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妖狐お婆ちゃん  作者: 海蛙
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1.愛別離苦と異変 (2015)

話は近代へ。

雲一つない晴れた青空の下で一人、珠詠は墓に来ていた。かつて愛し合った夫の墓に。

「のう、お前さんの夢を儂はまた見てしもうた…ふふ、

わしゃまだまだお前さんを愛し足りないのだな。

時たま、お前さんを求めて儂の体が疼きよる…お前はおらんのにな。

知っておったよ、妖狐の儂と人間のお前ではいつかお前が先に居なくなることくらい…

じゃがお前さんは儂の胎内に子供を残していってくれた、

そのお陰で今の幸せがあって淋しさは霞んでおるよ。それに辰詠(ときよ)が無事結婚しての、

お前さんそっくりの可愛い孫までできてしもうて、もう本当に心臓に悪くてのう。

儂もすっかりお婆ちゃん呼ばわりじゃ。肉体はまだまだ現役じゃけどな?

…毎年似たようなことを話してる気がするのじゃが、まあ許せ許せ…。」

故人に話をする。

"きっと聴いてくれている"その小さな希望に縋る事しか残された者にはできない。

「…辰義、儂をまだ愛してくれておるか? お前を失い、悲しみで笑顔を失ったこの無愛想な…儂を、

笑顔を作れないこの、儂を…

これではお前に笑顔を見せられないではないか。」

目に涙が溜まってくる、失う悲しみは誰でも涙を流す。愛し合った者ならばもっと深く、

大きな傷を残す。

「…お前が病気で倒れて、儂は救うこともできず…見殺しにしてしまった…

儂はお前に幾度となく助けてもらったのに…!」

昂る感情、抑えきれなくなる涙。

「お前は、夫婦になってからたくさん子供が欲しいって言っておったな…同じじゃ、

儂だって…もっとお前の子供を産みたかったよ…残念じゃ…。」

珠詠は目線を下げ、自分のお腹に手を当てる。

「お前さん言っておったろう、『俺が死んだらもっと良い人を見つけろ』と。

馬鹿者が…儂がお前以外にみさおを捧げる訳が無かろ…………」

言いかけて珠詠は何かが頭に浮かんだが、その浮かんだ何かに背筋がぞわりと反応したのと同時に

自分が大変なことを考えていたことに気付き頭をぶんぶんと横に振り、

着物の袖口でするりと涙を拭き取る。

「儂は一体何を考えておるんじゃ…近親の者とそんなことなど…!! 儂は、悪い女なのじゃろうか…

ほんの一瞬とは言えあんなことを考えてしまうとは、すまぬな辰義。」

しゃがみ込んでいた珠詠は大きな溜息をつきながらゆっくりと腰を上げた。

「じゃあ儂は帰るとするぞ、また…の。」

踵を返し珠詠は辰義の墓を後にする。

晴れ空の下、誰もいなくなったその場には風の音と鈴の音だけが聴こえる。


・・・・・

解釈は読者にお任せします。

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