誇りと意思か、命と尊厳か。
わたしからいえるのは、「でかい」「いたきもちいい」「歯止めがない」
丁寧に守ってきたヒロインのはじめてが穢されてしまったが、シナリオ進行上許していただきたい。
なんの話だって?
吸血鬼の凄惨な吸血行為の話ですよ?
あれからでかい牙を躊躇なく突き刺して上下に揺さぶることで血の流れを良くし捕食し始めた吸血鬼ブライト。
吸血行為は獲物が痛みを感じて逃がさないようにするためか痛いような気持ちいような感覚で、段々と立っていられなくなり、次第に吸血鬼に縋るような体制で吸血を受け入れていた。
吸血鬼ブライトは久々の吸血なのか、何度もやめて、休憩させて、と懇願しても一度も止まることなく吸い続けた。
脱水症状で倒れるかと思った。
はじめての被吸血が吸血鬼なんて!蚊にも吸わせたことないのに!
こちとら万年行き遅れの干物女だぞ!アフターフォーローくらいしていってよ!
シナリオ通りとはいえ、ヒロインの代わりに現実として受け止める必要があるわたしは、昨日のあれやこれや以上を想像して頭を悩ませていると、不意に声を掛けられた。
「昨晩は我が主をどうも」
何度か視界の端で認識していたビスクドールの執事が話しかけてきた。
「えっと?昨晩というのは」
ヒロインさん渾身の覚えてないですーをお見舞いしてやる。
因みにここ固定セリフで、ヒロインさんがすっとぼけてる説と本当に覚えてない説がある。
派閥的には100:0ですっとぼけてる説が有力である。任務に不都合なことは覚えていないフリだ。
「――――我が主が貴方を召し上げたいと」
「はぁ……?」
「つきまして、こちらの服に着替えてください」
バサリと吸血鬼のベットに投げ渡されたのはメイド服だった。
肩の部分を持ち上げてじっくり見てみると、上がフレンチメイドで下がクラシカルメイドなアバランスなメイド服だ。
吸血しやすいようにはだけさせる必要がない乙女の柔肌を惜しげもなく晒した上半身と下半身の丈の長いシスターのような黒く重みのある禁則的なスカートが怪しい魅力を引き出している。
定番と定番の組み合わせとはいえ、フレンチとクラシカルという両極端なスタイルのメイド服を悪魔合体させるデザイナーの性癖に忠実なセンスには脱帽だ。
干物女にはセクシーな服だとはいっても、見慣れたヒロインの服にちょっとだけテンションが上がる。
顔面も体もヒロインだし着てもセーフ!わたし変質者じゃないよ!
じっと服を見つめていたが、決心を固めて着ようとすると、こちらに留まり続けるビスクドールが視界に入る。
「あの、着替えるので出てもらえますか」
「監視するよう我が主から仰せつかっております」
「嫌です……恥ずかしいです……」
「無理矢理脱ぎ着せさせることも可能ですが、如何しますか」
「じ、自分で出来ます」
「そうですか」
やっぱり駄目か
着替え監視プレイは萎え要素なんだよなぁ
ストリップって文化は嫌いじゃないし見世物として完成されたものは芸術的で感動すら覚える。
でも、一般人の着替えっている?恥ずかしがってる姿が萌える要素?
自分の好みではない。ノットフォーミーってだけなんだけど、いざ自分がされるとなると嫌悪感が半端ない。ヒロインみたいに顔赤らめてとか絶対無理。
羞恥ではなく恐怖と嫌悪感から手が震え、段々と体から血の気が引いていくのを感じる。
「…………着替え終わりました」
「ついてきてください」
乙女ゲームに転生して浮かれてたわたしにとって、冷や水をぶっかけられたようだった。
誇りを守るため尊厳を失うか
尊厳を守るため誇りを捨てるか
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