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第7話:君成す出逢いに、御用心!?(3)




 夕焼けが街を焦がす。淡くオレンジに彩られた街の中央公園。噴水がその淡いオレンジ色を反射し、輝いている。



「……疲れた」



 その噴水の脇に置いてあるベンチに座る黒髪の少年は、ぐたりと背中をうなだらせて、空に上がる薄い月と地に下がるドロリと肉厚の太陽を眺めていた。




「主よ、せっかくの金だ。貰っておいてはどうだ?」




 そんな黒髪の少年に、脇に立て掛けある布切れ、もとい黒い刀身の魔剣がそう言葉を掛けた。




「否っ!! これはアレだ? 一種のケンカだ? 貧乏人と認めたくなくば、私を探してお金をお返しなさ〜〜い・・・っぅ〜、あの女の俺への挑戦だっ!?」




 どうやら魔剣であるアイゼルの主は、長時間に渡る少女捜索による疲労で少々おかしな妄想に取り付かれてしまっているようだ。

 最初は常識の名の下で始まった彼の少女捜索であったが……どうも、いま現在となっては、もはやそういう理由では無さそうだった。

 主である少年は考えた。この自分の手の中にある数枚の金貨と銀貨は何なんだろうか?

 何故、彼女は見ず知らずの見た目、こんなボロい服をきた一見、浮浪者とも思える自分に金を渡してきたのだろうか…?




「一見、浮浪者。つまり、それは同情されたって事だろう?あはっはっはっ……」




 渇いた少年の笑い声が辺りに木霊す。




『ふざけるなっ!?』




 少女がいったいどういう理由で金を渡してきたのか彼は知らない。魔剣であるアイゼルにも分からない。

 だが、見ず知らずの人間にいきなり理由も無しに金を渡された少年は言い様のない不快感に苛まれた。

 そして、彼はその不快にされたという負の感情を抱いて、夕暮れの街中をさ迷い始めた。

 そう、このままでは終われない。なんとしてもあの少女をとっ捕まえては金を返却しなければならない。




『超マジふざけんなっ!!』




 さっそうと黒髪の少年は、公園のベンチから立ち上がり、肩で風を切りながら、再びあの桃色髪の少女を探し始めたのであった。









 夕焼けも夜の闇に勝てぬと分かってか、空は次第に青みがかり、やがて黒いカーテンをしいたように薄暗くなっていった。

 そんな夜の始めに桃色髪の少女カレンは1人、レンガで繕えた街中を歩いていた。




「どうしたものかしら? お城が街のどこから見えると行っても、道が分からなかったら、辿り着けないじゃない…」




 カレンは、街の真ん中にズデンとそびえ立つ真っ白な城を見上げて、ため息をつく。

 迷った。

 カレンの脳裏にその言葉が浮かび始めて約一時間が経過していた。

 と、そんなカレンの脳裏に街で出会った黒髪の少年の事が思い浮かべられる。

 そう、だいたい、あの少年が悪いのだ。あの少年が自分が渡したお金を素直に受け取らないから……。

 しかしながら、何故だろう?

 ふと、少年への理不尽な怒りを覚えたところでカレンは、何故、自分はあの少年にお金を渡してしまったのか疑問に思ってしまった。

 思えば、彼と自分は初対面。

 もちろん、カレンに初対面の男に金を無条件で譲渡するなどといった趣味はない。

 では、何故か!?……実際のところ、当のカレンにも理由が分かっていなかったのであった。




「あらあら? 貴女はアストリナム王国で最も錆び付いた貴族、シュフォンベルト家のミス・カレンじゃなくて?」




 カレンが夕暮れ過ぎの街中で初めて出会った見知らぬ少年の事に思い馳せていると、横から少女らしき声がカレンへと話し掛けられた。



「うっ!? ……そういうアンタは、魔術学院で何かといっつも私に突っ掛かってくるミッドルナ家のミス・フローア…?」




 少女の名前は、フローア=ミッドルナ。アストリナムの南に位置する王国ラミテスの貴族であり、水の系統である呪文を世界一得意とする貴族のお嬢様である。

 貴族でありながら、魔術界でもエリートとその名は知られ、超が付く程の上流階級貴族のお嬢様を目の前にカレンは半歩後退りする。


 このフローア、魔術学院でも1、2を争う魔法の使い手で自身『神の子』とも言われるカレンのライバルとも言える存在であった。

 いや、魔法の能力だけならまだいい。

 彼女はその超上流貴族という家柄、プライドが高い。

 ことに魔法で優秀な家系と来たら、貴族の末端と言えるカレンの貴族名・シュフォンベルト家と肩を並べている事に、その優秀な家系のプライドが許せぬらしく、彼女は何かとカレンにちょっかいを出してくる人物なである。

