9話 初めてのモンスターとの出会い
「ここが採掘場?」
「そのようですね」
少し歩くと。岩肌が多く見えている山の麓に来た。山の表面には、ポツポツとキラキラ光る石が見えていた。恐らくこれが、シネスが言っていた鉱石だろう。
「では、早速始めましょう!」
ミルカはそう言うと、カゴの中に入れておいたピッケルを取り出し、よいしょっ……と振りかぶり、カンっと、軽やかな音を立てた。すると、鉱石は簡単にポロっと取れた。
「おぉ!簡単に取れますね!」
「だな」
僕もカゴの中からピッケルを取り出し、近くにあった鉱石に狙いを定め、思い切り振りかぶる。
ガキーン!!
すると、ミルカと同じピッケルを使っていないと思わせるほどに、鈍い音が鳴り響いた。
「いっっったぁぁ!?」
簡単に取れたミルカの鉱石とは違く、僕の鉱石はビクともしていなかった。それにより、跳ね返された反動で、手から全身に電撃が走った。
思わずピッケルを離し、手を抑えその場に蹲る。
「だっ、大丈夫ですか!?」
それを見たミルカが僕の元へ駆け寄って心配してくれてる。しかし、同じ鉱石にここまで違いがあるとは……。僕は鉱石を恨みがましい目で睨んだ。それを見たミルカが「あはは……」苦笑している。何故かは分からない。
「他の鉱石なら、簡単に取れるかもしれませんよ?」
ミルカがそう提案してきた。なるほど……と思い、違う鉱石を叩いてみる。
ガキーン!!
「っっ……!!」
右手を抑え、蹲る。しかし、先程とは違い、鉱石がポロッと取れた。取れたのはいいけど、代償がデカすぎると思う……。僕が痺れている手を抑えながら隣を見ると、ミルカがカンッと軽やかな音を立てて、鉱石を採掘している。……なんか複雑な気分。
この後、何とかコツを掴んで、何回か一回はカンッと軽やかな音が鳴るようになった。僕たちは、夢中になって採掘していると、周りが何やらざわざわしていることに気づいた。
「……何か辺り騒がしくないか?」
「そうですね……」
ミルカも僕の言葉で気づき、辺りを見渡す。鉱石採掘しに来ているだろう鍛冶師の人たちが、ぞろぞろとこの場所から離れだしている。何があったんだ……?と首を傾げていると、ある“音”が聞こえてきた。
ズシンッ……ズシンッ……
「……何?この音……」
その音は、地面を微かに揺らしていた。その音は、徐々に大きくなってくる。……近づいてくる……、僕は無意識にそう思った。その音は、山にある洞窟の中から聞こえてくる。
ズシンッ……ズシンッ……
その音は、とうとう洞窟の出口まで来ている。僕達は、洞窟から出てくる音の原因を、固唾を呑んで待つ。すると、洞窟の中から、大きな足が出てきた。いや、足と呼ぶには、足の肉がただれて醜くなってている。
「あれはっ……!」
ミルカは、その足を見て、小さく呟く。どうやら、あの化け物の正体を知っているらしい。周りの奴らの反応もミルカと同様だから、この場で正体を知らないのは僕だけだ。
そして、その化け物は、洞窟の中から正体を現した。
「ブフォォォォォ!!」
洞窟の中から出てきたのは、肉が醜く爛れている豚のモンスターだった。あの姿、どっかで見たことあるような……?
「なんでこんなところにオークが……?」
そうそう、それだ!ゲームとかで定番のモンスター!でも、ゲームより姿が醜すぎる。でもたしか、オークって……
「ブフォォォォォォ!!」
オークは、ミルカを見るなり、全速力でこちらに向かってきた。ミルカは「ひっ……」と小さく悲鳴をあげ、僕の後ろに隠れる。確かオークって、性欲が強いんだっけ?まさに女の敵そのものだ。
「逃げるぞ!」
「はっ、はい……!でも……」
ミルカの足を見ると、ガクガクと震えている。どうやら、オークの恐怖で足が竦んでしまったらしい。そんなやりとりの間にも、オークはこちらに向かって走ってきてる。迷っている暇なんてない……!
「ちょっとごめん!」
「えっ……!」
僕は、ミルカを抱き抱え、全速力で走った。いわゆるお姫様抱っこだ。幸いにも、下はスカートだったから走りやすい。
「後で土下座でもなんでもするから、今は耐えて!」
いきなりお姫様抱っこされるのだ。恥ずかしくないわけがない。でも、今はミルカの気持ちを考えている暇はない。だから、後でちゃんと謝ろう。
「いや……別に嫌では……」
僕の腕の中で、な何かを呟いているような気がしたが、気にしている余裕なんてない。どこか、隠れられそうな場所……!そう思い、辺りを見渡す。すると、オークが通れなさそうな、小さな隙間があるのに気づいた。ちょっと狭いけど、入れないほどの狭さじゃない。
「ブフォォォォォォ!!」
後ろを見ると、未だに追いかけて来ている。オークとの距離は、隙間にギリギリ間に合うかぐらいの距離だ。そして、僕はその隙間に滑り込むように入った。
ドカンッ!
すると、隙間には入れないオークが、勢い余って僕達の目の前で激突した。ふぅ……間に合った……と息をつくと、既に下ろしていたミルカと密着状態になっている事に気づいた。
「尚人さん……」
その時のミルカの目は、少し熱っぽかった……。
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