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第31話:To settle a battle of Throne Room!!




 顔を青く、吐き気を抑えて、ヒイロは己の具合が悪い事を感じていた。

 王都の入り口から王都の中まで、王都の中から王城まで、そして、王城の入り口から王の間までの道中で見て見ぬ振りの出来ぬ、人あった者の姿、王都の人々の死体の多さにヒイロは心底、気分を悪くしていた。

 これまで、狼の死体やウルフマンの死体などを見て、慣れた筈だと思っていた生命の終わりのその姿にヒイロは完全に感化されて、涙を浮かべて震えた。

 中には、皮膚を剥がされ、肉を引き裂かれ、骨まで見えている物があって、そこで我慢出来ずに腹の中の物を吐いてしまう始末だった。


 だというのに、それ以上に最悪な出来事。

 人が人を殺すという事実をギルド長と呼ばれる中年の男から聞かされ、また、今様にその様を見せられてヒイロの心は暗く、嫌悪感と恐怖と怒りという数多の感情の渦に苛まれ、遂には、その原因たる鉄仮面の男へと己の感情をぶつけた。



「なんでだよ…なんでだよ!!」



「なんですか?」



 激情を吐き出す様に叫び声をヒイロは上げた。それに、鉄仮面の男リューレストは仮面の奥で怪訝な表情を見せた。



「なんですかじゃねぇ!! なんで、こんな、こんな簡単に人を殺すなんて事が出来るんだって言ってんだよ!!」



「はい?」



 ヒイロの八つ当たり気味の言葉にリューレストは更には困惑して、不思議そうに声を出す。



「何を言い出すかと思えば…敵なのですから当たり前ではありませんか。剣を振るえば、人は斬られる、斬られれば肉が裂かれて傷を負う、その傷を放置すれば、死に至る。凄く単純な答えだと思いますがね」



 そして、律儀にもヒイロの疑問へと答えを返す。



「それに私に何故とそう語る手で貴方も私に剣を向けている。つまり、向かう所は貴方も私と同じでは?」



 それから、ヒイロ自身もリューレストに向けて剣を振るっているのだから、お前も同じ穴のムジナではないかと問う。



「うるさい!!」


「おっと!」



 しかし、これまで見たことの無い多くの人の死という物を目の当たりにして、ヒイロは冷静に居られず、リューレストの言葉ごとその刃で斬り伏せ様と剣を振るう。



「ははっ、やはり、貴方も私と同じですよ」


「同じじゃねぇえっ!!」



 まるで、癇癪を起こした子どもの様にヒイロは剣をリューレストへと振るい続ける。



(だが、闇雲にただ振るっている訳ではない。この少年、前より確実に強くなっている)



 リューレストは己に振るわれる剣を、己の剣を持って捌き、退けて行くものの、そのヒイロの剣を扱う技量があの怪人ギュソーとして対峙した夜よりも格段に上がっている事に警戒心を強める。



「俺はお前みたいにそんな気軽に人を殺そうなんてしない!! あんな酷いことを!! 魔物で手一杯だっただろう人たちを襲うなんて事を!!」 



「はっ! 何を言うかと思えば。混乱に乗じて、敵を屠る。これは、れっきとした兵法ですよっ!!」

 


「ぐっぁ!?」



 だが、まだ対処出来る程の技量だ。

 故にリューレストは己の剣に力を込めて、ヒイロの剣にその刀身をぶつける。



「くそっ! 足りねぇ! まだ、足りねぇ!! アイゼルッ!!」



 一合、二合と剣を合わせていくヒイロとリューレストだが、互いが互いに譲らず。刀身と刀身を幾度もぶつけるだけに終始していてヒイロの思う結果へと繋がらない。

 だから、だから、ヒイロは禁忌のそれに手を付ける。



「良いのか主…」 


「あぁ、構わねぇ…じゃねぇと勝てねぇ。悔しいがいまの俺じゃ勝てねぇっ!!」



 いまヒイロの頭の中を埋め尽くす最悪の事は、禁忌に手を染めるより、この目の前の胸糞悪い鉄仮面の男に負ける事だった。

 そして、その事を絶対に認められないヒイロは、使い続ければその身を『魔』に変えるという魔剣アイゼルの力を使う事にする。



「ならば! 我は主の為に、主の目的の為に! 我が身の内に打ち秘められし、力よ! いま、解き放て!!」



 瞬間、魔剣アイゼルの刀身が怪しく光、ヒイロの身を軽くする。そして、更にはその手に込められる力が増して、その振るわれる剣の威力が大きく上がる。



「なんだと!?」



 それに驚いたのは鉄仮面の男リューレスト=オルグ。拮抗していたヒイロとリューレストの力関係がいきなりヒイロの攻撃力の上昇という現象により、一気に崩れ去り、それによりリューレストが窮地に立たされたからだ。



