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それはただの興味だった。

 画面の中で、ネットゲーム内の自分のアバターが他人のハウジングスペースで作られたカフェのようなゾーンで椅子に座っている。 せわしなくログにチャットが流れ、いつものようにネットゲームの中で「暇だ」と言い続ける暇人達の中で駄弁っていた。 ある程度コンテンツを遊び切ると、フィールドに出るのすら面倒になり、チャットするためにログインするような状態に陥るのはよくある光景だろう。


 視線を右横に移す。 もう一枚のモニタに動画を垂れ流しているインターネット・ブラウザの他に、真っ黒い画面のウィンドウが開いている。


 それはいわゆるIRC(インターネット・リレーチャット)のクライアントで、こちらでもチャットログに続々とメッセージが書き込まれていく。


 元はインターネットの深部を漁り、マリアナ・ウェブという都市伝説として語られることすら少ないソレを探索するために集った6人のはずだったが、チーム結成からわずか1週間でIRCでチャットするだけのグループと化した。


 チーム名、ディープ・ワンズ。 私達は普通の人たちが利用するインターネットとは少し異なる、特殊なブラウザを使用しなければ辿り着けないインターネットの暗部に住み着いている。 インターネットの暗部だけあって、さぞこの道に精通していなければ到達できないだろうと思いがちだが、インターネット関係の犯罪をまとめたサイトのコメント欄を読めば、"漏らさずにはいられない"人たちが、そこへ繋がるための情報を嬉々として書き込んでいるものだ。


 別にやましいことをしているわけではないが、接続さえできたら恐ろしいほど呆気なくクスリや銃火器の密輸販売サイトに繋がるような場所で活動することで、反社会的な気分を味わってるだけの集団に過ぎない。


Felix -> おーい、誰かいねぇの?

Felix -> まぁいいや、また面白いもん拾ってきたんだけど誰か試しに開いてみねぇ?w

Felix -> [添付ファイル: CYM.color.rar]


 明らかに怪しい添付ファイルに、私は突っ込まずにはいられなかった。


Mico -> .colorとか怪しすぎ・・・ 絶対ウイルスじゃん。

Felix -> ウイルスってのは人目につくとこに置くもんだ、ディープウェブの誰が見かけるかもわからんランダムURLのページに仕掛けるもんじゃねぇよ。

Mico -> はいはいSAD SATANの元やってから言えよ。

Felix -> あれはガセって話じゃん


 SAD SATANとは一時期動画サイトにアップされて話題になった、ディープウェブ産の謎ゲーらしい。 実際はニセモノだとか様々な憶測が飛んだが、ウイルスまみれのクローンが作られたり実際には真偽の確かめようがないくらいのものになっていた。


Felix -> わかったわかった。 サブのノートで試してみるわ。

Oshiruko -> またウイルスにやられてFelixのPCが死ぬのか ゴクリ

Felix -> 仮想マシンでやるから死なねぇよ

Oshiruko -> その知識にたどり着くまで何台のPC潰したんですかねぇ・・・


およそ30分後。


Felix -> ゲームだこれ

Oshiruko -> プロセス監視してるか? くっそ面白いゲームで熱中させてる間に裏で怪しいモン落としたりしてるからな

Felix -> んー・・・特にそんな様子はないけどグラはめっちゃいいな。 サブじゃとても動かんからメインに移したけどかなり面白いかも 開発中のゲームのリーク版かな?

Oshiruko -> どんなゲームよ?

Felix -> FPS(ファースト・パーソンシューティング)かね、オープンワールドっぽい

Oshiruko -> リアル系かSF系か、そこが重要だ。レビューはよ

Felix -> リアル系に入るんかな、ってか弾道ブレブレで当たんねぇしww


 裏で動かしているネトゲを閉じ、[CYM.color.rar]を解凍ソフトに突っ込む。 しばらくするとデスクトップに解凍済みの[CYM]というファイルが出力された。 その中の、恐らく本体と思われる、カラフルなアイコンの.exeファイルを起動する。


 最新のゲームとほぼ遜色ない、むしろ上位に入るようなグラフィックのゲームが立ち上がった。


Mico -> これすごいね、こっちのPCだとちょいFPS(フレームレート)低いかも・・・

Oshiruko -> あんた開いたんか・・・人柱乙

Mico -> これVR対応してるんだ

Felix -> マジで?


