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昔、ライトノベル好きの友人と
『ネットに上がっている良さげなイラストをお題にして小説を書こう』
という試みをしました。その一つです。
この小説の元となったイラストは、
・ サラサラストレートな銀髪の、男にしては髪が長い青年が一人立っている
・ 無表情で体ごと左を向いており、クールで美しい横顔と上半身が見える
・ 左の青い瞳だけがこちらを見ている
・ 右手で女の子用の小さな赤い傘をさしている
・ 背景は、小雨の降る住宅街
って感じのものだったと思います。素敵な絵でした。
何となくお題のイラストは思い浮かびましたかね?
それでは、お読みくださいませ。
どこにでもある住宅街の、どこにでもある道路。
雨が降りだして初めて、しまったと思った。
降りそうだとは思って、舞が保育園に傘を持っていっていないことに気づいたのまでは良かった。しかし、自分の傘を忘れた。
仕方ないので、子ども用の赤い傘を開く。小さい。
雨は小降りだったので、まぁいいやと思って、少し濡れた。何故か、周りからの視線を感じる。
仕事の昼ホスで疲れもしているし、少しだけ酔ってもいる。そもそも舞を引き取ることになったのが、ホストをやっていたからなのだ。
でも、舞を育てるのに十分な収入を得て、一緒に過ごす時間も確保するには、ホストを続けるしかなかった。稼がなければいけない曜日である土曜だけ、夜も出てくれと言われている。
幸いにも、保育園につく頃には雨はまた弱くなって、晴れ間も見えていた。園の遊び場まで入ると、保母さんが一人外に出ていた。ブレスケアで、息は大丈夫。
「後藤です」
「舞ちゃんのお父様ですねー。可愛い傘ですねぇ」
「……はい」
「あらあら、お仕事お疲れ様です。今まいちゃん呼んできますねー」
言って、保母さんはとたとたと奥へと消えた。
子ども相手の仕事だからだろうか。保母さんの多くが、僕の無表情で少ない言葉でも、会話がスムーズに成り立つ。大抵の人は、狼狽して不自然に会話を切り上げる。
そういえば僕とまともにコミュニケーションがとれる教師は、小学校には5人、中学校では一人だった。小学生の時は、友達もわかってくれたけど、中学になると誰にも伝わらなかった。高校では教師にはいなかったけれど、同級生に晁がいた。
あの赤レンジャーのような友人が同じ大学じゃなかったら、僕の大学生活はさぞつまらないものだったろう。
リュックをからったツインテールの舞が、違う保母さんに連れられてやって来た。
「りょーすけくん、おつとめごくろうさま! は!?」
舌がまだ上手く回らない年齢の舞の頭を、くしゅくしゅと撫でた。子どもらしい、軟らかい髪だ。
「お迎えお疲れさまです。傘、お持ちでないなら予備をお貸ししましょうか?」
連れてきた保母さんが、言う。
「……いえ」
「遠慮なさらなくとも大丈夫ですよ?」
「……どうも」言って、傘を取らずに背を向けた。伝わらない人のようだ。
「……まいちゃん、ばいばーい」
保母さんの声は、戸惑いを含んだ調子だったが、仕方ない。
「ばいばーい、せんせー。りょーすけくん、かりてるの忘れちゃいそうだから、かりないってー!」
……舞の母もそうだったが、舞は僕の言葉をよく理解した。フォローもしてくれているようで、園での僕の評判は悪いものでもないようだ。おばさんたちの、格好のゴシップの対象ではあるようだが。
銀髪とカラコンは、オーナーの指示です。
僕が持つ傘の下へ走ってもどってきた舞は、歩きながら今日の出来事を話す。僕は歩きながら聞いて、ときに驚きときに嬉しく思って、相槌を打つ。
少し歩き、舞の話しが尽きたところで、仕事中に来ていたメールのことを思い出した。
「舞、今日はあきらは」
「あきらおにいちゃんしごと?」
「今日の夜には大阪」
「そっかー。また今度だね」
舞は聞き分けよくしつつも、寂しそうにうつむいた。その表情が、僕の胸を打つ。
僕も会いたいし、電話してみようか。