10話 オークの狙い
これはまずい……。まず何がまずいって、僕は女の子と密着したことなんてない。次に、ミルカの様子。何やら熱っぽい視線を………これは、男の僕からして、理性が持つか分からない。多分ミルカは、初めて?の男との密着で盛り上がってしまってるから、理性を失っているのだろう。ここは一旦冷静に……ステイ・クール……意味違う気がする……。
「ちょっと待ってミルカ……。今ここはまずい……」
人目もあるし、そもそも外だ。初めてがこんなハードプレイなんて、僕は求めていない。どうしようかと悶々と考えていると、すぐ側から「ブフッ……」と、嫌な音が聞こえる。
「まさか……!」
ばっと、音がする方に目をやると、そこには意識を取り戻したオークがいた。その鋭い双眼は僕達を見据えており、まるで凍ってしまったかと思うほど、体が上手く動かない。
「ブフォォォォォォ!!」
咆哮。自分を奮い立たせるかのような叫びに、僕の鼓膜は揺れる。思わず耳を塞ぐが、それでも耳の奥がかすかに揺れる。
「逃げないと……!」
瞬時にそう思い、逆方向を向く。しかし、そこは岩石に塞がれており、僕達では、絶対に通れなくなっていた。ー逃げ場がないー。それは、数分後には起こり得る最悪の結果を思わすには、十分な状況だった。
「尚人さん……」
ミルカが心配そうにこちらを見る。前方にはオーク、後方は岩石に塞がれていて、逃げ場はない。“死”という言葉が、僕の頭を埋め尽くす。だけど、その中で、確かにある別の感情があった。それは……
(ミルカは死なせない……!)
僕の背に隠れている、今にも消えてしまいそうな彼女。死という恐怖の中でも、この子を生かすという感情は失っていない。なら、もう十分ではないか。僕が、今すべき行動……それはーー!
「ミルカ……今から言う事をしっかり聞くんだ」
「え……は、はい……」
「僕は、オークの気を引くために、ここから飛び出す。オークが僕に食いついたら、そのまま逆方向へ全力で走るんだ」
「っ……!!」
それは、僕が囮になる事。僕は少なくてもミルカよりは体力がある。まら、ミルカを生かすには、これが最善ではないか。もう覚悟はできている。だからーー
「ダメですよっ!そんなの……!!」
ミルカがそう叫ぶ。目元に涙を溜め、一生懸命僕を止めようとする。僕の腕に抱きつき、行かせないようとする。……やめてよ。そんなんじゃ、覚悟が緩んじゃうじゃん……。
「でも、こうしないと、ミルカが助からないから……」
僕はそう言い、出来るだけ恐怖を隠すように微笑む。そっとミルカの腕を解き、スゥ……と静かに息を吸う。やけにうるさい心臓の音を体で感じて、一歩前に出た。
「こっち来いやぁぁぁ!!」
飛び出すと同時に、大声でオークに叫ぶ。オークは、僕の声に反応して、のそっと体の向きを変える。そうだ!そのまま来い!少しでも長くオークを引きつけてやる!
「ブフォォォォォォ!!」
雄叫びを上げた後、突進の如く、僕の方へ向かってくる。まだだ……もう少し……!出来るだけミルカから離すことを考える。途中で気づかれても、逃げ切れるくらいの距離を……!
「ミルカ!今だ!!」
オークをミルカから数百メートル離し、大声で叫ぶ。その声に反応するように、ミルカは岩陰から飛び出す。しかし、その瞬間、オークがミルカの方に気づいた。
(まずい……!)
ミルカは、オークに見られた事への驚きや恐怖などで、一瞬だけ立ち止まってしまった。このままでは、オークが向かってる最中でさえ、立ち止まってしまう可能性がある。くそ……!くそ……!!
「って、あれ?」
オークは、ミルカを見たものの、また僕の方を見て、突進の構えをする。あれれ〜……?オークは男の僕よりも、ミルカに行ってしまうと思ったのに……。などと、困惑していると、ミルカが「あっ……」と、何かに気づいたような顔をする。なんか嫌な予感がする……。
「尚人さん!!そのオーク……」
ミルカは一呼吸置いて、僕に確実に届く声で叫んだ。
「メスのオークです!!」
そう叫んだ……。
「はぁぁぁぁ!?」
待って待って!?まさか、僕達を見てたのって、ミルカを見てたんじゃなく、僕を見てたって事!?その事実に驚愕していると、オークがこちらに突進してきた。
「うぁぁぁぁ!?」
オークがオスじゃないのなら、話は別だ。オスだったら、まだ殺されるだけで済む。……殺される時点でダメなんだけど……。でも、メスだったら、最後の一滴まで搾り取られて、殺される。そんな最後絶対嫌だ〜!!初体験がオークとか絶対嫌だー!!
「こんっの!!」
僕は、先程の採掘場所に逃げて、ピッケルでオークの頭を叩く。しかし、当てどころが悪かったのか、少し血がるぐらいで済んでいる。これも、ピッケルが下手なのが原因かよ……。
「こっちに来るなぁ!!」
先程は、ミルカが震えていたけど、僕の方が震えてしまっている。後ろは壁。壁際まで追い詰められてしまった。あぁ……僕の貞操が……なんて、考えていると、ガチュ!と、なんともグロテスクな音が聞こえてきた。オークの頭にはピッケルが刺さっており、そのピッケルは脳や、頭蓋骨を綺麗に貫通していた。誰だと思い、オークの後ろに立っている人を身たら、僕は思わず固まってしまった。何故なら……
「ミルカ!?」
そこには、ピッケルをふった直後みたいなポーズをしているミルカが立っていた。
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