最果ての約束
少年:数週間前に現れた空に浮かぶ謎の黒い立方体が、現れた時同様に突然消え去ったその瞬間、誰もが空を見上げるなか、とある場所へ向かった。
少年:予感がした。
少年:何かを失ってしまうような予感が,心をがなり立てて落ち着かせない。
少年:息を切らせて向かったその場所で、その人は待っていた。
お姉さん:「やぁ、少年。よくきたね」
少年:はぁはぁはぁ
少年:しらみつぶしに、はぁ、探したから、はぁ、げほ
お姉さん:「それで、そんなに急いでどうしたんだい?」
少年:え、いや、その、なんか嫌な予感がして
お姉さん:「嫌な予感?」
少年:お姉さんがいなくなる気がして・・・・
お姉さん:なんて不吉な予感をしてくれてるんだ?
お姉さん:え、私、死ぬの?
少年:知らないよ・・・
少年:でも、多分、気のせいだと思う。
少年:僕の勘は当たらないし
お姉さん:「少年」
少年:何?
お姉さん:「残念ながら、今回はあたりの方だ」
少年:・・・・・・・え?
お姉さん:「お別れってやつだね」
少年:え、だって、なんで、そんな
お姉さん:「少年、君は気づいてるよ。
お姉さん:ただ、目を逸らしているだけでさ」
少年:なんだよ、それ。
お姉さん:「お別れまでまだ時間もあるし、少しお話しようか」
少年:なんでそんなことするのさ。
お姉さん:「付き合ってくれたら、すんごいご褒美があるよ」
少年:すんごいご褒美・・・!!
お姉さん:「食いつき方がえぐくて、お姉さんちょっと君の将来が心配だよ」
少年:余計なお世話だよ
お姉さん:「そうだね、なにから話そうか?」
少年:お姉さんのとっておきの秘密とか?
お姉さん:「ああ、いいね、それ」
少年:え、いいの?
お姉さん:「実はね、お姉さんは、あの黒い立方体をどうにかするために派遣されたスーパーヒーローなのでした」
少年:ふーん
お姉さん:「あれ?反応薄くないかい?お姉さん、ショック」
少年:さっき、お姉さんがいったんじゃないか、僕はもう気づいてるって
少年:だから、考えてみた。
少年:お姉さんがやってきたのはあの黒い立方体が現れた時だった。
少年:お姉さんと出会うときは、あの黒い立方体が起こす事件に関係していた
少年:そういえば、この前酔っぱらって教えてくれてた。
お姉さん:「うんうん、やっぱり君は優秀・・・・最後なんて?」
少年:この前、酔っぱらってたときに言ってたなと思って
お姉さん:「うぉぉ、あの時かぁ!やっちまったぁ!」
少年:大丈夫だよ。僕しか聞いてなかったし
お姉さん:「不幸中の幸いってやつだね・・・」
少年:そうだ、その時、聞きたかったんだ
お姉さん:「なんだい?」
少年:いったいどこから派遣されたのか
お姉さん:「・・・・やっぱり、少年は優秀だね。
お姉さん:そうだね、しいて言うならば世界かな」
少年:世界?国連ってやつ?
お姉さん:「ぶっぶー、はずれ。
お姉さん:もうちょっと概念的なものさ」
少年:よくわからないよ
お姉さん:「分からなくてもいいよ」
少年:じゃあ、お別れってことはお姉さんは世界に帰るの?
お姉さん:「そうだね。
お姉さん:でも、帰るとは少し違うかな」
少年:どういうこと?
お姉さん:「私はね、世界のバグを治すために派遣されてもの、そういうシステムといえばいいのかな。だから、役目が終ったら消えてしまうのさ」
少年:・・・・・・・・・死んじゃうってこと?
お姉さん:「そういことだね」
少年:嫌だよ
少年:お姉さんが死ぬなんて嫌だよ。
お姉さん:「うん、ありがとう、少年」
少年:死なないでよ
お姉さん:「少年は優しいなぁ」
少年:真面目に言ってるんだよ
お姉さん:「私も真面目さ。
お姉さん:だから、正直に話すよ」
少年:うん、聞く。
お姉さん:「実を言うとね、チャンスはあるんだ。ほかでもない君のお陰でね」
少年:僕?
