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愛殺新訳外伝  作者: 松コンテンツ製作委員会
第一章「ラピスフィーネの首飾り」
3/29

第3話『ラピスフィーネの首飾り・天国篇』

 舞台は地球を離れ──異世界愛殺世界。


 コムロフ大佐はペイナウ大陸を異世界の本拠地と定めていた。

 ロシア海軍の大艦隊で島を包囲している。

「ラムズが言ってたわっ……自衛隊(じえいたい)が来たらあなたたちなんかすぐに倒せるって」

 コムロフは意地汚く嘲り、嗤った。

「とうとう他力本願か! 来るものか、お前などのためになあ!」

 ラピスフィーネの首に手がかけられる。いよいよこれまでか。

「(ラムズ、せめてあなたと最期に──)」 

 

 その時だった── 


 空中に波紋が拡がり、鋼鉄の天使たちが宙に出現する。  



『──これよりアポロ作戦を開始する!』



 護衛艦やまとの舳先に仁王立ちするラムズのコートが風で翻る。

「野郎ども、波に乗るぞ!」

 ラムズはサーフィンでも楽しんでいるかのような顔でやまとを乗りこなす。

 海上自衛隊護衛艦まや、ちょうかい、くあまが魔法円を纏いながら大空を駆ける。数千トンの質量を空中でぶんまわすのはアポロ宇宙船を月に送り込んだ超巨大宇宙ロケットだ。

『サターンロケット、燃焼終了まで三十秒! 着水に備え!』

 化学ロケットエンジンからの噴射炎と青色の魔法円が対照的で、科学と魔法のコラボレーション、愛殺異世界と現代日本が紡ぐ一大カタルシスを端的に象徴していた。

『5、4、3、2、1、着水!』

 派手な波しぶきを上げ、艦隊が着水した。

 間髪入れず洋介とラムズが甲板を駆け抜ける。

『カチコミ部隊、東城司令とラムズ船長を載せ発進!』

 ブラックホークの愛称で親しまれる戦闘ヘリコプターはラピスフィーネが幽閉された塔へ一直線に迫り、扉に据え付けられているM2ブローニング重機関銃をぶっ放す。

『屋上のクズどもを吹き飛ばせええええええ!』

 同時に戦闘ヘリコプターが機首のチェーンガンで城壁の兵士らを木っ端微塵に吹き飛ばす。

「「ぎゃあああああああ!!!!」」

 映像媒体であればモザイク必須なグロテスクなまでのその光景にラムズの麗しい青い瞳に臓物が映り、恍惚の色を浮かべる。

 塔が揺らぎ、正八角形に塔を結ぶ城壁が軋んで崩れていく。 

「今だ、ラムズ船長!」

 戦場のどさくさに紛れて洋介はタメ口になる。

「任せろ」

 ラムズは縄ばしごに左手、左足で掴まり、華麗な動きで塔に舞い降りる。

「迎えに来たぞ」

 英雄のごとく重たい扉を開け放ったラムズが世界中の誰より頼もしい解放者に思えた。

 ボロボロのラピスフィーネにコートを着せてあげる」

 自分を必要としてくれるラピスフィーネが宝石以上大切に思っているかのように……ラムズはどう思っているかなどわからないが。

「夢かしら、あなたが助けに来てくれるなんて」

 ラムズにお姫様抱っこされたラピスフィーネは彼の頬に手を添える。

「夢じゃない」

 ラムズが求められた理想の男性像を演じたのか、本心から言ったのか今のラピスフィーネにはどちらでもよかったにちがいない。

「ああ、可哀想なラピスフィーネ。こんなところから連れ出してやる」

 ラムズはそっと手と手を重ね、ラピスフィーネの腰に腕を回す。そのまま縄梯子ごとブラックホークヘリは二人のシルエットを引き上げた。

 

『これよりラムズ船長を海岸に降ろし、ガーネット号との合流を待ちます!』


     ◆◆◆


 ヘリコプターのブレードが轟音を立てながら砂煙を巻き上げ、ガーネット号の近くへラムズとラピスフィーネを降ろす。ラムズはガーネット号へ、洋介は指揮官として護衛艦やまとに戻る手筈だ。

 だが、ラムズは数歩駆け出しただけでその足を止めた。無数の敵歩兵部隊が砂浜に群がってきたからである。 

 無論洋介はヘリコプターからの射撃で援護するが、数が多すぎる。

 

「ここは任せてもらおうか」


 そのような中、剣を携えて現れたのは金髪碧眼のもう一人の王子様──


【 プルシオ帝国 リジェガル・ファウスティ・ペルシィア王子 】


 剣を切り結びながら白馬の王子……いや、ヒッポスの王子様はラムズに叫ぶ──

「ラピスフィーネは俺が引き受ける。海賊の王子さまはガーネット号に急ぎな」

「ああ? ああ、なんだかおいしいところを持っていかれたような気もするが、そうさせてもらうぜ」

「あ……待って、ラムズ!」

「なんだよ」

「ありがとう」

「そこの王子様に言ってやれ」


     ◆◆◆

   