「ずぇい!!」


「うぐぅっ!??」



 先程まて捌き、退けられていたヒイロの斬撃が目に見えて威力を増して、振るわれるそれ。更に、三合、四合と剣を合わせていくが、次第にリューレストの腕が重くなっていき、遂にはヒイロのその剣の切っ先が、リューレストの鉄仮面へと届き、その仮面を真っ二つに切り裂いてしまう。



「おのれっ!?」



 真っ二つに割れた鉄仮面の合った場所の顔を手で触れて、顔にまで傷が入っていない事を確認してリューレストは憎々しげにヒイロへとその鋭い視線を向ける。



「まだだ!! うぉおおーーっ!!」



 だが、まだ、己の攻撃は終わってないとヒイロは声を吠え上げて、魔剣アイゼルの刀身から真っ赤な火炎を作り出して、それをリューレストへと投げ付ける。



「剣から、魔法だとぉ!? しかし、魔法はっ、なにぃ!? ぐぁあああーーっ!!」



 ヒイロの火炎魔法にリューレストは魔法に対しては何か対策をしていたらしく、己には効かないと高を括って、腕を振るって払おうとするが、魔剣アイゼルから放たれたその火炎は、その対策を物ともせず、リューレストのその身を燃やしていく。



「どうだ!!」 



 それを見て、ヒイロはリューレストに勝鬨の声をあげようとする。

 しかし、



「くっ、やってくれますねぇええっ!!」  



 リューレストは来ていた防具とその中の服を脱ぎ捨てると、その炎を掻き消した。

 すると、上半身を裸にしたリューレストに火炎魔法でのダーメジは見えず、どうやら、魔剣アイゼルの魔法は、ただ、リューレストのその防具と服を燃やしただけに終わった様だった。



「まさか、この魔法封じの鎧を燃やす程の火炎魔法を放つとは…」



 だが、それでもリューレストの施していた魔法対策を無には出来た様で、その対策である魔法封じの鎧とやらをリューレストから脱がす事には成功した様ではあった。



「やはり、貴方は邪魔だ!!」



 そして、それをリューレストに煩わしく思わせて、ヒイロは彼の怒りを買ってしまう。



「この剣で、カレリーナ姫を斬りつけていて良かった…」


「なんだと!?」



 突然に物騒な事を宣うリューレストにヒイロも怒りを持ってリューレストへと対峙する。



「ふふふっ、カレリーナ姫。何故、貴女が襲われなければならないのか。それを教えて差し上げましょう。アストリナム王家の魔女の血…その使い方を、教えて差し上げますよ!!」



 しかし、そのヒイロの怒りの視線を物ともせずにリューレストは未だ座り込み、ヒイロとリューレストの戦いをぼうっと観戦しているカレンへと、何故、カレンが襲われるのか、そして、その身に流れる血の使い方を教える等と言い出し、声を張り上げる。

