14話 嫌な予感
遅れてすみません!
「なんで馬車が……?」
ここは小さくても森の中だ。モンスターも少なからず蔓延っている。そんな中を、馬車が走ってくるのは少し異様な光景だ。しかし、それ以外どこもおかしいところなんて……
「あぶなっ!?」
馬車は僕の前を無遠慮に通り過ぎていった。もし、一歩間違ってたら馬車に引かれていたかもしれない。馬車は、そんな事を気にする事なく、向こうへと走り去っていった。
「大丈夫かナイト!?なんだあの馬車……危ない運転して」
スミラスが小さく舌打ちし、馬車を睨みつける。しかし、その瞳から疑念の気持ちが読み取れた。
「何か気になることでも?」
「ん?いや……なんかあの馬車から、なんか嗅いだことのある臭いがしたんだけど……」
「臭い……?」
僕にはそんな臭い感じなかっけどな……。でも、スミラスは嘘を言っているようには見えなかった。すると、その様子を見ていたミルが微笑みながら言った。
「スミラスは、昔から鼻が優れていたんです。犬にも匹敵するのではないかってぐらい」
「おいおい……私はそれほどじゃないぞ……」
「ふふっ、どうでしょうね」
そんな会話をしていたら、馬車の事や臭いの事は既に笑い話になっていた。しかし、これがこの後、あんな大変な事になるとは、この時の僕達はまだ気づかなかった。
◇ ◇ ◇
「なぁ……一つ聞いていい?」
僕達は、スミラスとルミと一緒に、同じ宿に泊まる事にした。たまにはこういうのもいいと思う。部屋の割り当ては、僕とミルカ、スミラスとルミという具合だ。スミラスとルミが一緒なのは分かる……でもね?
「僕達が一緒の部屋はまずくないか……?」
「そう……ですね……」
僕が女装していようが、心も体も男だ。性に対しても、それなりに興味もある。そんな中で、男女二人が同じ部屋なのは非常にまずい。何がまずいって、僕の理性がやばい。非常に。
「とっ!とにかくっ!僕は床で寝るから、ミルカはベットで寝てくれ!」
「えっ?あっ……はい……」
流石の一緒のベットで寝るのはまずい。ここはレディファーストという事で、ミルカにはベットを使ってもらおう。僕は、一応どこでも寝れるし大丈夫だろ。
「じゃ、今日は特訓の疲れもあって眠いし、そろそろ寝るか」
「そうですね。じゃあ、お布団の準備をしますので、少々お待ちください」
「ありがとう」
ミルカが布団を準備をしている間、僕は武器を取り出し、スミラスに教わった武器の手入れをする。まだ習ったばかりで上手くはないけど、何もしないよりはマシだろう。
「出来ましたよ」
「わかった……って、え?」
見ると、ベットは綺麗に整っているが、床に布団は敷いていなかった。あれ?僕は床で寝ろと?
「あの……ミルカさん?僕の布団は……?」
「それが……その……」
ミルカは恥ずかしそうに身をよじる。なんだ?
「布団がなくて、寝る場所ベットしかなくて……」
「へ……?」
ミルカがこちらを上目遣いで見ている。これ、反則じゃないですか……?
「その……一緒に寝ませんか……」
「…………………え?」
この瞬間、僕の頭は真っ白になった。
◇ ◇ ◇
(なんでこうなった……?!)
僕は今、ミルカと一緒に寝ている。隣でミルカの寝息が聞こえ、心臓が暴れ出して寝れない……。自分でもよく理性が保っていのか不思議なくらいだ。
(……水でも飲むか……)
水でも飲めば、少しは気分が落ち着くかもしれない。ミルカを起こさないように、そっとベットを出る。確か外に井戸があったけ。
「あれ?スミラスさん?」
廊下に出ると、思わぬ人と出くわした。
「あぁナオンか。どうした?寝れないのか?」
「スミラスさんこそ」
「少し、昼間の事が気になってな」
「昼間の事?」
昼間というと、あの馬車の事かな?でも、それほど気になる事は……。
「あの時、嗅いだ事のある臭いがするって言ったろ?思い出したんだ、あの臭い」
「……何だったんですか?」
「私の友達の道具屋の臭い。何回も行ったことあるから、間違い無いと思う」
「道具屋の……?」
ルミも、スミラスの鼻は利くって言ってし、間違いないだろう。でも、何で馬車から道具屋の臭いなんて……。
「あの馬車が、店から調達した道具を運んでただけかもしれないし、杞憂だとは思うんだけど……」
珍しく、少し弱々しくなるスミラス。いくら普段凛々しくても、やはり女性なんだなと思わせてくる。いつもとのギャップも相まって、やけに心臓がうるさい。
「悪いな付き合わせちゃって。水飲みに行くんだろ?私もいいか?」
「ええ、それはもちろんいいですけど……」
「?」
スミラスの話を聞いてから、何故か妙な胸騒ぎがする。でも、これはただの自分の予感だ。こんな事言って、スミラスに不安をさせたくない……。
「あっ、いえ!行きましょう」
拭えぬ不安感を振り払い、この日の夜を過ごした。
次の朝、身支度を整えて、宿を出る。ちょうど玄関先でルミとスミラスと会った。今日も特訓の続きを……と思った時、向こうから男性が走ってくるのが見えた。
「スミラス!ルミ!大変です!!」
「サイセ?どうした、そんなに慌てて」
体は細身で、丸メガネという少し頼りない印象の男性は、片手に紙を持って、息を切らしていた。
「この方は?」
「あぁ、こいつは道具屋でアルバイトしているサイセ・スエンディだ」
「よろしくお願いします……って!そんな事をしている場合じゃないんですよ!これを見てください!」
「ん?なんだこれは?…………なっ!?」
僕も、横からそっと紙を見てみると、そこには……
『お前の大切な人は預かった。もし、返して欲しければ、お前が持っている『龍の血』渡せ。さもなくば、人質を殺す』
この瞬間、僕の嫌な予感が的中した。
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