13話 特訓
「ナオン!もっと早く走って!」
「は、はい!」
僕とミルカはルミとスミラスに戦い方を教えてもらっている。ミルカはミルに、僕はスミラスに教えてもらっている。理由は簡単だ。偶然にもルミは魔法の使い手、スミラスは剣の使い手だったからだ。
「ナオンが持っている短剣のメリットは、刀が小さい分小回りが利き、力を入れやすいんだ。しかし、その反面リーチが短い。素早く立ち回るのが鍵となる。そのためにはーー」
この人の教え方等は分かりやすくて助かる。的確に自分の足りない事を指摘してくれる。これ程心強い教官はそんなにいないのではないだろうか?しかし……
「とにかく走って持久力をつけるのが一番!戦闘時にスタミナが切れれば、短剣のメリットを上手く活かせないからね」
「はい〜……!」
とてもスパルタだ。かれこれ1時間は走り続けている。やばい……吐きそう……。しかし、オークの時やポイズンウルフとの戦闘の時、僕は何も出来なかった。その時の不甲斐なさを思い出し、自分を奮い立てる。
「よし!あと200周!」
「えっ」
その言葉を聞いた瞬間、意識が飛びそうになった。
◇ ◇ ◇
ルミとミルカは僕とは違く、魔力を操る特訓をしている。呪文を唱え、それを10分間維持する。回復系の魔法ならもっと維持時間を長くなるが、攻撃系の魔法なら10分間維持できれば大丈夫らしい。魔力の操作は簡単そうに見えて、体内にある力を外部に発生させ、それを維持して調整するのは結構難しいらしい。さっきから何回も失敗している。
「おっ、そろそろお昼か……。ナオンにミルカ、そろそろ休憩にしよう」
「「は〜い……」」
僕はスタミナ切れで、ミルカは魔力の使いすぎでへばっていた。その場にドサっと横たわると、お腹からぐぅ〜……と力の抜けた音がきこえてきた。力が抜けた瞬間一気に空腹が押し寄せてきた。
「はい、ルミが作ってきたお昼があるから、一緒に食べよう」
そう言ってスミラスは、大きいバスケットを持ってきた。それを開けてみると、バスケットいっぱいに入ったサンドイッチがあった。卵にハム、カツというバリエーションも豊富だ。見ているだけでヨダレが出てくる。
「じゃあ、いただきます!」
スミラスの言葉に皆は続くように「いただきます」と言って、サンドイッチを手に取り、口に運んだ。僕は卵サンドを手に取り、口に運んだ。食べた瞬間に香る卵の甘味に、マヨネーズが薄く塗ってあるのか少しの酸味が食欲をそそる。
「どうかかしら……?お口に合うと嬉しいのだけど……」
ルミが自信なさげに微笑む。
「凄く美味しいです!」
「はい!このハムサンドなんて最高です!」
僕とミルカは大絶賛した。それを聞いたルミは嬉しそうに恥ずかしそうに微笑む。スミラスは食べ慣れているのか黙々と食べている。僕達はスミラスに全部食べられる前に一つ、一つと口に運んで行く。
「そういえば、こんなにたくさんのサンドイッチどうしたんですか?」
僕はふと感じた疑問を口に出す。これだけたくさんサンドイッチを二人で食べきれるわけがない。その証拠に、スミラスは4〜5つ食べて、お腹いっぱいになったようだ。ルミも3つ程度でお腹いっぱい。このサンドイッチを全て食べ切れたのは、僕とミルカがいたためだ。偶然にあった僕達の分まで作ってくるのは不可能だ。
「ん?あ〜これか。今日、本当ならもう一人来る予定だったんだけど、急用で来れなくなったんだ。その連絡がこのサンドイッチを作り終わってからってだけだ」
「もう一人って、同じギルドの人ですか?」
「いや、昔からの幼馴染だ。今は都内の中央区あたりで道具屋を開いてる。今日の狩の目的も、道具の素材集めだったんだ」
納得した。たしかにこの量なら、3人だったら丁度良いかもしれない。でも中央区ってすごいな。中央区は、今、価格競争が激しくて何件か潰れてしまうくらい激しい区域だ。しかし、その区内で生き残っているという事は、相当のやり手と言うことだ。
「その人、中央区で店を立ててるって凄いですね」
「あぁ、結構儲かっているらしいしな。わたしにも分けて欲しいくらいだ」
スミラスはそう言って、冗談めかしく笑う。本当に仲がいいんだな……と思った。すると、突然スミラスとルミが何かを察知したのか、急に立ち上がった。
「ど、どうしたんですか!?」
「向こうの魔物が異様に騒がしい……」
「ここの魔物は穏やかなのに、おかしいわよね……」
スミラスとルミの目つきは更に鋭くなり、一点を見ている。僕とミルカのつられるようにスミラス達が見ている方向を見つめる。すると、その方向から土煙が沸く。そして、徐々に何かがこちらに向かって来る。
「皆、気をつけて」
ルミが皆にそう呼びかけると、僕達は武器を取った。戦力なるかは別として、自分の身は自分で守る。スミラスとルミも既に武器を構えている。僕は初めは魔物が向かって来ている……そう思っていた。しかし、こちらに向かって来たのは……
「荷馬車……?」
広い草原で、一つの異様な荷馬車が僕らの方へと向かって来た。
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