それから、剣の刃に残るカレンの鮮血を指で掬うと、己の胸に十字に塗り付ける。



「まさか、この様な場所で使うことになるとは思いませんでしたが、贅沢は言ってられません」



 そういうと、リューレストはぶつぶつと口のなかで詠唱を開始する。

 すると、十字に広がったカレンの血がリューレストの身体に吸い込まれて消えていく。



「ハアアアアアッ!!」



 そして、その代わりに彼の胸から腹にかけて、発光しながら黒色の魔方陣が出現していく。



「な、なんだ!?」


「あれは魔方陣であるな、しかも、かなり入り組んだ陣だ。主、これは気を付けて掛からねばならぬかもしれぬ」



 その白銀の長髪を逆立てて激情の掛け声を続けるリューレストの上半身に刻まれていく魔方陣を見て、魔剣アイゼルがヒイロへとその危険性を注意してくる。



「ッラァ!!!…フーッ、フーッ、ハハァッ! 待たせましたねぇ…」



 これからが私の本気です。

 リューレストはそう言うが早いか、剣を持って目にも止まらぬ速さでヒイロへと襲い来る。



「っがぁ?!」



 それにアイゼルで防ぎ守ろうとヒイロはするが間に合わず、リューレストの剣がヒイロの額へとぶつかる。



「あああぁあっ!? ああっがぁ?!?!」



 ダラダラと額から流れ出る血と熱感にヒイロは思わずして叫び声を上げてその痛みを外へと訴える。



「まだですよ!!」



 しかし、それにリューレストは気にせず、ヒイロへと追撃を加える。



「主!!」


「痛ぇ!! 痛ぇよぉ!! っ、うわぁあっ!!?」



 ザシュッと新たに肩口に傷を加えられて、ヒイロはそのあまりの痛みに逃げ惑う。



「主! 落ち着け! 落ち着くんだ!!」


「さぁ! どうしました! 先程までの勢いはぁ!!」


「ひっ、ひぃ!!」



 アイゼルが傷付いて前後不覚になって混乱するヒイロを落ち着かせようと声を掛けるがなかなかその声はヒイロへと届かない。



「ファイヤーショット!!」



「おっと、今度はそちらですか?」



 そんなヒイロを助けるべく、未だ身体を震わせるカレンが立ち上がり、リューレストへと魔法を放つ。しかし、その魔法も簡単に処理されて、火炎を掻き消されてしまう。



「アンタ、一体、何なのよ」



 そんな化け物染みたリューレストの変わりようにカレンは震える声で、そう問う。

 己の血を媒介にして、魔方陣を起動させる魔術にカレンは心当たりがない。いや、本当は己の血で無く魔女の血が正しいのかもしれないが、どちらにせよ、そのやり方を聞いたことがないカレンにはその行為が異質に感じられて、より一層、リューレストへの恐怖を助長させていた。



「何ですか…そうですね」



 それに首を傾げてから、リューレストは心底、可笑しそうに笑み浮かべて言葉を紡ぐ。



「魔人…私は貴女の血のお陰で魔人という物へと昇華したのです。古きいにしえの血を得て、人、その身を魔物と化する。私の所属する組織はその理念を掲げて、世界を掌握しようと考えている組織でしてね」



 そして、その手始めに選ばれたのがアストリナム王国であり、その血を継ぐカレンだとリューレストは答える。



「あとはまぁ、個人的にアストリナム王…あの男に怨みがありましてね」



 そう言って玉座の前で倒れ伏すアストリナム王を心底、憎そうにリューレストは睨み付ける。



「だから、この魔人化に必要な貴女の身柄を確保したならば、その次はアストリナム王を殺害するのが今の私の目的ですかね、フフフフ」



 魔人化という物に慣れておらず、その身の内から(たぎ)る力に興奮冷めやらぬリューレストは喋らなくてもいい事までつらつらと喋っていく。

 そのリューレストから与えられる情報を整理しながら、カレンは辺りの魔素を取り込み、魔力を練っていく。



(組織?…この襲撃は他国の侵略ではないって事? っ、どちらにせよ、このままじゃ、私は誘拐されて、そして、アストリナム王は…父は殺される)



「ほう、まだ、やる気ですか?」



 カレンの魔力の高まりを感じてリューレストは彼女にまだ抵抗する気がある事に驚いてみせる。



「えぇ、このまま、そう簡単にはっ! 諦められないわっ!!」



 そして、リューレストの言うその通りにカレンは手に力を入れてしっかりと魔法杖を握る。それから、その魔法杖の先から無数の風の刃を巻き起こして、リューレストへとぶつける。



「なるほど、素晴らしい魔法技術だ」



 しかし、まだ甘い。



「もう、遅いのですよ。その攻撃をするのならば、魔人化する前の私にぶつけるべきでした」



 そう、魔人化という魔術で身体を強化したリューレストにとって、それはもはや魔法対策の防具が無くても、驚異にはならなかった。また、この攻撃が魔法対策を施していた時にでも出ていれば、もしかしたら、多少なりともリューレストに傷を与えていたかもしれない。

 が、既に時遅く。



「フッーハァーッ!!」


「そんな…」



 剣のひと振りで、カレンの多数の風の刃が切り開かれて、リューレストにだけは届かなかった。逸れた魔法の刃は、他の王の間の至る所を切り刻んでゆくが、唯一、リューレストにだけは効かなかったのである。



