれ合う2人は、やがて真実を知る事になる。


 婚姻すら交わしていないとはいえ、もとは父親の花嫁となるために送り込まれてきた存在だ。

 若い2人は苦悩するが、生まれてしまった恋心は止めることはできない。


 幸か不幸か、不遇の身ゆえにお姫様の潔白は周知の事実だった。

 その上、王は送り込まれる側室という名の人質を憐れみ、本人の希望を聞いてより良い相手へと下賜する事は、慣例となっていた。


「あなたを迎えるにふさわしい手柄を立ててくるから、どうか信じて待っていてほしい」

 固い誓いを残して、王子は戦場へと旅立つ。


「どうか貴方が無事に戻りますように」

 お姫様は、手作りの腕輪を渡し、その背中を涙ながらに見送った。


 戦場で、王子は勇敢に戦った。

 しかし、ある月のない夜に敵から背後を突かれて、その戦いの最中で行方不明になってしまう。


 知らせを受けたお姫様は、涙を流す前に、すぐさまお城を飛び出した。

 ちょうど城下から救援の物資を運ぶ一団が出発しようとしており、お姫様は町娘の姿でそこへ潜り込んだのだ。


 そして、医師の助手という立場を手に入れたお姫様は、危険な最前線の医療所で働きながら、王子様の帰りを待ち続けた。


 平民のふりをしたお姫様は、誰よりも一生懸命に働いた。

 愛しい人の無事を願いながら、傷ついた兵を癒やし、疲れた仲間を励ます日々。


 そんな一生懸命なお姫様に励まされて、戦場の中にありながら人々は希望と笑顔を思い出していく。


 その時、行方不明の王子様の方は。

 親友を庇って矢を受けた王子様は、川に落ちて国境の森の中へと流されていた。


 王子様を追いかけて飛び込んだ親友の尽力で、どうにか這い上がる事はできたものの、射られた矢には毒が塗られていたのだ。


 絶体絶命の王子様を救ったのは、偶然通りがかった旅の薬師だった。


「王子が着けているのは、我が一族に伝わる愛を誓う腕輪です。一族に縁ある人を、助けないわけにはいきませんから」

 何も持たない自分たちを助ける薬師を疑う親友に、薬師はそう言って笑った。


 そうして、深い森の中、偶然の出会いに助けられて傷を癒した王子は、お姫様の待つ砦へと戻ることができたのだった。


「貴女のお守りに助けられた」

「ずっと無事を祈っていました。また会えて、こんなに幸せな事はありません」

 涙ながらに抱きしめ合う2人に、周囲の人もまた涙で祝福を送った。


「このくだらない戦さを今度こそ終わらせてくる」

 そうして、再び戦場へと戻った王子様は勇敢に戦い、ついに勝利をもぎ取ったのだった。





 愛する人との未来を手にするために勇敢に戦った王子様と、我が身の危険を顧みず駆けつけて、王子の無事を見届けた後も、傷ついた兵士のために身を粉にして働くお姫様の話に人々は熱狂した。


 その裏で「美化されすぎ〜〜」と真っ赤に頬を染めて叫んだ誰かがいたとかいなかったとか………。

お読みくださり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
そして身悶える『レイラ』さん(−_−;) 侍女「やれやれね(*´∀`)♪」 マリオン「どうしたの?」 ※そりゃ(⌒-⌒; )、なあ。
むしろお姫様は実は秘された伝説の薬師の一族でしたとか、 侍女と二人で暮らしていた時はパン一つ、服一枚すら 支給されず(横領され)、薬草で作った薬を売ってなんとか 暮らしていた(猟して獲物捌いてたのは絵…
美化されすぎとは言うけど、「最初から王子の嫁候補だった」以外は事実しかないやんかw
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