 もちろん、カレンが実は王族である事は学院でも秘密であり、フローアも知らない。

 だから、まぁ、詰まる所、カレンにとってフローアとは、犬とも猿とも付かぬ仲なのである。


 さて、当のフローアというと、その小さな体をズデンと張り、カレンを睨み付けていた。

 ブロンドの髪に、癖っ毛なのか、みょんと立った前髪は独特で、きらりと光るデコッぱちに巻き巻きに巻いた後ろ髪はまるでドリルの様である。

 それでいて、それを小さな体いっぱいに伸ばしているのだから、ド派手な事極まりない姿であった。




「ところで、ミス・カレン?」




「えっ?」



 カレンがフローアとのこれまでの関係を思い返していると、不意にフローアがカレンに質問をしてきた。




「貴女、もう、使い魔の使用には慣れた?」




 瞬間ビギリっとカレンのこめかみに力が入る。




「使い魔って魔法と違って思慮や意識があるじゃない? 生き物である訳だし食事だってするし、教育をしなければ契約者にも歯向かう訳だし。まぁ、その点、わたくしのリーグジュエヌは、わたくしの教育もあってお上品にかつ強力に―――――――あっ! そういえば、貴女、使い魔召喚の時に失敗してましたわね? あら? …あらあら? わたくしったら、まぁ、まぁまぁまぁ!?」




 わざとらしくフローアは、驚いてみせる。

 が、その顔はいやに嬉しそうでほくそ笑んでいるのがカレンにも確認できた。

 その顔のこともあってかカレンは、力を入れたこめかみに更なる力を入れる。

 それは、もうはち切れと言わんばかりに…。




「えっ……えぇ、えぇ、そうよ、私ったらあの時、あの馬鹿なブリフナルトの大馬鹿男のせいで使い魔召喚を失敗したわ」



 と、カレンのその言葉にほくそ笑んでいたフローアの顔がより一層笑顔に変わる。




 魔術学院での使い魔召喚。

 これは、学院の魔術師が2学年に上がる頃に実施される言わば魔術師の登竜門だ。

 魔術師の使い魔とは、その名の通りに下僕として使う手下であるが、時にその命を預け、如何なる危険も共に歩み行く、信頼出来るパートナーでもであるのである。

 そのパートナーの力が、強ければ強いほど主人である魔術師の力であり、まさに魔術師の魔術師としての力を計るバロメーターであることは必至なのであった。

 が、しかし、カレンはこの魔術師たる魔術師のバロメーターの召喚に失敗をしている。

 この失敗の意味する所、彼女には並みの魔術師の才能さえ無い、という不本意な評価を受けることとなるだ。




「うふふ、これは失言でしたわ…」




 フローアの笑みがカレンの脳内への血流を激増させる。

 召喚術の成功した自分と失敗した貴女。魔術学院での1位は自分であると言わんばかりにフローアは、カレンへの態度を大きくする。




「えぇ、えぇ、でもね、ミス…」




 だが、そこへ、カレンが更なるどす黒い笑顔でフローアに顔を向ける。




「うふ? 私ったら、王室の魔法特区で、古代魔法での使い魔召喚をしたのよね?」




「ふぇっ!?」




 一瞬、フローアは耳を疑った。

 え、なに?魔法特区…?

