2話 いざ外へ
「さて!行きましょうか!」
「いやいやいや……ちょっと待って……」
この国は男禁制の国。男がいれば即刻斬首刑らしい。それは分かる。分かるんだけど……
「この服着て、外に行くのだけはやだ……!」
ミルカが来ている服の青バージョンのドレスを着せられ、絶賛女装中。腹や太ももがスースーして新感覚だ。……こんな新感覚知りたくなかった……。初めは抵抗したが、見た目によらずミルカは結構な馬鹿力だった。僕が抵抗している間にも、一枚一枚服を剥ぎ取られ、ドレス以外ミルカが持ってきたバックにしまわれてしまった……。
「ですけど、ここにずっといるわけにはいきませんよ?」
「ぐっ……」
先程この場所を聞いたが、ここは召喚の儀式などを行う際に使う家だという。確かにここに引きこもっているのは得策じゃない。誰かが食料を運んできてくれるわけでも、電気や家電製品があるわけでもない。もしここに引きこもったら、一週間も持たずにニート生活終了するだろう。人生も一緒に。
「でも……」
「仕方ないじゃないですか!貴方……男だったんですから」
そう……服を剥ぎ取られた際に見られてしまったのだ。……どことは言わないが。僕もうお婿いけないかも……。その時のミルカと言ったら、顔を赤くさせたり青くさせたりと忙しそうだった。
「やっぱ行かないとダメ……?」
「ダメです」
有無を言わせない口ぶりに、これは何言っても無理だと思い諦めた。でも、この格好で外か……。絶対変な目で見られるよ……。
「大丈夫ですよ!貴方は可愛いんですから!」
「うん、それ褒め言葉じゃないからね?それに僕の心読めるの?」
あまり頭が良さそうじゃなかったから油断していた。これから気をつけないと……。
「?」
「やっぱ僕の思い過ごしだった」
これは何も考えていない顔だ。少しでも警戒した僕がバカだったよ……。まぁ、それは置いといて……本当に大丈夫かな……?
「早くいきますよ〜」
「まっ……!手を引っ張らないで……!」
強引に手を引っ張られ、僕の意思に関係なく玄関へと近づく。まだ心の準備がまだなのに……!そんなことはつゆ知らないミルカはどんどん進む。そしてーー
「ここが我が国、アシレンガットです!」
玄関を潜ると、そこには中世ヨーロッパを思わせるような家々が並んでいた。外に一歩出ただけで中世ヨーロッパにタイムスリップした感覚になる。しかし、道を走っているのは馬車などではなく、大きなモンスターだった。牛のような豚のような不思議な姿だ。
「あれって……」
「あぁ、あれはモースレンですね。モースレンは力が強いので、人や物を乗せた台車を引く時などに使われます」
手を引いていたミルカが説明をしてくれる。モンスターか……ゲームやアニメの中の世界だけの存在だったから、本物を見るなんて当然初めてだ。近所の犬や猫を相手にしているのとは格が違う。
「そんなに怖がらなくていいですよ。モースレンは草食で、おとなしいモンスターですから」
僕がモンスターを見て緊張しているのがバレたのか、そんな事を言ってくれた。その言葉にホッとして、再び辺りを見渡す。こんな経験普通はできない事だ。ちゃんと見ておこう。
「ブフォ?」
「ん?」
じっと見ていたら、モースレンがこちらを見た。そのままじっと睨み合う。そしてーー
「ブフォォォ!!」
「わぁぁあぁぁあ!?」
いきなりこちらに向かって走り出してきた。その目はまさに狩人……獲物を狩る目だった。このままじゃ確実に殺される……!僕は全力で逃げた。
「おとなしいモンスターじゃなかったのかよ!?」
「そのはずなのですが……!もしかしたら、貴方が男だからかもしれません……!」
「はぁ!?」
ミルカの話によると、モースレンは殆どがメスで、繁殖期になると別種のオスと交わり子孫を残すという。それってまさにーー
「なので、男である貴方に本能的には発情してしまったかと……」
「なんだよそれーー!!?」
オークといっても過言じゃないのではないだろうか?僕はそんな事を考えながら、モースレンから逃げ続けた。
◇ ◇ ◇
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……」
今はある路地裏の一角。モースレンは図体が大きく、この狭い路地裏には入れないだろうとミルカが提案し路地裏に逃げた。ミルカがいった通り、モースレンは路地裏に入ろうとしたが体が突っかかり、入ってこなかった。でも、街に出ていきなりこれはしんどい……。
「汗で服がひっついて気持ち悪いな……」
「そうですね……お風呂入りたいです……」
走ったおかげで、汗でドレスが僕の肌にひっついてくる。タオルなんて物は持っておらず、拭くものがないのでとても気持ちが悪い。早く着替えたい。でもーー
「確かに汗を流したいな……着替えても、この汗じゃすぐ服が汗まみれになるし……」
「あっ!そういえば、この近くに銭湯があったはずです!」
ほほう?銭湯か……。この頃行ってなかったし久しぶりに行きたいと思ってたし、いい機会かもしれない。
「なら、そこに行くか」
「分かりました!」
でも、この頃の僕はまだ気づいていなかった。この後起こる事に……。
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