女子トイレ
突然だが男性の諸君、間違えて女子トイレに入ってしまったことはあるだろうか。
殆どの男がないと断言すると思うが、万が一にも入ってしまったことがあるのなら、大真面目聞きたい。
どうやってくぐり抜けたのか。
「返事がないけど、大丈夫?」
何故なら僕は女子トイレにいるからだ。
今日は気を抜いていたのだろう。寝るために密かに持って来たスマホに授業を昼まで聞いてもらい。 惰眠を貪った後の出来事である。
今、多分、クラスメイトであろう女子にドア越しに声をかけられているのである。
もはや詰んいでると言っても過言では無いかも知れない。
ここで正直に「すいません、間違ってトイレに入ってしまいました。はは」と言って果たして通用するのだろうか。
そもそも、入学から現在に至るまで友達ゼロであるコミュ症の僕が女子と話せるのか。
想像して見よう。
まず、僕がズボン履き、ドアを開けて声を掛けたとする。
「す、すsみま「きゃーー。ここに変態がいる。助けてぇ」
謝罪すら、ままならないで女子に悲鳴を上げられ。
ピーポーピーポー。
「署まで、来てもらう」
手錠を嵌められ、パトカーに乗る俺をまるで汚物を見る女子の姿が容易に想像出来た。
終了。はい、僕の人生が終わった以上。
「もしかして、意識がないのかも」
まずい、まずい。どうする僕。
このままではドアを開けられてしまう。
それだけは避けなければ、その時だった手が震えてズボンのベルトを触ってしまったのだ。
カランと音がした。小さいけれど、それは現状を変えるには十分な音だった。
「やっぱり、いるのね。どうして返事をしないの?」
それから長い、長い沈黙の中、僕は遂に覚悟決め口を開きかけた次の瞬間。
彼女の口から思いがけない一言が出たのである。
「もしかして、鏡花ちゃん?」
確かな親しみが感じられる声音で口にしたのが、知っている女子の名前だったからだ。
フルネームは確か、彩墨鏡花だったか。
むろん、知っていると言っても僕が一方的にだけれど。
目の前にいる女子の名前すらわからない僕だが、同じクラスで孤立した立場でありながらもその堂々とした態度に密かに尊敬の念を抱いていたのである。
しかし、おかしい。彼女には親しい友人はいなかったはずだ。
「当然よね。貴方を裏切ってしまったのはこの私だもの……」
彼女はぽつり、ぽつりと話し始めた。
話の内容から察するに、彼女は親友であったがあることをきっかに関係は崩れたらしい。
何でも、茅野莉子と言うクラスでもトップカーストに位置する奴に彼女は目をつけられてしまい、それを庇った彩墨さんが次のターゲットになってしまったらしい。
勇敢にも立ち向かった彩墨さんだが、茅野はどうやら知事長の孫で教師たちも強く言えなかったと。 それで、図に乗った茅野は彼女をもうターゲットになりなくないでしょと脅していじめに加勢させたと言う訳だ。
はっきり言って胸糞悪い。
「もう、口を、口を聞いてもらえるとはおもっていないわ。でもこれだけは言わせて欲しいの。ごめんなさい。もうあなたの前から消えるから。私、来月転校するの」
彼女は最後の方は声がかすれていた。きっと泣いているのだろう。
なんか僕の方が人違いですごめんなさいと言いたい位だ。
まさか、彩墨さんにそんな事情があったなんて。僕とは大違いだ。
何はともあれ、彼女の話はこれで終わりだ。
これで、少なくても彼女から解放されると思った矢先。
「あれー。木崎じゃん。うわぁ泣いてんの。大丈夫? 」
「さ、茅野。何で。ここに……」
彼女は木崎と言うらしい。
噓だろ。ここ修羅場?
見えていなくても最悪な現状だと言うのがひしひしと伝わってくる。
「酷い。呼び捨てなんて。敬語使えって言ってんじゃん。と言うか全部、聞いていたよ。わ・た・し」
その瞬間、鈍い音がトイレに響き渡った。
後からドッスと崩れ去るような音もした。
こ、こいつ、やりやがった。
「仲良くなれたとおもってたけど、まだ裏で通じ合っていたなんて。本当に残念。てか、彩墨もいるんだよね。ありがとう教えてくれて。自ら出でくれないかな。彩墨」
今度は僕のいる個室のドアを蹴りつけたようだ。
ヤバイ、さっきより数段難易度がアップしたことは間違いないだろう。
ゲームならとっくにリタイアしたい位だ。
僕はどうすることもできず、暫く沈黙していると。
ガタガタと複数の足音が聞こえるじゃないか。まさか……
「莉子、美術室から要望通りパクってきたわ。こっちはバケツは緑で」
「こっちは赤」
「で、こっちは青と。莉子、また面白い遊び思いついたんでしょ」
「サンキュー。準備整ったね。あ、こいつ抑えといて」
「まさか」
「そう、トイレに隠れて出てこない悪い子にはお仕置きしなくちゃね」
マズい。こんな状況になっても時間が解決してくれると甘く見ていた。
これじゃ、授業が始まる前に間に合うどころか絵具まみれだ。
こんな奴らじゃ授業が始まろうが、始まらなかろうが関係なさそうだ。
ここから出たら覚えていろ。絶対許さないからな。
僕が復習を誓っていると。
「わ、私がかわりになるわ」
「何、今更いい子ぶって」
「そうよ。あんただって今まで散々やってきたじゃない」
「もう、私には鏡花ちゃんを裏切るなんて耐えられないの」
「じゃあ。代わりになるって誓えるの? もちろん、転校もなしだよ」
「さすが。莉子。清々しいまでの下種っぷりだわ」
「それでこそ、リーダーって感じだよね」
「だよね」
くっ。どうすればいいんだ僕は。
これで、僕が濡れるも嫌だけど彼女が濡れるのはもっとダメだ。
何しろ、人違いだし。
「そ、それは」
「さっさと決めてよ」
「うっ。わかったわ」
「じゃあ、誓いの証に自らバケツを被ってね」
クソ。誤解を特にはやっぱり僕がここから出るしかないのか。
覚悟を決めて扉に手をかけようとした時だった。
なんと、隣の個室からだろう。誰かが出る音がした。
「やめて。私以外には手を出さなって言ったじゃない」
「「「え」」」
この時ばかりは、あの何で茅野とも考えは同じだろう。
なんでそこにいるんだ。
まさか、僕よりも先客がいたなんて。それがよりにもよって彩墨さんとは……
「じゃあ、ここにいるは、誰?」
沈黙が場を支配する。
考えろ、僕。そうだ僕には特技があったじゃないか。
「中々、言い出せなかったけど。ここにいるのは私よ。保険の先生の阿倍野よ。さあ、あなた達みんな 放課後居残ってもらうわよ。もう、チャイムがなるわ。行きなさい」
あれ、僕って人前でこんなにはっきりと声って出せたのか。
そう、僕には一つだけ自慢出来る特技ある。それは声真似だ。
無論、自慢出来る友達がいないのだけれど。
彼女達を追い払った後、ホット息を付いたところ胸ポケットに違和感を覚えた。
見ると、スマホで画面には録音中と出ていた。
あっ。これは、使える。どうやら木崎さんに恩は返せそうだ。
その後、どこからかいじめの録音テープが先生の手に渡り、このことが公になった。
今では優しい妖精の仕業として学校の七不思議として語り継がれている。
「へえ、去年、そんな不思議なことがあったのか。綾斗」
「まぁ、きっと人見知りの妖精だったんだよ。」
僕は女子トイレの方見てそう言った。(完)