 海と空の大パノラマのもと、砂浜で祈っているラピスフィーネの裸足が透明な波で濡れる。


 姫君が見つめる先では、護衛艦やまととガーネット号が古くからの友人のように並走し、海上自衛隊と海賊が共闘する一大カタルシスに双方の海の男たちが胸を熱くさせる。

 やまとは海賊旗を掲げ、ガーネット号は日の丸を掲げる。

 

 ……そのような光景をラムズは望遠鏡で見ている。

 ラムズは今、海上自衛隊の司令であり、ガーネット号の船長であり、ニュクス王国の貴族であり、ついでに言えばラピスフィーネにとっては王子様である。



「ガーネット号とヤマトは敵旗艦を追撃!! 海上自衛隊はニュクス王国海軍と共に敵主力部隊の侵攻を阻止する!」



 海賊の王子様は闘志に胸を膨らませ高らかに命じた。


 ともすれば忘れがちだが日本国とニュクス王国は同盟国である。

 鋼鉄の戦艦と木造の海賊船が連星のごとく入れ替わり立ち替わりコムロフの視界に現れ、とめどなき砲撃、砲弾の嵐を叩き込んでくる。

『全艦隊、フォーメーション2199発動』

 大海原に百花繚乱の爆炎が狂い咲く。

『牽引鑑接続完了』

 ただの合わせ技ではなく、護衛艦がガレオン船を牽引する二隻一組のバディを組み、ガレオン船は歩兵戦闘力と砲撃火力、護衛艦は動力に防御と役割分担する。

『撃ち方始め!』

 この時代の艦砲を侮ってはいけない。ガーネット号ですら実際に護衛艦むらさめを海の藻屑にしてしまった。そして新たなる敵ロシア反乱軍とてむらさめと設計思想が同じ紙装甲である。


 海自護衛艦のスピードとガレオン船の砲撃火力の前にロシア艦隊の損耗率は著しいものとなっていた。


 今や事実上の皇帝となりおおせた祖父であるウランゲリー・プシャーキン終身大統領から賜った艦隊が孫であるコムロフ・プシャーキン自らの手で消えていく。

 巡洋艦に陣取るそんな彼の背中に副官が声をかける。

「コムロフ大佐、モスクワより通信です」

「後にしろ」

『ほう、予の言葉は聞かぬと?』

 コムロフの背筋に冷たいものが滑り落ちた。

『手こずっているようだな』

「大統領閣下。何卒増援を」

『甘い!』

「……っ!」

『プシャーキン家の男なら、金も、権力も、女も自分の力で手に入れろ』

 コムロフの側近たちが迷いを捨て、脱出を始める。

『お前には国際刑事裁判所より処刑許可が出ている。なお、表向きロシアはこれに関与しておらず、お前ひとりが扇動した反乱ということになっている。作戦を提出された時は言わずにおいたが荒垣首相と予は旧知の仲でな』


 通信は終わった。巡洋艦が軋み、この革命ごっこの終焉を告げていたからである──


『錨ぶちこめ!』

『了解!』

 空母がからめとられ、護衛艦やまとに引きずり回される。

『錨巻き取れ!』

 派手な火花が巻き散らかされ、やまとの舳先が真っ先に向かっていく。

 そのままやまとは舳先から空母を押し込み、岸壁に押し当てた。

 敵のガトリングガンが反撃してきて太田は焦る。

「第一主砲塔、第二主砲塔被弾! 損害不明!」

「くそ、砲弾を使い果たした。もう攻め手がない!」

「ねえ、お父さん、ラムズお兄ちゃんは!?」

 洋介の娘は九歳の小さな身体に不釣り合いなヘルメットを両手で支え、問いただした。

「遥……」


「お母さんが言ってた。ラムズ様が来たら、こんな奴、すぐやっつけちゃうって……!」


「ラムズ船長は来る、必ずだ!」


 ──その時だった。


『海原に魔法円を確認! これは──ガーネット号です!』


 波濤を乗り越えて、彼らは来た!


