1.誕生
「*」は場面転換です。
一番上のシーンは主人公が胎児の時。
二番目は、主人公が産まれて半年くらい?
三番目は二歳の時です。
前世の記憶ないです。
後書きに補足説明みたいなの入れました。
からだの周りがピリピリする。ぴりぴり。
なんだ、これ。
下の方にでっかいぴりぴりするのがあるぞ。
横の方にもあった。
手を向けてみる。
手がぽかぽかした。
あ、わたしの中にもちいさなぴりぴりするのがある。
わたしの中のそれから、もっと小さいやつがながれてくるのを感じる。
わたしの、ちいさいな。
おおきくしたい。
どうしたらおおきくなるのかな。
下の方のやつはすいこめるかな。
すう。すう。
できない。
横のやつはどうかな。
すう。すう。
できない。
わたしのやつ、全然おおきくできないや。
こんなちいさなやつ、いらない!
だしちゃえ!えい……あっ。
すぴー。
すぴー。すぴー。すぴー………
はっ。
いけないいけない。
わたしのちいさいやつを出そうとおもったら、ねちゃったみたい。
あれ、わたしのやつおおきくなってる!
だしたらこうかんしてもらえるのかな。
もっとだしちゃえ!えい……あっ。
すぴー。
*
「おめでとう、元気な女の子だ!」
わたしを持ちあげるなにかから、なにか音がきこえた。
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」
おぎゃあ。
何かの前に降ろされた。
それに触ってみる。
あっ。
下にあったはずのあれが、目の前にある。どうして?
「おお、お前に似て可愛いじゃないか」
今度は横にあったあれが上に来た。どうして?
でも、これ、暖かいな。
「でも、貴方に似て凛々しいわ」
目の前の、下にあったあれの持ち主は、わたしを触ってくる。
前は横にあって今は上にあるそれの持ち主も、わたしを触ってくる。
これ、安心する。
気が抜けちゃう。
あっ…すぴー。
*
色々わかった。
下にあったあれの持ち主は、ママ。
横にあったあれの持ち主は、パパ。
ママは、おっぱいを飲ませてくれる。おむつも替えてくれる。
パパは、ママよりもおむつを替えてくれる。
あと、どっちも一緒に寝てる。
時々、私が寝るちょっと前に、パパはママを抱っこして揺さぶる。
それと、おむつにうんちした時は気持ち悪い。うん。
パパとママは、色んな物を口に入れる。
茶色い平べったいやつとか、緑のやつとか、赤のやつとか。
ママはそれを作るんだけど、作る度に、ママのとこから強くビリビリ感じる。
まあ、私の方が強いやつ持ってるから、泣かないけどね。
だけど、余りにも不思議だから、ママが作る時は大体じっと見つめてる。
「リリカ、気になるの?」
ママは私に話しかける時、「リリカ」って言う。
私はリリカなんだな、って思ってる。
「近くで見てみる?」
ママが言う。
するとママは、私を持ち上げて、肩にかけてる布で私を包む。
私は、ママが作ってるとこを見ることにした。
「♪〜」
ママが歌ってる。
ママが何かを作る時は、絶対にこれを歌うのだ。
ママが白いごつごつしたやつと、オレンジの細長いやつと、赤い平べったいやつを切る。
ママは、それを、飴色の丸いやつが入ってる入れ物に入れる。
すると、じゅーって音がする。
ママは、それをかき混ぜる。ずっと。
私が眠たくなってきた頃、ママの動きが変わる。
ママは、じゅーって言ってたやつを銀色の大きな筒に入れて、水を入れて、それを、さっきの入れ物が置いてあった所に置く。
そして、棒を取り出す。
取り出して、スイッチを押した。
すると、周りから、私にいっぱい流れてて、パパとママにもちょっとだけ流れてるあれが、ちょっとだけ棒の先に集まってきて、そして、銀色の大きな筒に流れて行って、それに当たった瞬間。
―弾けた。
まだ流れて行ってる。
そして、中の水からぐつぐつって音がした瞬間、ママがスイッチから手を離した。
すると、流れも止まった。
これ、知ってるぞ。
どこかで見た。
だけど、どこで見たかは分からない。
「きゃははははっ!」
私は喜んだ。もう大喜びだ。
「うふふ、そんなに良かったの?」
ママは歌うのをやめて言う。
多分ママはにっこりしてる。
だけど、私が余りにも大喜びではしゃぐから、布から出されて、ベットにもどされちゃった。
私がいつも体から出しては起きた時に増えるあれで、あんなことが出来るなんて!
その日は、ぐっすり眠れた。
*
私、リリカ2歳!
元気な女の子ですっ!
好きなものは、友達のくーちゃん!
くーちゃんはクリスちゃんで、私と同い年の可愛い女の子!
