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妖狐お婆ちゃん  作者: 海蛙
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2.お仕事 (2016)

お婆ちゃんのお仕事とは。

日本の中心、東京。珠詠は部下の"縫治(ほうじ)"と仕事で渋谷に来ていた、

彼女たちは妖狐と思われる体の部位は隠している。

「あぁ…縫治、もう休まぬか? 儂はやはりこういう所苦手じゃ…ジメジメしておるし、

人混みがあまりにも多すぎる…森が恋しいのう。」

「何言ってるんですか白狐様、まだ来たばかりですよ。

それに今回の仕事はやり遂げないと人間たちに被害と不安を与え続けてしまいます。」

「…そうじゃったな、儂らがやらなければのう。ところで縫治よ、

なんで儂が都会の若人の格好をさせられてるんじゃ?」

いつもならピシりと着物を着ているはずの珠詠の格好は、現代の女性がするような格好であった。

白狐(びゃっこ)様とても若々しくて美人ですし、

こんな場所で着物なんて着てたら暑いうえに非常に目立ちもしますから。

私が選びました、似合ってますよ白狐様!」

縫治は珠詠の管轄直属の齢20代の部下であり人間の生娘とは何ら変わりなく、

現代の人間の文化をよく知っている妖狐だった。そして縫治が珠詠を白狐様と呼んでいるのは

珠詠の立場上、そう呼んでいるのである。珠詠への話し方がよく他の上司から指摘されるが、

珠詠はあまり畏まられることを好まないので、そのままにしている。

しかし縫治自身は時と場所によって弁えるべきところは弁えているので、実はしっかりしている。

「んんむ……まあいいのじゃけど。話を戻すが、"脱法香草"じゃったか?」

「はい、ここら辺に住んでいる妖狐によると人間に紛れて妖狐が脱法ハーブとやらを売っている

との話です。人間であれば警察の手で捕まえられますが、相手は妖狐です。」

「ふん…成程、警察の手からうまく逃げ果せてのうのうと稼いでおるということじゃな。

儂らの出番じゃ縫治、さっさと済ませるぞ。」

「了解…。」

人間に紛れ生きる妖狐は多く日本中にいる、多くいれば悪さをする者が出てくるのも当然であり、

それらを取り締まり平穏を管理するのが珠詠の仕事の一環である。

彼女にとって悪狐は矯正し匡正すべき存在である。悪事や欺瞞ばかりを人間にして、

もし正体がばれ挙句人間に殺されてしまえば妖狐という存在が悪のまま認知されてしまう。

妖狐たちが弁解する間もなく人間達は僻見で妖狐を憎み始めるだろう、

一度広まれば妖狐たちが介入する間など設けられるわけが無い。そうなってしまえば、

かつての自分のように意味も解らぬまま命を狙われる妖狐も増えてしまう。

珠詠にとってそれが最もあってほしくない結末なのだ。事が始まってしまってはもう手遅れになる。

「いつか儂らと人間が共存することができるといいんじゃけどなぁ…難しいじゃろうな。」



「ここじゃな。妖狐特有の匂いが駄々洩れじゃ、行くぞ縫治。」

縫治が真剣な表情で静かに頷く。珠詠と縫治が来たのは渋谷の路地裏、

スプレー缶による芸術の数々、吐き捨てられ黒ずんだ大量のガム跡、そこらに寝転がるホームレス、

如何にも治安のよろしくなさそうな場所である。

「結界は貼り終えてあります、包囲網も既に配置済みです。」

路地裏の壁の落書きに紛れさせるように書かれた術式に手を当てる縫治のその言葉に反応し

顔を上げたのは建物の上に座り込んでいる者、路地裏の壁に寄り掛かる者、

ダンボールを敷いて其処にみすぼらしい格好で座っている者。全てが変装した別動隊である。

「念のためということじゃな…良い準備じゃ。」



用意周到な彼女たちの手によってあっけなく悪さをしていた妖狐は捕まった。

「体…が動か…ない」

捕まった妖狐はそれだけ言って、妖術によって転送された。

体が動かないのは縫治の得意とする影縫いの妖術で体を固めているからである。

影縫いは、相手の影に媒体を通して妖力を送り込み、

生き物の関節を中心に体の可動部を封じるといった、もっと詳細に話すと長くなる術である。

媒体は自由なので様々な影縫いの方法があり、縫治は糸付きの針を使う。

因みに妖術とは遠い昔に幻術と共に"鬼道"と呼ばれ一括りにされていた、

人間は今やそんなもの有り得ないと文明に囲まれ生きている。

「後は刑罰執行の狐に任せるしかないのう、あやつどうやらこれが人間の中では違法とは

知らんかったようじゃ、人間の間で流されるにうす(ニュース)やら新聞などにも

目を通しておらず、その手の関係の騒動も気にしておらんかったとは。運の良い奴め。

しかし見よう見真似でよくここまでやりよったな。」

「ふう…白狐様、仕事も終わりましたしスターバッ○スでも寄りますか!」