「全砲門開け、狙いを定めろ!」

「やまとを巻き込むことになりますが!?」

「戦艦が簡単に沈むか!」

 戦場で育まれた、洋介へのラムズの揺るぎない信頼だった。


「「撃てえええええええ!!!!!」」


 ぶん殴るような砲弾の雨が空母に疾風怒濤の勢いで押し寄せ、すんでのところで護衛艦やまとが離脱。やまとは前甲板で無事だった副砲を持ち起こし、攻撃を諦めない。

「そうだ、たとえ生まれた世界が違っていても、俺たちは共闘できる!」

 奇しくもそれはガーネット号のマストをへし折ったOTOメラーラ127ミリ単装速射砲と同じ型であった。


「前部副砲発射用意! 同時にミサイル発射管全門開け!」

「太田、撃て! 撃って撃って、撃ちまくれ!」

「了解! 砲弾が尽きるまで、怒りを込めて撃ち尽くせ!」


 ラムズの青い瞳に映る空母がぐしゃぐしゃに弾けとんだ──‥‥‥


『敵旗艦轟沈……アポロ作戦を終了する。作戦終了』


 ──ここに、勝敗は決し、ペイナウ大陸より反乱軍は殲滅されたのである。


     ◆◆◆


「や~だ! ラムズお兄ちゃんと離れたくない!」

「ま~た始まった!」

 三年前三國志にタイムトラベルして司馬昭(しばしょう)とのお別れでぐずった時ほどではないものの、遥は別れを惜しむ。

 既に沖合では護衛艦に転移魔法がかけられ、旅立とうとしている。

 今護衛艦やまととガーネット号の間には移乗戦の要領で板がかけられている。

「やれやれ、どうしてこうもうちの娘は異世界のイケメンにときめくんだ」

 子供は純粋で素直で、ある意味羨ましいものだが。

 ラムズのフロックコートを掴む遥を洋介が制し、美咲がしゃがみ遥に視線を合わせる。

(はるか)、ラムズ様に忠誠を誓約しなさい」

 見かねたラムズは膝をつき、遥のおでこに甘い口づけをくれた。

「これでいいか?」

「あ、なんかすいません」

 洋介が礼を言い、美咲が異世界担当大臣として遥を説得する。

「遥、日本国とニュクス王国はまだ外交があるから、いつでも会いに来れるよ」

「ほんと!?」

「ああ、でも翻訳者さんとの調整次第だけどね」

「洋介、メタ発言やめーや」

「あっ!」

 両親の掛け合いに遥は吹き出した。どうやら笑う余裕はあるらしい。

 遥はようやく納得したようで、板をやまと側で渡っていく……この橋こそ、現代日本から愛殺世界へ駆けられた橋で、またいつでも繋ぐことができる橋。

 遥は三年前より大人になっていたようで、一旦帰ることに納得した。

「帰ろう、帰ればまた来れるから」

「ラムズ船長の言う通り。またこの星に遊びに来ますよ」

「ああ。今度は地球の翻訳者も連れてきてもらうか」

「えっ!? できるかな、今度俺たちの世界の訳者に聞いてみよ」

「はは、訳者どうしが仲違いしないといいがな」

「なんか耳が痛いな」


 そしていよいよ訪れた別れの時。 


「やまと、地球へ向けて発進!」


 護衛艦やまとに転移魔法がかけられ、大空に飛び立ってゆく

 甲板の海上自衛隊隊員が数百人も一斉に敬礼した。

 ニュクス王国海軍は敬礼し、海賊たちは思い思いに手を振る。

 天空の波紋がシャボン玉のように消えていく……

 その光景をリジェガルとラピスフィーネが見上げる……ラムズとメアリも。

「なあメアリ」

 視線を空飛ぶ艦隊に向けたまたラムズは言った。

「ラムズ?」

「俺、人間(ニンゲン)が何を考えてるかわかった気がするぜ」

「そうね、私も人間(ニンゲン)を信じてみようかしら」

 ふたりの手がわずかに重なり、指が絡み合い、恋人つなぎになった。









 《 【 愛殺新訳外伝:ラピスフィーネの首飾り 】 製作委員会presents 》









 ラピスフィーネの手にはラムズが取り返した宝石がエメラルドグリーンの綺麗な輝きを浮かべていた……





 CAST


 ラムズ・シャーク

 メアリ・シレーン

 ジウ・エワード

 ロミュー・ヴァノス

 ヴァニラ


 リジェガル王子殿下

 ラピスフィーネ王女殿下

 

 コムロフ・プシャーキン

 ウランゲリ・プシャーキン


 東城洋介

 東城美咲

 東城遥

 東城麗雪

 荒垣健

 立花康平


 フォロワー特別出演

 斯波高義(財務大臣役)

 青生土門(国土交通大臣役)


 参考資料

 オールアバウト海上自衛隊(イカロス社)

 空母いぶきGREAT GAME(小学館)

 Wikipedia


 現地取材

 戦艦三笠(2016年)

 海上自衛隊ミサイル護衛艦DDG173こんごう(2015年)

 同DDG176ちょうかい(2015年)

 

 作劇用小道具

 戦艦武蔵1/700プラモデル


 原作

 「愛した人を殺しますか? ──はい/いいえ」

 製作、脚本、演出

 松コンテンツ製作委員会



 Thanks to 夢伽莉斗 様



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