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妖狐お婆ちゃん  作者: 海蛙
6/16

3.孫の成長 (2016)

大きくなった孫と珠詠の絡み。

ある日の夕刻。

普段、珠詠が湯浴みする時間は家にいない孫の武義(たけよし)が今日は珍しく早く帰ってきていたので、

珠詠は久しぶりに湯浴みに誘うことにした、感覚的には小さかった頃の孫を誘うように。

「孫よ、お婆ちゃんお風呂入るとこなんじゃが一緒に入るかえ?」

「いや…婆ちゃん、この歳で婆ちゃんと一緒に風呂は入らないよ普通。」

珠詠の孫は成長し、高校生になっていた。珠詠にとってあの小さかった武義は

ほんの数日前の存在の様である。

「そうか、小さい頃は『お婆ちゃんの尻尾は僕が洗ってあげるね。』って言っておったのに…

時が経つのは早いのう。」

それを聞いた孫はしかめ面で嫌そうな顔をしていた、武義は読んでいた本に目を向ける。

「婆ちゃん、あまり俺を揶揄(からか)わないでいいから先入ってきてくれ。」

「…すまんのう。」

珠詠は耳をしょんぼりしながら浴室に向かうのだった。

武義はそんな珠詠の落ち込んだ背中に声をかけることができなかった。

「…少し言い過ぎちまったな…」

武義は栞を挟み本を閉じ、立ち上がった。



湯気立つ浴室の中、珠詠は体を洗っていた。

「いくら無自覚だったとはいえ儂も言い過ぎたかのう…嫌われてしまったかのう。」

武義が見せたあの嫌そうな顔を思い出し、珠詠は少し落ち込んでいた。

溜息をして自分の尻尾を前に回し百考していた。

「あの子が洗った後は少し毛がボサついてしまっていたが、気持ちが籠ってて嬉しかったのう…。」

過去を思い出しながら自分の尻尾を眺め抱えていると、後から浴室の戸が開く音がした。

「む? どうした孫よ、やはり儂と入りたかったか? じゃが服を着ておるのう。」

珠詠は振り返らずとも匂いだけで孫と解っていた、さらに極めて薄く漂う柔軟剤の匂いで

服を着ていることも。

「婆ちゃん、頼むからそのまま振り返らないでくれ。俺が尻尾洗うから…。」

予想外の孫の一言に目を見開き、欣欣(きんきん)とする珠詠。

「ほお…! そうかそうか、では頼もうかのっ!」

孫が少し強めに尻尾を握り空いた片手で洗い始めるが力強く尻尾を擦られ珠詠は反応した。

「んぅッ…」

「だァッ!!? もうっ婆ちゃん!! んな艶やかな声出さないでくれッ!!」

「ふふ、すまんの。男に力強く握られたのは久しぶりでな…ちょっと照れ臭いのう、ふふん。」

"ふふん"と言っても、珠詠の表情は恥ずかしそうな表情以外顔に出ていない。

「むぅ…爺ちゃんの仕業だなぁ? なあ、婆ちゃん。」

「ん、なんじゃ?」

孫の手がピタリと止まる。

「さっきは…その、酷い顔見せてごめんよ…。」

武義の言葉に珠詠は感動と感心、そして孫の成長振りを覚えた。

「気にするでない、儂もお前の気持ちを汲まなかったんじゃ、お互い様よ。」

「ははっ…ありがとう、婆ちゃん。」

仕切り直しとばかりに尻尾を洗う孫の手がまた動き始めた、しかし和解の嬉しさ故か、

さっきよりも擦る力強さが増し、珠詠は反応した。

「素直なところもお前の爺ちゃんに似てきよった…ひゃうんッ」

「だァァッ?!! 婆ちゃんってばッ!!」


久しぶりに孫に尻尾を洗ってもらった後、やはり毛がボサついてしまったが、

優しさと気持ちは相変わらず籠っていた。

顔には出なくとも嬉しそうにありがたそうにボサついてしまった自分の尻尾を

ゆっくりとさする珠詠だった。


・・・・・

・勝手におまけコーナー

武義の誕生日は珠詠と同じ、大雑把に言うと111歳差。

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