レストランにて
「本日は当レストラン『デュカ・エステート』にお越しくださいましてありがとうございます。
私は本日お客様のテーブルを担当させて頂きます、ファビアンと申します。
どうぞ、よろしくお願いします。ではお席にご案内します。どうぞこちらへ」
「素敵なお店ね、パパ」
「そうだろうそうだろう、ほら窓の外にイルミネーションが見えるぞ」
「では、こちらメニューでございます。本日お勧めの――」
「それで、どうだ。最近は元気していたのか?」
「ん? まあまあかな」
「まあまあってどんなだよ。ほら、大学はどうなんだ? ちゃんと行っているのか?」
「うーん、まあ、そこそこね」
「今度はそこそこか。ちゃんと大学通わないとろくなところに就職できないぞ」
「はいはい」
「お次は、はいはいか。二回繰り返すのが好きなのか?」
「別に」
「――でご説明は以上になります。ご注文がお決まりになりましたら、いつでもお声がけください」
「別にってまたそっけないな。最近、仕事が忙しくて会えていなかったが常に気にしていたんだぞ?
学歴は大事だぞ。そこそこいい大学に通わせてもらってるんだからもっと頑張らないと」
「はーい、そこそこがんばりまーす。あ、ファビアンさん。アントレはこの中から選べるのね」
「はい、お選びいただけます。種類は――」
「はん、アントレ? 前菜のことだろ? それを言うならオードブルだろう。それにメニュー表を指さしたってお前、フランス語読めないだろう」
「アントレって書いてあるわよ? これくらい読めないの? それに確認のためにこうして聞いてるんじゃない馬鹿?」
「ば、馬鹿とは何だ! 大した大学でもないくせに!」
「はいはい、パパは名門大学ですもんねー」
「パテ・ド・カンパーニュ、タコのマリネ、玉ねぎとベーコンのキッシュ、エスカルゴ」
「ふん、そうだぞ。だからこうしてフランス料理をご馳走してやれるんだ」
「はいはい」
「だから繰り返すな!」
「他に何かございますか?」
「ううん、ありがとうフォビアンさん」
「……なんだ? まさかソイツに色目使っているのか?」
「そんな訳ないでしょ」
「いーや、怪しいもんだな。大体お前、色んな男と遊んでるんじゃないか?」
「さぁ、どうでしょうねー」
「な、な、そんなことないよ待ちだったのに!」
「はぁ、そもそも関係ないでしょ」
「か、関係ないとはなんだ!」
「もー、そんなに騒ぐなら帰るよ」
「いーや、帰さないね。よし、決めた。こうしよう」
「お決まりですか?」
「お前に言ったんじゃない! 引っ込んでろ!」
「かしこまりました」
「八つ当たりしないでよみっともない。ごめんねフォビアンさん」
「そいつの腕を触るな! はぁーあ、軽い女に思われるぞまったく恥ずかしい」
「思う訳ないでしょ。それよりそろそろ注文の方を決めましょうよ。私、Aコースね。アントレはタコのマリネ」
「ふん、結局コース料理か。やっぱり読めないんだな」
「別にディナーのコース料理を頼むなんて普通のことでしょ。それでそっちは何にするの?」
「Aコースだ。オードブルはカンバーニュ」
「かしこまりました」
「一緒じゃない。あとカンパーニュね」
「うるさいな!」
「ディナーのAコースを二つ。アントレはタコのマリネとパテ・ド・カンパーニュですね」
「それで結局、何を決めたの?」
「うむ、今ここで男遊びをしないと誓わないなら金はあげない! この店の代金も払わん!」
「は……? 何それ意味わかんない。底なしのバカなのね」
「な、なに! もういっぺん言ってみろ!」
「ディナーのAコースを二つ。アントレはタコのマリネとパテ・ド・カンパーニュですね」
「お前じゃない! さっさと行け!」
「かしこまりました」
「はぁ……じゃあ、結構です。帰ります」
「お、おい、お前は行くな! 大体、そこは殊勝な態度に出るところだろ……。ちゃんと謝って目上の者を敬えばいいんだ」
「はぁ? 店入ってすぐに説教してくる人のどこを敬えって言うの? そもそもあれこれ言われる筋合いないわ」
「あ、待って、お、おい! どこへ行くんだ! 金は払わないぞ! いいのか! 欲しくないのか! おい! ん、なんだ、邪魔をするなお前!」
「お客様、代金をお支払いにならないと仰るのでしたら規定により、警察へ通報させていただきますが」
「は、は? いや、払う! 払うよ! 金は払わないってそういう意味じゃないんだ。
まったく柔軟さに欠けるな、お前も女も……。しかし、逆ならよかったのにな……。パパ活相手がお前のように従順な女だったらなぁ……」
男は料理をテーブルの上に置くロボットを見ながら、そう呟いた。