ダークファンタジー系乙女ゲームの世界に転生しました
目が覚めるとそこは鉄橋の下だった。
頭上でガタガタと列車が走るから、もたれかかっていた鉄柱が酷く揺れる。
パラパラと降ってくる破片を避けながら、石炭による煤けた空気に思わず咳き込む。
少し離れたところで身を寄せ合うように子どもたちが眠っている。
老人は生きているか死んでいるか分かったものではない。羽虫やうじが集っているか否かでしか判別がつかない。
そんなゴミの掃きだめでも、私の周りには誰一人として近寄ろうとしなかった。
理由は単純で髪と瞳の色のせいである。
この世の闇を煮詰めて溶かし込んだ黒髪と黒い瞳は、教会の教えでそれぞれ悪魔の子と死者の瞳の証とされているらしい。そう、炊き出しを行っていた信心深いシスターが教えてくれた。
その日は残念なことにご飯にありつけず、空腹で痛む腹を有難い教えを反芻することで夜を明かした。
クソったれな世界
それでも生にしがみつくのは、忌み子のわたしを女手一つで育ててくれた母との約束があるから。
地を舐め泥を啜ってでも生きなければ、死んだ後母に顔向けできない。
無駄なエネルギーを使わなために体を倒し再び眠ろうとすると、周りがにわかにざわつくのを感じる。
そこにいたのは羽根を生やした美しい男だった。
一瞬天国から迎えが来たのかと思ったが、背中から伝わる鉄骨の揺れが現実だとわたしに知らせている。
忌み子のわたしが天国に行けるはずもないなと一人納得したが、それはそれとしてこのゴミ溜まりに相応しくない天使のような男が何をしに来たのか様子が気になる。
男は誰かを探すように鉄橋の下を辛うじて日の当たる場所から見渡している。
おかしな格好をしているが綺麗な人だと盗み見ていると、バチリと視線があった。
すると男は一纏めにしたシルバーアッシュの長髪を愉快そうに揺らしながらこちらに近づいてくる。
艶々した高そうな革靴がぼろきれを身にまとっているわたしの体すれすれで止まった。物乞いのときに踏まれ蹴られた経験からわたしの体が自然と硬くなっているのがわかる。
熱を奪いに降り積もる雪に紛れてしまいそうなほど真っ白で柔らかなコートを羽織った男がわたしを検分するように見下ろしてくる。
しばらくすると男が膝を折り、顔を持ち上げわたしと無理矢理に視線を合わせてくる。
他人事のように眺めていた奇妙な神秘さを持つ男に拾い上げられ、わたしはとうとう神の断罪を受けることになるのかと目を逸らせなかった。
同時に男の顔をみて恐怖が萎み言いようのない興奮を覚えた。
これ回想シーンのスチルで見たやつだ!?
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