「はあっ!!」


「かっ?! ヒールッ!」



 そして、風の刃を剣にて無効化したリューレストは、次に返す刀でカレンへとその剣を振るう。カレンの身を再び傷付けた剣は、彼女の身体を吹き飛ばす。

 その事に反応し切れなかったカレンだが、しかし、傷つけられた事だけは分かって彼女は吹き飛ばされながらも傷付き、熱を持つ場所へと回復魔法を施す。



「はははっ、やはり、やりますね! しかし、これでどうですか!? さぁ、さぁ、さぁ!!」



「いぎっ!? ヒールッ、あぐっ?! ヒ、ヒール!!」



 だが、それもリューレストの連撃に対処出来ず、回復魔法を何度も施すも、次々にその身をリューレストの刃に傷付けられて、ボロボロになっていく。



「くっぁ、はぁ、はぁ、はぁ」



「おや? もう抵抗はお仕舞いですか?」



 愉悦だと言わんばかりに楽しげに笑うリューレストと限界だと言わんばかりに倒れ伏すカレン。

 その状況は、絶対絶命だった。



「さて、身柄を確保するといっても、こちらは全くの無傷でという訳でなくても良いので、とりあえず…半殺しにでもして大人しくしていて貰いましょうかね?」


 ニヤリと広角をあげ、カツカツとリューレストはカレンの元へと歩いていく。

 その命を刈り取る死神の如く、剣を構えて。

 リューレストは今度こそ、カレンのその身の動きを止めさせる為に剣を振り上げる。



「うぅっ…!!」


「はぁ!!」



 振り上げる。

 が、その腕がカレンへと振り落とす事が出来なく。

 またしても、それに邪魔が入ったのであった。

 ギリギリッとヒイロの掌が剣を持つリューレストの右腕を握り締めて、剣を振り下ろそうとする彼の腕を止めていたのだ。



「やれやれ、本当に貴方たちはしつこいです、ねっ!!」













 痛い。

 痛い、痛い、痛い。


 ヒイロの心の大半がそんな身体の痛みに対しての訴えで埋め尽くされていた。

 額からは血がながれ、肩口からも血がながれ、何故、こんな痛い目に合わなくてはならないのかと、ヒイロは涙を浮かべる。


 嫌だ。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 もう、嫌だ!!


 その理不尽な世界の所業にヒイロは絶望していた。



「主! 無事か!?」



 そんなヒイロにアイゼルが声を描ける。

心底、心配しているといった風な声にヒイロは泣き声を聞かせる。



「大丈夫じゃない!! これが大丈夫に見えるかよ!? 傷が、血が止まらねぇんだよ!!」


「血ならば止まる。いま、我の魔力を持ってその傷口を癒して、治してやる」


「なら、早くしろよ!! 痛ぇよ! 傷が痛いんだよ!!」



「えぇい、落ち着け!! 我が力よ、主の血となり肉となり。その身に苛む、傷を癒せ!!」



 アイゼルがそう力を込めて詠唱すると、傷口が閉じて、ダラダラと流れ出ていた額と肩口の血が止まる。



「くっ…はぁ、はぁ、止まった。止まった!!」



「あぁ、止まった!! 我の魔力で傷を癒したのだ。さぁ、逃げるぞ、主!!」


「えっ?」



 アイゼルの力を持ってリューレストに付けられて傷がみるみる内に塞がって、血も止まったヒイロにアイゼルが思わぬ提案をしてくる。

 傷が塞がって、血も止まったいま、その身体は逃げ出す余力には満ちていた。

 故にアイゼルはリューレストを脅威と考えて、その危険性から、いまこの場所からの撤退をヒイロへと提案したのである。



「で、でも」



 しかし、自分の代わりに今度は己がリューレストに襲われる事となっているカレンを見て、ヒイロはその事を戸惑う。



「今の主では、奴には歯が立たぬ! ならば、逃げるしかない。そも、話を聞くに奴の目的はこの国の王と、あの白族の娘だ」



 ならば、ここでヒイロ一人が逃げ出した所で構う筈がない。そもそも、巻き込まれただけのヒイロにこれ以上の苦役は必要ないと、アイゼルは言う。

 それにはヒイロも賛同する所であり、傷が癒えたいま、これ以上に傷付く事をヒイロ自身もしたくなかった。



「そうであろう。ならば、ここはもはや立ち去る他ない」



 しかし、いま目の前で行われている戦いはカレンがヒイロを助けるべく始まった戦いだ。ヒイロがリューレストの所業に憤りを感じて、突っ掛かって行った末に窮地に追い込まれて、それを助けるべく始まった戦いだ。

 だと言うのに、それを見捨てていく?

