第17話『奴隷少女と宝石狂いの船長:第三幕』
──これまでの愛殺新訳外伝byレオン
俺も地球の二次訳者に頼まれて解説を頼まれたよ。現代日本と愛殺世界の中間にいる俺に白羽の矢が立ったみたい。はあ……
まったく松なんとかって奴、どんだけ二次創作を訳者さんに読ませる気だろう? 訳者さん翻訳で忙しいのに!
しかもヤマトだなんて、どこの宇宙戦艦だよ! 父さんの昔のビデオで見たなあ。ガーネット号との共通点船しかないじゃん。
ラムズ・シャークと東城洋介は何もかもが正反対だ。
海賊と海上自衛官。
海賊船船長と戦艦艦長。
貴族と庶民。
銀髪と黒髪。
美白と日焼け。
青い目と赤い目。
だけど、同じ船乗り。
船乗りは船乗りを見捨てたりなんかしない。
それがわかった時、洋介とラムズが互いを理解した時、シャーナちゃんが悪党に連れ去られる。
転売ヤーのバックにヤクザがいることはなんとなく知ってたけど、まさか愛殺世界にまで手を伸ばしているとは思わなかった。
ルテミスを奴隷にしているらしい。許せない……!
社会科の授業真面目に聞いていればよかった。
そんなこんなでヤマト発進! じゃなかった、今回の主役はガーネット号だよ! 洋介さんが主役だと二次創作じゃなくなる!
海賊の王子様はシャーナちゃんを救出しに戦うのである!
……これでいいかな? 監獄島上陸作戦ははじまってる、俺も戦いに戻らなきゃ、じゃあね!
そう、いつだって彼は王子様だった。
「みーつけた」
船長は優しいから、きっと来てくれると信じていた。
前もって知らされていたかのように、海賊の王子様はシャーナの牢の前で立ち止まる。
看守から手首ごと引きちぎった鍵を取り出し、迷いなくこの牢の鍵を選び、簡単に開けてみせる。
平手を差し出し、もう片方の手は後ろに回し、笑顔を作る。
差し出された手は痩せていて、白くて、綺麗だ。
「俺と来るのは嫌? そうか」
ラムズはくるりと背中を向けてしまう。
「待って……!」
わざと帰ろうとして女の子に引き留めさるラムズは最高にズルい。
「ずるいよ……帰りたくないわけないじゃん」
シャーナの緑の手がラムズの白皙の手に重なった。
◆◆◆
広場のステージには解放されたルテミスたちが集まっていた。
その中央に海賊の王子様は格好よく構えた。
「赤髪赤目たちよ、長き忍耐の時は終わった」
ラムズが魔道具のペンを走らせ、首枷に紋様が光る。
「「おお」」
ガチャリ、と拘束が外された。ルテミスは屈強な腕で引きちぎる。
「これからの歴史は、赤髪赤目の殊人が手を取り合い築き上げる」
ラムズは怯む黒服に侮蔑の眼差しを向け、
「お前たちにくれてやるのは、恐怖だけだ」
黒服は唸る。
「くそっ、海賊の王子様……!」
「──そこまでだ、皆!」
リューキがプルシオ帝国の兵団を連れ、広場に乱入してきた。
「この紋所が目に入らぬかああっ!!」
プルシオ帝国王室の紋章が高らかに掲げられる。
「「!」」
こちらにおわすお方をどなたと心得る! 畏れ多くもプルシオ帝国第一王子、リジェガル公にあらせられるぞ!」
「一同! リジェガル殿下の御前である! 頭が高い、控えおろう!」
「「は、ははーっ!」」
一斉に土下座……いや拝跪した。
威厳を保って君臨するリジェガルの代わりにリューキが悪人どもを詰める。
「その方、地球世界で転売をするだけでは飽きたらず、殊人と獣人を奴隷にするとは言語道断! 追ってニュクス=プルシオ帝国より厳しい沙汰があるものと覚悟致せ」
「畏れながら……畏れながら、殿下がこのような場所に現れるはずもない」
リーダーらしき黒服サングラスの男がいきり立つ。どうやら地球の転売ヤーがここのボスだ。
リューキはリジェガルに視線で指示を仰ぐ。
ロミューとジウが黒服の肩を押さえ、地面に組み伏せる。
「殺れ」
リジェガルは簡単なジェスチャーで黒服の処刑を命じる。
「成敗!」
リューキがサングラスの男の首を斬り捨てた!
血飛沫がジウの頬を濡らし、舌でそれをぺろりなめとる。
ロミューの口にも入り、唾と共に嫌そうに吐く。
ロミューとジウがズタズタの躯を引きづり、海に投げ捨てた。
《 愛殺新訳外伝シリーズ 第六章 「奴隷少女と海賊狂いの船長」 》
「なんだよ、いいところを持っていかれちまった」
ラムズが子供みたいに拗ねる。
傍らにはシャーナがいる。
「いつまでついてくるんだ? お前はもう自由だぞ?」
「ううん、私はラムズ船長のものだよ」
そんな台詞をシャーナは言った。
「仲がいいのね」
メアリがジト目になる。
ガーネット号は出港した。
波に揺られるガーネット号の船長室で、シャーナがラムズの腕に身を絡ませる。いつまでもこうしていたいらしい。
「へえ、そう。好きにしろ」
ラムズの玩具がまた増えたのだった。
ロゼリィがため息をついた。
「ラムズ・シャークはいつだってみんなの王子様なのですね。これまでも、これからも……ああ、なんと罪深い!」
めでたしめでたし……?