「すたぁばっ…ん? 何じゃその横文字の店は…。」

「喫茶店ですよ、主に珈琲を取り扱ってる店です、お茶請けも売ってますよ。

行きましょう行きましょう!」

珠詠と行く喫茶店が楽しみだったそうで縫治はとてもワクワクとしていた。

珠詠はそんな元気な縫治を自分の娘のように思っている節があったので断り辛い為押し負けた。

「ぬぅん、仕方ないのう。

本当はこんなギラギラした街を抜けさっさと家に帰りたかったんじゃけどな…。」

「なんですかその思わぬ工事渋滞で赤いランプを眺めそうなそれは…。」

「ん? どういうことじゃ…?」

「いえいえ、何でもありませんよ。(そうだった…この方、現代の物は通用しないんだったなぁ。

そりゃあ○'zも分からないのは当然ね…。)」

「珈琲の匂いがしてきおったが、ここか?」

「あっ、そうそう此処です! 」

仕事終わりに一杯お茶をする為、彼女たちは喫茶店に入っていったのであった。



「縫治よ。」

「はい、何ですか?」

都会からの帰り道、少し申し訳なさそうに珠詠は言う。

「珍しく取り締まり現場に同行したというのに殆どお主らに任せきりじゃったなぁ…すまんのう。」

「頭をお上げください、謝ることなどありません。ああいった荒々しいことは我々若い衆にお任せを。

長く生きて達観した目を持っている者こそ、血の気多き若者の上に必要なのです。」

しっかりとした部下を持てたことに珠詠は安堵する。

「ありがとう…いつも助かっておる。ところで縫治よ。」

「何でしょう?」

なんとなく思ったことを聴いてみたかった珠詠。

「抹茶とはあれ程甘かったじゃろうか? なんか白いふわふわが載っておったし、

儂は最近普通のお茶しか飲んどらんからすっかり味を忘れてしもうてのう。

確か苦かった筈なのじゃが…」

「そうですね、本当は甘くないです。でも甘いと若者に受けが良いというんでしょうかね、

分からなくもないと思います。」

「やはり苦い茶が良いのう、儂の五臓六腑には苦味とカテキンが似合う。」

「白狐様そんな横文字ばかり憶えちゃって…。」

「いつか苦手な横文字は克服せんとな。それと縫治よ、今日はしっかりと休みなさい、

お主の力は相当に体力を消費するんじゃからな。」

縫治の使う影縫いは即ち自らの妖力を相手に流し込む術なので、

相手の妖力に押し勝たなければならない。押し勝てば相手の妖力の流路を遮断し

体のありとあらゆる部位を関節中心に封じることができる。

一方、押し勝つことができなければ無駄に体力を減らすだけになる。何れにせよ体力を大幅に使う。

そんな上級の術に類分けされる影縫いを使いこなす縫治は、

その道の若手プロフェッショナルということなのだ。

「はい、お母さ…っと違う、白狐様。ありがとうございます。」

「ふふ、良い娘じゃ。」

笑顔なくとも、縫治の可愛さに

「あ、そういえば最近武義君はどうですか?」

「ん? 孫か、あの子は今高校生じゃ、日に日に死んだ夫に似てきよってのう。」

「へぇ! それじゃあ今度久しぶりにそちらにお邪魔してよろしいですか?」

「全然問題ないぞ、歓迎しよう。孫はお前に会いたがっておったからな。」

彼女たちは何気ない日常会話をしながらゆっくりと帰ったのだった。



「あらぁ、珠詠母さん一体どうしたの!? 都会の若者みたいな格好してぇ、可愛い!!

写真撮っちゃおう!!」

「ち、違うんじゃ愛娘よ! 仕事上こうしなきゃならんかったのじゃ!!

や、やめぇい! 撮るんじゃない!! 儂の魂が抜かれてしまう!!」

娘の辰詠が構えるカメラの視界から外れようと必死な珠詠。

勿論、カメラの機能にそんなものが無いことは皆様もご存知だろう。

珠詠に現代の物は中々通じない。


・・・・・

この話の渋谷はちょっとしたフィクションが混じっているので

「そういうものなんだな」ということで気にしないでください。


・勝手におまけコーナー 影縫いの元

|元となった妖術は"石固め"という至ってシンプルな名前の妖術、

|直に接触するため影縫いよりも妖力を流し込む速度が速く

|一瞬で体全体を固め、影縫いよりも固く体を固める。

|技量次第では内臓も固めることができ、

|心臓や主要な器官を停めることで殺すこともできる。

|但し影縫いよりも体力の消耗が非常に激しい。

|場合によっては術者が死ぬ可能性もあり今や軽く禁術扱い。

|流せる妖力が限られる媒体を使った影縫いとして

|術の構成を善仙狐組合により改められる。

|因みに珠詠が術の指導を受けた時は改術前の時代だったので、

|そのまま石固めを教え込まれていた。

|元の術が使えるので勿論珠詠は影縫いを使える、媒体は不明。

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