お姉さん:「本来、システムでしかなかった私は、少年との出会いで変わった。
お姉さん:変質したと言い換えてもいい」
少年:つまり?
お姉さん:「私にも予想がつかないということさ」
少年:だめじゃん!
お姉さん:「はっはっは、ドッキドキだね!」
少年:悪い意味でね!
お姉さん:「まぁ、運よく生き残れても君とはお別れだろうけどね」
少年:えっ・・・・
お姉さん:「無理やり予想したとして、生き残るとしても私は遠い遠い場所にいることになる」
少年:遠い場所?
お姉さん:「そうだね、世界の果てとでもいおうか、それぐらい遠い場所さ」
少年:僕はいけないの
お姉さん:「うーん、厳しいかなぁ」
少年:絶対?
お姉さん:「少年は優秀だし、人生賭けたらワンチャンあるかもだけど、それは流石に人生が勿体ない」
少年:勿体なくないよ
お姉さん:「頑固だね、少年」
少年:うん、だから、諦めないよ
お姉さん:「よし、じゃあ、諦めなくていいからいくつか約束してくれるかい?」
少年:約束?
お姉さん:「そう、大事な約束。
お姉さん:一つ、努力は笑顔でいられるレベルでやること
お姉さん:二つ、家族や友人を蔑ろにしないこと
お姉さん:三つ、自分の幸せを見失わないこと」
少年:それを守ったら諦めなくていい
お姉さん:「うん、君の人生だ。好きに生きたらいい」
少年:わかった。
お姉さん:「本当かなぁ」
少年:お姉さん
お姉さん:「んー?」
少年:お姉さんも約束して、
お姉さん:「そうだね。確かに、少年だけというのも不公平か
お姉さん:いいよ、なんだい?」
少年:必ず迎えに行くから、世界の果てで待っていて
お姉さん:「え、いや、そもそも、世界の果てにいけるかとか可能性は一割未満・・・」
少年:お姉さん
お姉さん:「あー、はい、了解です」
少年:絶対だからね
お姉さん:「善処します・・・」
少年:絶対!
お姉さん:「はい、絶対です!」
少年:そういえば・・
お姉さん:「なんだい?これ以上の約束はなしだよ」
少年:すんごいご褒美
お姉さん:「げっ、覚えてた」
少年:げって言った!
お姉さん:「いや、驚愕の真実!みたいな感じで有耶無耶にしようとか思ってなかったよ」
少年:嘘だ!
お姉さん:「ぐっ、だけど、ってあら」
少年:お姉さん、身体が・・・
お姉さん:「うーん、時間が来たみたいだね」
少年:こんな締まらないお別れってある?
お姉さん:「いいじゃないか、私たちらしいさ。
お姉さん:それにまた会えるんだろう?」
少年:うん、絶対
少年:絶対に会いに行く
少年:会ってご褒美をもらう!!
お姉さん:「ご褒美に力が入っていることにお姉さんは、複雑な思いだよ。
お姉さん:しかし、あれだね、しばらく会えないのだし、せっかくだしカッコつけてみようか」
少年:そういうと、お姉さんはこちらに拳を向けて、初めてあったあの日の笑顔で・・・
お姉さん:「世界の果てで待ってるぜ、しょーねん」
少年:そういって、お姉さんは僕の目の前から消えた。
少年:まるで、最初から存在しなかったみたいに拍子抜けするほどあっさりとお姉さんは、消えた。
少年:だけど、僕は覚えてる。
少年:交わした約束を覚えている。
少年:だから、僕は、お姉さんがいた場所にお姉さんがしていたように拳を向けて
少年:お姉さんみたいにカッコつけていった。
少年:「きっと、会いに行くから。少しだけ待っててね」
0:いつかくる未来(間をとって)
お姉さん:「や、少年、よくきたね
お姉さん:おーおー、かっこよくなっちゃってまぁ
お姉さん:え、ご褒美?っち、覚えてたか
お姉さん:それでどうしてほしいんだい?
お姉さん:え、名前で呼んでほしい?
お姉さん:まぁ、それでいいなら、いいけど
お姉さん:それじゃあ、改めて、
お姉さん:また、会えて嬉しいよ。 ――――― 」