 いいのだろうか、それで。

 本当に?!


 また、傷が癒えた事で未だヒイロの中で燻るリューレストへの憤りは、渦巻いたままだった。



「主!!」



 ヒイロの未だ逃げたさない雰囲気にアイゼルは業を煮やして、叫び声でヒイロを呼ぶ。

 しかし、その声はヒイロへとは届かない。


 ヒイロを助けるべく戦い始めたカレンがリューレストの光景に圧倒されて、傷付いていく。

 それを魔法でどうにかしようとするカレンだが、それも間に合わない。

 次第に、カレンは彼女の血で朱の色へとその身を染め上げていく。



「なんでだ、なんで。なんで、そんなに簡単に人を傷付けられる!!」



 カレンの状況に。

 それを行っていくリューレストに。

 ヒイロの憤りは渦巻いて、次第に怒りへと変わっていく。



「アイゼル!!」


「くそっ、もう知らぬぞ、主!!」



 ヒイロの声にアイゼルはもはや投げやりの声を上げて非難をする。

 しかし、止まらない。

 止められない。


 ヒイロの身の内に(たぎ)り、憤り、渦巻く、その感情に、ヒイロはその身を止められなかった。

 だから、ヒイロはカレンへと振るわれるリューレストの斬撃を止めるべく、彼の右腕を握りしめた。



「やれやれ、本当に貴方たちはしつこいです、ねっ!!」



 それに対して、怒りを見せてリューレストが身を反転させて、その刃を今度はヒイロへと向けて来る。



「なにッ!?」



 しかし、ヒイロもそれが分かっていて、向けられる刃を魔剣アイゼルで受けて止める。

 そして、今度はこちらだと受け止めたリューレストの剣を上へと弾き、魔剣アイゼルを彼へと突き立てようと突き出す。



「このぉっ!!」



 勿論、それがリューレストに突き刺さる事はなく彼は身を捩り、それを避けてしまう。だが、それにヒイロは追撃をと、袈裟懸けに斬り付けられていく。


「ふんっ!!」


 それも避けるリューレストだが、その異変に気が付いて訝しげにヒイロを見て取る。



「貴方、何か変ですよ? なんですか? 先程より剣撃が鋭さを増している…それに、傷まで癒えて…」



「さぁ、知らねぇなぁ。ただ…」



 ただ、理不尽に他人へと暴力を奮い、平気な顔をにているお前が気に食わない、とヒイロは再び、リューレストへと魔剣アイゼルを差し向ける。



「なんの!!」


「ぐっ?! こっちだってなぁ!!」


「なんとぉ!? ぐおおっ!!?」



 そうして、再び、始まったヒイロとリューレストとの剣撃対決。

 しかし、今度は刃で刃を受け止める類いの物ではなく。

 身体を斬られれば、斬り返す、血で血を洗う、血生臭い斬り合いの戦いである。



「痛ぇ!! 痛ぇよぉ!! 糞がぁっ!!!」


「っぅぅう!! でぇえええっ!!」



 リューレストの剣先がヒイロの頬をかする。

 ヒイロの剣がリューレストの肩を抉る。



「がぁあっ!!」


「ずぇええいっ!!」



 再びリューレストの剣がヒイロの額を切り裂き、また、肩口を斬り伏せる。

 しかし、今度はそれでも、ヒイロは怯まずリューレストへとやり返して、彼の身体を斬りつける。



「ぐぉっ、しまっ…」


「!…主、魔方陣だ!! 奴の上半身に浮かんだ魔方陣を掻き消す様にして切り裂け!!」



「くぅぅぁ、わかぁったぁああっ!!」



「こ、このぉおおつ!!!」



 ヒイロとリューレスト。 

 互いが互いにその手に持つ剣にて身体を傷付けあっていく。

 そんな中で、ヒイロの攻撃がリューレストの上半身に描かれる魔方陣に触れた時、一瞬、リューレストの力が弱まり、それを感じたリューレストが思わず声を上げてしまう。

 そして、それを目敏く魔剣アイゼルが気が付いて、ヒイロへと指示を出す。


 しかし、だからと言って、それを直ぐ様実行出来るほどヒイロにも余裕は無く。

 一層、上半身の魔方陣への攻撃を警戒する様になったリューレストの防御を崩せない。



「だぁああああーーっ!!」



