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嘘吐きは最終決戦の始まり?

 

「魔王軍がエルフィンに侵攻している!?」


 銀太郎は思わず目をむいて聞き返す。


「はい! 今、エルフィンでは魔王軍四天王を名乗るラスパールとフォルガスタが多数の手下を連れて街の中に押し入ろうとしています! 冒険者や騎士団の皆さんが軍勢と戦って戦況は拮抗していますが、四天王が本格的に前線まで出張って来た場合、今の戦力ではどうにもならない可能性があります!」

「だけど、そんなことを俺に言われても……」


 自信のない様子で答える銀太郎にネストは申し訳なさそうな表情をする。


「分かっています。銀太郎君が戻ってきたところで戦況が大きく好転するはずがないということは。……だから、私個人としては銀太郎君が戻ってくるかどうかは君自身が決めるべきだと思います」


 ネストの言葉に銀太郎は言葉を詰まらせる。


「(そうだ。勇者の力を持たない俺が戦いに出たところでなんの役に立ちはしない。ネストの言う通り、ここで逃げてしまえば俺たちは無事でいられる)」


「……おい! 受付嬢の姉ちゃん! 銀太郎はまだ来ないのか!?」


 しかし、水晶越しに聞こえた荒々しい声を聞いて、銀太郎はその声の主に思い当たる。


「申し訳ありません、ガンナバルク様。通信魔法の調子が悪いみたいで……もしかしたらこのまま繋がらないのかもしれません」

「クソッ! 銀太郎さえいればなんとかなるかもしれないってのに……」


 ガンナバルクは姿こそ見えないものの、外から聞こえる剣戟の音の激しさから、相当切羽詰まった状況で言っているのだと分かった。


「……けど、銀太郎に頼ってばかりでは俺様たち冒険者が魔王軍から大したことのない奴らだと思われるかもしれねえ。だったら、銀太郎無しでもやれるってところをみせてやらなくちゃな!」


 ガンナバルクのその台詞が銀太郎の心を揺らした。


「――ネスト。俺も今から街に戻る。何が出来るかは分からないけど、俺も彼らのために何かをしたい」


 銀太郎がネストに向かって、覚悟を決めた表情で言い放った。


「銀太郎君!」


 ネストは表情を明るくして勇者の名を叫んだ。

 銀太郎は背後の仲間たちを振り返る。


「みんな、これからよく聞いて欲しいことがある」


 そして、勇者はもう一つの覚悟を決める。


「実は俺、本当は凄くもなんともない、勇者でもなんでもない、見掛け倒しの大嘘吐きだったんだ」


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