プロローグ.起程 (2004)
「お婆ちゃんお婆ちゃん。」
屋敷に元気な少年の声が通る。
「どうした? 孫よ。お婆ちゃんあと少しで仕事終わるから待っててくれんかえ?」
屋敷の一角にある静かな部屋で彼女は仕事をしていた、
この時代には非常に珍しい筆と半紙で書き記す仕事である。
すらすらと筆を進める彼女の後姿には狐の耳とふわふわと揺れる尻尾が見え、
"お婆ちゃん"と呼ぶには若過ぎる外見。
明らかに人間とは違う彼女は妖狐である。
妖狐、それは人間たちが繁栄し続け、
いつの間にかその繁栄の陰に呑まれ忘れられた存在達の一つ。
ただ、忘れられただけなのである。
人間の繁栄の陰でひっそりと彼らも繁栄してきたのだ。
この通り、人間の孫を持つ者までいる。
・
「あのね、お婆ちゃん。今日学校で"きつねのおきゃくさま"って話を教科書で読んだんだ。」
「そのお話か…ふふん、儂はそのお話好きじゃよ。
あの狐はよく一人で狼から小動物達を守った。
狐忠信の話も儂は好きじゃよ。」
楽しそうな会話だが彼女の顔に一切の明るさが無い。
「お婆ちゃんは小さい頃何してたの?」
「儂はのう、山の村に住んでおったんじゃ。
いつかお前を連れて行ってあげたいのう。」
そう言いながら孫の頭を愛おしそうに撫でる。
とても和やかな光景だが一つだけ挙げるとするなら、
彼女の顔には笑顔が無い。
笑顔だとわかる要素がどれ一つ顔に無いのだ。
彼女は過去に笑顔を失っている。
・・・・・
初投稿にございます、誤字やら何やら改行云々や
改善すべき場所もぐいぐい出て来るはずです。