 『魔法特区』とは、ありとあらゆる魔術的要素が絡み合う秘境である。

 魔術とは世界に準ずる元素の妖精達によって創られるもので。

 例えば、炎の魔術を使いたくば、炎の精霊と契約しなければ、いくら高名な術者であろうと、その力は扱えない。

 なぜなら、素となる炎の妖精達が術者に従わないからだ。

 つまり、魔術とは内なる己の魔力と外の妖精達による外的要素が無ければ発生しないものなのである。

 が、それにも例外がある。

 例えば、魔王といった魔力の最も高い術者の場合(魔力の最も高い魔王と高名な魔術師の違いは、ここでは置いておくとしよう)。




 彼らは『並みの魔術師』とは違い、精霊との契約や妖精達の意思に関係無く魔術を発生させる事が出来る。

 これを俗に、古代魔法と言う。

 そして、この古代魔法は何も魔王だからこそ出来る所業では無い。

 魔力の異常に集まる『魔法特区』でこそ成せる業。

 そう、魔術的要素が濃密な『魔法特区』では、ある程度の術者であれば魔方陣を使い、現代魔法における『精霊との任意的に起こる魔法』という概念を度外視し、己個人で起こすことの出来る古代魔法が使えるという事なのだ(詰まる所、常識を置いて、自分勝手に魔法が使えるということ)。




「魔法…特区で…古代魔法…?」




 そして、それほどのリスクと労を加えて行われる古代魔法とは、いまは忘れた現代魔法の原本の一部。その力は現在の魔術者達が操る現代魔法を遥かに凌ぐ強力な術なのである。




 だが、その為、『魔法特区』も砂漠、断崖絶壁、深海の底など、極めて困難な場所にあり、その例で無い場合は寺院を建てたり、王宮の一室にしたりと、誰彼構わず訪れる事の出来ないようにしてあるのだ。

 もちろん、たかだか魔術学院の1、学生が入れる場所などではないのだが…。




「何故!? どうして!? そんな馬鹿な話が信じられる訳ごさいませんわっ!?」




 秘密だとはいえ、カレンは王室の姫君。

 王宮にあるありとあらゆる部屋に入る事は容易なことなのである。

 しかし、そんな事とは露とも知らずプライドの高い上流貴族のフローアは驚きの声と否定の言葉を咄嗟に吐き出してしまう。




「はっ!? わたくしとした事が、あまりに馬鹿げたお話に取り乱してしまいましたわ…」




 フローアは、すぐにそれはカレンのハッタリだと分かり、驚きのあまり崩した体制を元のド派手なこと極まりない姿へと戻す。




「だ、だぁいたい、もし、そのお話が本当の真実の誠也ことならば、お見せなさいよ?」



「へっ?」



「へ?っじゃないわ!! 貴女、魔法特区で召喚したんでしょう?」




 あまりにも予想外な言葉であった。

 見せる?何を?使い魔を?

 ぐるぐると廻るカレンの思考。

 だが、答えを見いだせない。

 それもその筈である。



「あら、まさか? う、そ!? …な訳ございませんわよね?」




 そう、嘘なのだ。

 いや、半分嘘というのが本当であろう。

 魔法特区で古代魔法、この2つは確かなのだが、使い魔の召喚には至らなかったのである。

 つまり、カレンは魔法特区で古代魔法で召喚術までしたのに、再び、失敗したのである。



(言えない…失敗したなんて、口が裂けても裂かれても言えない……)



 ガクガクぶるぶる、カタカタと小刻みにカレンの体が震える。




「さぁ、お出しなさい!?」




 ズン! ズンズン!! と、フローアがカレンへと迫る。



「う、うぅ…」



「さぁ、さぁ、さぁ!?」




 もはや、どうしようも出来ない状況だった。

 言ってしまったが最後、失敗したなんて…。

 怒涛に迫りくるフローア。

 カレンの顔が青くなる。

 あれだけ見えを切って、失敗しましたなって言えない。

 もし、言ってしまえば自分は、それこそ末代まで語り継がれる恥!!

 そんな、汚名は嫌だ。

 しかし、ここで見せないと、またそれも同じ。

 ぐるぐるグルグルと回り廻るカレンの思考。

 そして、ついにカレンは重たい口を開く。

 ふるふると右手を挙げて、青い顔のまま――――




「……アレ」




「えっ?」




「どれ?」





 小さな嘘を隠すための大きな嘘。

 カレンは、追い詰められ追い詰められた末に、自分を探し、街を徘徊していた1人の黒髪の少年にへと目をつけたのであった。










久しぶりの更新です。お久しぶり、こんにちは、ごめんなさい!!


調子の良い後書きなどを見て、更新してない自分の作品を見る……ごめんなさい。




怠け者です。いえ、文章やアイディアが浮かばないという理由もあるんです……あ、こっちは、馬鹿者って事ですね。ごめんなさい!!




とにかく、まだ頑張ってます。気長にお待ち頂けると幸いです。では、失礼します。



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