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嘘吐きは悪魔契約の始まり


 リッキーが自らの正体を明かした瞬間、彼女は気を失って身体から黒い霧のようなものが噴出する。


「――あらあら、秘密を簡単に喋ってしまうなんていけない子ね」


 どこからともなくそのような声が聞こえると、黒い霧は人のような姿に収束をしていく。

 やがて、収束した霧はコウモリの翼と山羊の角が生えた豊満な身体を持つ人間の女性に姿を変える。


「この瘴気……悪魔ね! 銀太郎! 気をつけなさい!」

「なっ、いきなりそんなことを言われても――」


 銀太郎は剣を構えるが、現れた悪魔は愉快そうに微笑む。


「出て来ただけなのに剣を向けられるなんて怖いわ。戦うつもりで現れた訳じゃないのに」

「お前、何者なんだ……」

「私はナルタロ。リッキーと契約している悪魔よ。普段はリッキーの身体に宿って生活をしているのだけど、今回はあなたたちとお話がしたくて出て来たの」

「残念だけど、あなたとするような話はないわ。悪魔ならば魔王軍の手先ということで間違いないはず。何を企んでいるのか知らないけど、ここで退治させていただくわ」

「(女神様は何を言っているんだ。俺に悪魔なんて倒せる訳がないだろ!)」

「……まさか、そこの子が私と戦うというのかしら? 彼の強さでは私に敵わないわよ」

「(この悪魔、俺の実力に気づいている!?)」

「ラスパールはごまかせたみたいだけど、この私の目は欺けないわよ」

「そんな……君はただの悪魔じゃないわね?」

「何を言っているの? 私はただの悪魔よ。人の精気を操る夢魔のナルタロ、それが私という悪魔。リッキーの願いを叶えてステータスを書き換えたりしたけど、悪いことはしていないわ」

「それが悪いことよ! 少女の身体に憑りついて勝手にステータスをめちゃくちゃにしたのは君の仕業だったのね!」

「女神様もお怒りかしら? だけど、ステータスを書き換えて欲しいと願って私と契約を交わしたのはリッキーの方なのよ」

「どういうことだ?」


 銀太郎は引っかかりを感じて構えていた剣をおろす。


「そっちの彼は物分かりが良いわね。つまり、私が仕えているのは魔王ではなくリッキー。私としては寧ろ、魔王を倒して欲しいと思っているくらいよ」

「私たちの敵……じゃない?」

「証拠を見せて欲しいと言いたげな顔をしているわね。構わないわ。じゃあ、行きましょう」

「どこに行くって言うんだ」

「それはもちろん、この事件の発端となった場所、悪竜ストレグラスの住まう洞窟よ」


 ナルタロは銀太郎と目を合わせて不敵な笑みを浮かべるのだった。


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