 数十秒無言が続く


Felix -> フルダイブ系か・・・うちは旧式のだからなぁ 確かMicoちゃん持ってたでしょ?

Mico -> うん、酔うから結局ディスプレイでやってるけどね

Felix -> もったいねぇ

Oshiruko -> ダイブしたらチャットしながら2窓で遊べないしなぁ

Oshiruko -> あと疲れる

Felix -> Oshirukoも持ってんのか・・・

Oshiruko -> 実家暮らし独身会社員舐めんな、金は腐るほど貯まるぞ

Felix -> 金以外にいろいろ犠牲にしてんな・・・

Oshiruko -> は?


 チャットそっちのけで埃のかぶったヘッドマウントディスプレイと、それを接続する四角いプロセッサーを発掘すると、PCと接続する。 グラフィックが向上したとはいえ、まだまだゲーム感がある。


 接続に成功すると、拳銃を片手に荒野に放り出される。


Oshiruko -> Micoの反応消えたな

Felix -> ダイブしちゃった?

Oshiruko -> あーあ・・・


 流石のフルダイブ型ゲーム、臨場感が違う。 射撃チュートリアルで的に向かっての発砲は手に痛いほどの衝撃を感じさせた。


 ほどなくしてチュートリアルを終えると、ローディングを挟んで深夜のビルの屋上に放り出された。


 [全身がナノボットで構成されたあなたの体に不可能はありません。]


 というテキストが表示され、屋上から地面に向かって青色の矢印が表示される。 当然、飛び降りろということだろう。 人間離れした跳躍力でビルから飛び降りる。 姿勢が自動で制御され、四肢と頭部での五点着地の体勢をとらされる。


 鈍い音とともに着地すると衝撃で四肢と頭部の一部が豆腐のように飛び散った。 損壊し、飛び散ったナノボットたちが再集合して壊れた四肢を再生する。


 [完璧です! 次は移動のチュートリアルです。 左上のマップを見て、赤いマーカーの箇所まで進みましょう!]


 視界左上の、円形のマップを見ると移動している赤丸があった。 およそここから3ブロック先のビルを左折した地点だ。 車と大差ない速度で走り出すと、20秒と経たずにレッドマーカーにたどり着く。


 [レッドマーカーはクエスト中のターゲット(殺害対象)です。 ターゲットに意識を集中させると、オートエイムが働き自動で狙いを定めます。 しかし、弾は物理法則の影響を受け、飛距離が長くなるほど狙いから大きく外れます。 最適な距離を見つけ、攻撃しましょう。]


 ターゲットに意識を集中させると、時間の経過が遅くなるのを感じた。 対象の輪郭が薄ら青く光り、何かがターゲットを遮っても決して見逃すことはない。 拳銃を持った腕を上げてターゲットに向けると、腕が微細に動いてターゲットに銃口を向ける。


[殺せ。]


 トリガに指をかけ、引き絞ると、衝撃とともに弾が飛ぶ。 正確に心臓を打ち抜き、周囲の市民にどよめきが走った。


 [すばらしい! 市民に犯罪が目撃され、間もなく警察が到着するでしょう。 ナビゲーションの通りに逃走し、逃Err1D54C]


 ブラックアウトし、ダイブが強制的に解除された。

何回かクライアントの再起動を試みるも、タイトル画面のどの選択肢を選んでも異常終了した。


Mico -> 蔵落ちたんだけど。起動しても立ち上がらない

Felix -> チュートリアルの途中?

Mico -> そうだね。Felixも?

Felix -> いえあ 研究所っぽいとこでターゲット殺したとこで強制終了した

Mico -> 研究所?こっちは街だったけど

Felix -> チュートリアルでマップ違うとかありえなくない? 

Mico -> まぁ普通はチュートリアル用のマップでやるよね 

Oshiruko -> ハクスラ系とかランダム生成のマップ多いよな

Felix -> おしるこもやってみろよ

Oshiruko -> 知らないアプリは起動しちゃいけないってママが言ってた^^

Mico -> きも

Oshiruko -> キモいとか言われたわ。もう不貞寝する。おつー

Mico -> おつかれさま〜

Felix -> おつおつー

Mico -> じゃあ私も寝るわ おつかれさま〜

Felix -> おつー 俺も落ちよっと


Felixの書き込みを見てPCをシャットダウンする。

久しぶりのフルダイブ型のゲームで興奮が収まらなかったが、明日に備えてベッドに入ったのだった。

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