くーちゃんは綺麗なマーマレード色の髪で、前髪は揃えられてて、後ろはポニーテール。だけど、髪がサラサラすぎて、私と遊んでるとすぐに解けちゃうのが悩みみたい。
目は、夕焼けみたいな朱色。きりっとしてるんだけど、どこか優しさを感じる様な目。
他にもおでことか、まぶたとか、鼻とか、唇とか、ベロとか、顎とか、うなじとか、肩とか、脇とか、腕とか、肘とか、手指とか、おっぱいとか、お腹とか、お臍とか、背中とか、お尻とか、ふとももとか、膝とか、足指とか、可愛いところいっぱいあるんだけど、教えてあげない!
あ、でもこれは秘密なんだけど、くーちゃん、可愛くないところが一つも無いとこも可愛いんだよね!言っちゃった!きゃー!
それで、今日は、くーちゃんと遊ぶの。
公園の広場で大きな大きな山を作るんだ!
楽しみ〜〜〜!うふふふふふ
でも、くーちゃんとは一日に一回しか遊べないのは、ちょっと悲しい。
もっと沢山遊べる様にならないかなあ。
あっ!くーちゃん来た!
「ママ、くーちゃん来た!」
ママに言う。
ママは、公園に来ると、いつもベンチに座って本を読むり 。
だから私は、公園に来ると、ママの横に座ってくーちゃんを待ちながらそわそわする。
「毎度の事ながら、良く見てるわね〜」
「まあくーちゃんの事だからねー!」
すると、お母さんが頭を撫でてくれた。
「えへへ〜」
私がくーちゃんを見つけたら、いつもこうしてくれるんだ。
くーちゃんの事は全部知ってる。くーちゃんがあんなにもかわいいから、くーちゃんの事を全部知りたくなっちゃう。だから、くーちゃんのパワーをずーっと追いかけることにした。
それで、くーちゃんの方に手を向けると、くーちゃんを感じて手がぽかぽかするの。くーちゃんと一緒にいない時は、それが一番の幸せ。
くーちゃんがいない時は、お母さんに頭を撫でて貰うのが二番目に幸せ。
できればずーっと撫でてて欲しいんだけど、でも、この前それは出来ないって怒られちゃったから、我慢してる。
でも、今は、くーちゃんがいる。
くーちゃんが来た!
私はベンチから降りて、くーちゃんの所まで走って行く。
「くーちゃーん!!」
そして、くーちゃんに抱きつく。
「わあ、リリカちゃん!」
「えへへ、くぅちゃーん」
耳元でくーちゃんの声がする。
耳にくーちゃんの息がかかる。
それだけで蕩けそうになる。
思わず、くーちゃんをぎゅーーって力強く抱き締める。
「あっ…もう、リリカちゃんったら…」
くーちゃんの宥める声。優しい声。
脳まで蕩けそうになる。
ああ、綺麗な髪。
ああ、綺麗な瞳。
ああ、綺麗な眉。
ああ、綺麗な鼻。
ああ、綺麗な唇。
ああ、綺麗な舌。
全部全部。
―食べちゃいたいくらい綺麗だ。
だけど、それをやっちゃうと、もうくーちゃんには逢えない様な、そんな気がする。
だから、抑える。
ぐっっっと。
この瞬間が、私は一番嫌いだ。
一番好きなくーちゃんを食べたくなっちゃう自分に。
くーちゃんの為でなく、自分のために、それを抑える自分に。
嫌気が差す。
自分が、嫌いになる。
くーちゃんが「好き」と言ってくれる自分のことが。
後はそれの繰り返し。
でも、世界一好きな時間は、世界一嫌いな時間のすぐ後に来るものだ。
くーちゃんとお山が作れる。
くーちゃんとお山が作れるのだ!!!!
他の誰でもない私が、世界でただ一人、くーちゃんとお山を作ることができるんだ!!
この瞬間だけ、私は私を好きになる。
私は、私に産まれて良かったな、って、そう思えるようになる。
「ねえねえくーちゃん」
私は話しかける。
「なあに?」
くーちゃんは応えてくれる。
「大好きだよ」
「私も、リリカちゃんのこと大好き」
ああ。
やっぱり私は、くーちゃんのことが大好きだし、くーちゃんに大好きって言われる自分も大好き。
これが、私の、世界一の日常。
他の誰にも、くーちゃんにも送れない、私の日常。
楽しいなあ。楽しいなあ。うふふ。
補足説明です。
・「ぴりぴり」はプロローグと変わらず魔力の存在を示してます。
・母親が使ったのは、棒の先に魔力を集めて、向いている方向に流し、ぶつかった物体を加熱する魔道具みたいな物だと思ってください。
・これから魔力が使えるようになる主人公と勇者以外の人間は、自分の意思で魔力は使えません。
ここら辺は次話本文中に説明入れる予定です。
あと、筆者は胎児の頃と乳児の頃と2歳児の頃の記憶は持ち合わせておりませんので、今話の主人公の知能のレベルは、人類最高クラスである可能性が非常に高いです。ですが、歳が上がるに連れて標準に近付いて行ってくれればいいかなー、と。
2歳児が自己嫌悪に陥ったのも、次話で辻褄合うといいなー…