 それでも、力が出る限りヒイロは腕を動かし続けた。

 縦に、横に、斜めにとがむしゃらに魔剣アイゼルを振り回し続けた。



「っ、ガァッ!?!」



 その勢いを持って、ヒイロは、どんどんとリューレストを後ろへ後ろへと引き下がらせていく。



(何なのだ!? この力はっ!! 以前もそうだった!! この男…窮地に陥れば陥るほどに力を増している!?)



 それに、思わずして後方へとその身を押し下がらされているリューレストはヒイロの信じられない程の力に顔を歪めて、相対していく。



「だがっ、その傷でいつまで持つか!!」



「ぐぅぅっ!!」




 だが、後方へと、壁際へと押しやられているのはリューレストだが、より相手に傷を付けられて、消耗しているのはヒイロであった。



「っざぁああああっ!!」



「な、なんとぉおっ!?!」



 ただ、それでも勢いはヒイロにあって、遂にはリューレストの魔方陣が描かれている上半身に一太刀浴びせて、ヒイロは魔剣アイゼルを引き抜く。



「おのれぇ…」



 すると、魔方陣が掻き消えて、リューレストの身体から紫色の煙が溢れ出ていくではないか…。



「ち、力が。くそっ、一度ならず二度までも…」



 それは魔剣アイゼルの予想を正しく肯定し。

 魔方陣が掻き消されたリューレストから力が漏れだして、明らかに弱まっていく。

 これならばイケる。



「主、いまだ!!」



 そう確信したアイゼルがヒイロへと最後の追撃をと声を張り上げた。



「っ!? 主!!?」



 だが、それまで。

 その一太刀を浴びせた所までで満身創痍となってしまったヒイロには、もう一度、リューレストを攻撃する余力が残っておらず、ヒイロはダラリと両手を下げて、放心する様に身体をフラつかせていた。



「これ以上の追撃がなければなぁあああーーっ!!!」



 そして、それを見逃すリューレストではなく。

 その場で息だけ荒く、ただ棒立ちとなるヒイロへと彼はその凶刃を立て向けてくる。



「しまっ!!」



 そんなヒイロに回復魔法を掛けようにも、時間が足りず。また、掛けたとしても、避けられないであろうリューレストの攻撃にアイゼルは失敗してしまったと荒く声を上げる。

 このままでは、ヒイロが殺られてしまう、と。

 そうして、それはリューレストも確信しているらしく、全力でヒイロへと向かって来ている。



「退きなさい!!」



「なんだとっ!!?」



 しかし、それは、ヒイロの後ろから現れたカレンによって覆される。

 フラつきながらも棒立ちになるヒイロの身体を押し退けて、その前へと躍り出たカレンは魔法杖を迫り来るリューレストへと向ける。すると、魔法杖の先から薄白い魔方陣が一気に拡がり()でて、カレンは己の中でも最大の魔法をブチ放つ。



「『アトモウスト・バーン!!!!』」



「ば、馬鹿なぁアアアアアアッ!!!!!」



 おどろおどろしくも燃え盛る火炎と爆発。

 その両方の性質を持って、光線の如くカレンの魔法がリューレストへとぶつかっていく。

 そして、それを真っ正面から受けたリューレストは()(すで)もなく吹き飛んでいく。

 また、そのカレンの魔法はあまりの威力に城の壁をも貫通して、外へと漏れ出ていく。

 それはヒイロがリューレストを壁際まで押し退けていった為に、被害は城壁が崩れるだけで済んだが、もし、そうでなければ、王の間を業火と爆発が包んだであろう威力を持っていた。

 それが、ただただ轟轟(ごうごう)と燃え盛る火炎が、空へと真っ直ぐに突き抜けて行き、消えていく。

 そうして、燃え盛る火炎が残ってはいるが、漸く王の間に静けさが戻ると、そこにはもはやリューレストの影も形も残ってはいなかったのだった。











ようやく、ここまで書けた(二度目)。

1話から長かった…本当に。

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