森のキノコ
(病気なんてのは、ただの飾りに過ぎんね全く。)
(これは自分と世界との境界線を強く引き過ぎてるからってんだよ。)
(なぁ、おれの皮膚よ。)
一郎はまるで酒に飲まれたおやじのような口調で、脳内に文字の配列を漂わせた。
(全く不思議だよなぁ、何故って?脳内に文字を漂わす空間が存在するって事が不思議に思えない方がおかしいよなぁ?えぇ?)
(俺ぁ、生まれてこの方ぁ脳内の空間が何処にあるってぇ疑問を考え続けてるんだがなぁ、いや、考え続けるというよりはただただ太陽が毎日東から西へゆくのと同じように反復を繰り返しているのに過ぎんのだが。)
(記憶の大地をほじくり返しても返しても全く録なもんはありゃしないなぁ。)
「ああぁぁぁ!」
一郎は果てしなく続く森の中で叫んだ。
きっと、彼は森と自分の人生を重ね合わせて来るべく暗澹とした未来が続く事が脳裏に浮かび上がったのだろう。
ちょうど一郎の上空には、梢の間から月が顔を覗かせていた。
「全くこの鬱蒼とした感情はやりきれんよなぁ。」
キノコに話しかけた。