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6話 元の世界

(ど、どど……どうしよう……!)


私は勢い半分で尚人を温泉に誘ってしまった。まだ私は脱衣所で着替えているけど、あの扉を開けば尚人と混浴することになる。なんでだろう……初めて入った時はそんなに意識していなかったのに、尚人のあの笑顔を見てから、ドキドキが止まらない……。


「私、どうしちゃったんだろう……」


今までこんな気持ち初めてだ。そもそも男の人と触れ合う機会すらなかったのだから。これってもしかして、前に本で読んだ、こーー


「うぅ〜………」


恥ずかしい事を考えてしまい、その場に蹲る。ここに人が居なくってよかった。多分今、私の顔は熱をもって真っ赤になっているだろうから。どうしよう……こんな顔、尚人に見られたくない……。


「でも、いつまでもこうしていられないしな……」


もう既に着替えがおわり、タオルを巻いている。もう、温泉への扉を開くだけになっている。でも、いざ扉を開こうとすると、心臓が激しく主張してくる。手も小刻みに震え、目もグルグルとなる。つまり……


(恥ずかしい……)


心の準備がで出来ていないということだ。でも、早くいかないと尚人に怪しまれる……。私は恥ずかしいという気持ちを押し殺し、扉のドアノブに手をかけた。


◇ ◇ ◇


ガチャ


「!!」


誰もいなかった静かな空間に、ドアノブの無機質な音が響き渡った。僕はその音に、過剰に反応してしまい、一瞬溺れかけた……。


「あの……お待たせしました……」


扉の向こうから現れたのは、タオルを巻いて、顔を赤らめたミルカだった。ミルカは、目を逸らしてはこちらを見るというのを繰り返しており、勿論僕も同じ状態だ。いや、これでガン見しなかっただけでも褒めて欲しい。


「と、とりあえず、湯船に浸かりましょう?」

「お、おう……そうだな」


お互いぎこちない状態で僕らは湯船に浸かった。岩の左右に分かれて、お互いの裸が見えないようにしている。しかし、すぐそこにミルカがいるっていう事実が、僕を動揺させる。


「「…………」」


しばらく無言の時間が続く。……気まずい。ただでさえ女の子と温泉入る事ですら想定していないのに、そこから会話をするとか難易度高すぎ。


「尚人君のいた世界って、どんな世界だったんですか?」

「……いきなりどうした?」


しかし、そんな空気を感じ取ったのか、ミルカが話題を振ってきた。これは有難いが、正直なところ、元の世界にいい思い出はない……。


「他の人にとっては、いい世界かもしれないけど、僕にとっては生き辛かった」

「……どうしてですか?」

「不本意だけど、僕は何故か女みたいな顔らしい。それで、色んな男から告白された。それで、周りの女からは恨まれた。まるで親の仇みたいな目線が日常的に浴びせられた」

「………」


ミルカは静かに僕の話を聴いてくれた。こんな話、バカらしくて親にも言っていなかった。まぁ、あんな親が僕の話を聞いてくれるか知らないけど。


「でも一番辛かったのは、女と間違われて襲われた時だった。すっげぇ気持ち悪かった。でもまぁ、たまたま近くに警官がいて助けてもらえたけど、もうこんな人生嫌だと思った。……本気で死にたいと思った」

「…………」


多分、その時僕の声は震えていたと思う。トラウマ光景を思い出していたんだ。自分でも分かるくらい体が……震えていた……。この話をして、ミルカはどんな反応をするだろうか。軽蔑されるだろうか。気持ち悪いと言ってた距離を取られるだろうか。でも、僕はそれに慣れている。だから……大丈夫……。


「大変……でしたね」

「………」


それは、形だけの同情じゃなかった。それは、今まで形の同情を浴びせられていたから分かる。本当にこの子は、自分のように悲しんでくれている。その事実に胸がキュッとなる。


「……泣いているのですか?」

「……泣いてない」


本当は爆発寸前だった。こんな風に暖かく僕を包み込んでくれる人は今までいなかったから……。でも、泣いているとバレたらカッコ悪いから、見栄を張る。でも、それも分かっているのか「ふふっ」とミルカは小さく笑った。……なんかくやしい。


「では、そろそろ上がりますか」

「そうだな」


既に、入った時のようなぎこちない感じは無くなっており、二人一緒に温泉を出た。



◇ ◇ ◇


「ふぅ〜、いい湯でしたね」

「あ〜……そうだな〜……」


僕とミルカは、向かっているベンチにそれぞれ座った。ミルカは座って髪を乾かしており、僕は近くにあった扇風機らしきものに当たりながら横になっている。


「もうっ!そんなだらしない格好して!」

「別にいいだろ〜?」


僕の過去暴露のせいで、今更恥ずかしさがこみ上げてきた。温泉に使っていたのもあり、体がすごく熱い……。扇風機にあたっていないtpぶっ倒れてしまうよ……。


「せめて、服着てからにしてください!」

「分かったよ……」


そう言われ、僕は渋々服を着た。そういえば、ミルカに裸見られるのも抵抗が無くなった。……これはいい変化なのか?でも、これに慣れたら、大切な何かを失う気がする……。僕は本能的にそう思った。





お読み頂いて、ありがとうございました!

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