第9話『ラムズインワンダーランド──Ⅲ──』
ラムズインワンダーランドが横浜の港町で始まる。それは、この舞台の名前。
古めかしい映写機が赤レンガ倉庫の壁に特徴的なフォントで文字を浮かび上がらせる。
──お姫様はどちらの王子様をお望み?
と。
映写機が写すは、そんなラムズインワンダーランドのオープニングムービー。
ラピスフィーネに海賊の王子様と金髪碧眼の王子様に拝跪し、それぞれ平手を差し出す。ラピスフィーネがどちらの王子様を選ぶか逡巡している。
ラムズは右手を濃紺の星空に振り上げ、観客の注目が集まる。
勇ましいファンファーレが鳴り響き、昨日レオンが言及した昭和に放映された宇宙戦艦アニメの主題歌をオーケストラ演奏でお届けする。
パチン、とラムズが指を弾くと、上空に魔法円が出現し、レールガン搭載型護衛艦やまと、イージスミサイル護衛艦ちょうかい、イージスミサイル護衛艦まや、汎用護衛艦たかなみ、多機能護衛艦くあまが空中から舞い降り、ド派手な水飛沫を上げて大海原に着水。
紅蓮の業火が噴き上げ、ステージが火の海と化す。
迷彩服の自衛官とニュクス王国軍とシャーク海賊団が剣を抜き放ち、銃と剣とカトラスが躍り狂う。
舞台装置からも火焔が吹き上がり、額が熱くなるほどだ。
その中にあって玉座に気だるげに構える海賊の王子様は足を組み、頬杖をついている。
『英雄王ラムズ・ジルヴェリア・シャーク!』
ジウがカトラスを抜き放ち、刀身が白銀にかがやく。
『解放王ラムズ・ジルヴェリア・シャーク!』
ロミューもカトラスを抜き放ち、ジウとロミューがラムズにかしずく。
『海賊の王子様こそ真の王だ』
リジェガルがサーベルを抜刀し、ラピスフィーネを虜にした王子様の両肩に切っ先を軽く乗せて喧伝する。
『ニュクス王国と日本、二つの国を従える、真の王!』
ラピスフィーネがドレスの裾をつまみカーテシーの仕草。
ラムズは踵を返し、満足そうに舞台の奥へ消えていく……
『──讃えよ! 我らがラムズ・シャーク! 今こそ我ら皆、かの方の忠実なる臣下とならん!』
「「おおおおおおおお!!!!!」」
オープニングムービーは終わった。
一旦会場が暗転し、拍手に見送られながらワインレッドの幕が降りる。
期待感で女性客が興奮し、ペンライト、サイリウムを振りながら今夜の主役の名をコールする。
「「ラムズ!」」「「ラムズ!」」「ラムズ!」」「「ラムズ!」」「「ラムズ!」」
スポットライトが舞台袖から歩み出るふたりの司会を指向、まばゆく照らしあげる。
『──そう、今日の舞台はラムズインワンダーランド。海賊の王子様が治める夢と宝石の異世界』
『今夜私たちは、現代日本の科学技術と、愛殺世界の神秘と魔法が融合した夢の世界に皆様をご招待します──』
司会は東城洋介と東城美咲だ。
今宵はおめかしして、金の飾緒と白手袋が加わり各部に装飾の施された漆黒のダブルボタンの軍服に身を固める洋介と、青いバラをイメージしたドレスに飾り紐がついたブーツを履く美咲がワインレッドのハードカバーに納められた原稿片手に観客に挨拶。
演奏が切り替わり、官能的なジャズが熱い旋律を紡ぐ。
『──ハローハロー、俺の名前はラムズ・シャークだ』
皆さんお待ちかね、海賊の王子様の登場だ!
ラムズの横顔のシルエットがプロジェクションマッピングで横浜ランドマークタワーに投影される
「「キャーーー!!!!」」
『開演の前に、ちょっとばかし皆様にご案内。会場ではすまーふぉんという機械の使用は禁止だそうだ。録音録画などしたら──殺す』
「「キャー!!!」」
「「ラムズ様~!」」
『盛り上がってるかー?』
スポットライトが1階席を指向する。
『1階席ーーー!?』
「「いえーーーい!!!」」
スポットライトが2階席を指向する。
『2階席ーーー?』
「「いえーーーい!!!」」
『あ、ちなみに男いるか?』
「いえーい!」
いないことはないがまばらな声援。全体の5パーセントほどか?
『聞こえないぞ! 野郎ども!』
「「いえーい!!!」」
『女の子!』
「「「いえーい!!!」」」
さらに大きな声援。
会場の盛り上がりに合わせ、音楽も速い脈動を刻む。
『ところで会場の外にいるお前らも、一昨日のステージは覚えているな? 特設さいとからあくせすして、シャーク海賊団に投票してくれ。愛殺世界を知る読書諸君もシャーク海賊団の一員だ。全員に投票権をやる』
「「いえーい!!!」」
さて、この人気投票、日本世界と愛殺世界、どちらが一位となるか?
『ああ、それからヨウスケ』
『えっ!?』
スポットライトが洋介に向けられる。驚く彼。
『人気投票で俺が一位だったらヤマトちょーだい』
お菓子でももらうノリでラムズは言ってのける。
『あげませんよ!』
観客爆笑。
『もうもらった』
『えっ!?』
腹の底に堪える打楽器が鼓動を刻み、サーチライトが上空の雲を照らす。
遠くから爆発音が轟き、護衛艦やまとが岸壁にじりじり迫る。
日の丸が下ろされ、海賊旗が舳先に誇らしげにはためく。
シャーク海賊団は船首にいた。
白の逆光で彼らのシルエットが黒く浮かび上がり、煙が焚かれる。
スクリーンに彼らがバストアップで映り、紹介していく。
【 ラムズ・シャーク 】
『俺が全部盗んでやる──皆の幸せという、最高の宝石をな!』
「「キャー!」」
【 ジウ・エワード 】
『みんなはもっともっと熱くなれるよね?』
「「キャー!」」
【 ロミュー・ヴァノス 】
『お前たちの本気、まだまだこんなものじゃないだろう!』
「「キャー!」」
【 メアリ・シレーン 】
『あなたちに夢を見せてあげるわ!』
「「キャー!」」
【 ヴァニラ 】
『みんなの声援、もっと聴かせてほしいの!』
F35戦闘機が曲芸飛行し、オレンジ、紫、黒のスモークを焚く。
色とりどりの花火が一度に数百発打ち上がった。
愛殺コンテンツは、永久に不滅だ!
《 愛した人を殺しますか? ──はい/いいえ 二次創作 愛殺新訳外伝 第三章 「ラムズインワンダーランド」 》
特設サイトで海賊の王子様が一位になるのに時間はかからなかった。
ラムズインワンダーランド。夢の世界は皆と共に始まったばかり──
CAST
ラムズ・シャーク
メアリ・シレーン
ヴァニラ
ジウ・エワード
ロミュー・ヴァノス
リジェガル
ラピスフィーネ
東城洋介
東城美咲
東城遥
翻訳・企画・協力
夢伽莉斗 様
執筆・脚本・演出
松コンテンツ製作委員会