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第29話:シュフォンベルト家の神の子




 王都が燃えている。

 その事実に王都の民は恐怖した。

 そして、それを起こしている昆虫型の魔物に恐れ慄いた。

 民は泣き、叫び、怒号を上げて逃げ惑っていた。

 そんな中でその魔物たちに立ち向かう者たちが居た。



「ちっくしょう!! なんだよ、急にこれはぁ!?」



「煩いわね、黙って戦いなさい!!」



「参りましまね、スタンビートというやつですか」



 ハンターズギルドという組織に属するハンターと呼ばれる冒険者たちである。

 彼らは街から街へと移動しながらや、その土地に住処を構えて魔物を狩り、生計を経てている者たちだ。



「ぐわはは、これは腕が鳴るワイな」



「大将、国の危機ですよ!? 冗談でも止めて下さい」



 そんな彼らは突如として現れた昆虫型の魔物を相手取り、奮闘していた。



「くそっ、王都のギルドとはいえ相手の数が多すぎる」



 しかし、そんな彼らをしても数の理というのは脅威であり、倒しても倒しても後から後からわらわらと出てくる魔物たちに押されつつあった。



「王都中のハンターたちに召集をかけて、魔物撃退の号令かけたが、しかし、この数…分が悪いな…」



「ギルド長! やはり、王城の騎士たちも宛になりません!! 奴らも奴らで城の守りで手がいっぱいらしいです」



「あぁ、だろうな」



 年嵩のいった年配の王都本部を預かるギルド長は、先の戦争で生き残った兵士だった。

 故に今のアストリナム王国の騎士事情に明るかった。



「ちっ、軍部が王都に少しで残ってくらてりゃあ良かったが、カリヤックのジジイが他国からの侵略、侵略と戦争を気にして残していきやがらなかったからな、くそっ」



 そして、現在の国防大臣となるカリヤックの事にも詳しかった。

 何故ならハンターズギルドの長として国の国防の代表のカリヤックと話をするのがこのギルド長だからだった。



「おい、ルファー。お前さんはアルテミの方はいいのか?」



 萎びた煙草に火を着けて吸い始めたギルド長は、目の前で戦斧を振るうルファーという大柄の男に話しかける。



「あぁ、とても心配だ。だが、だからといっていまここを離れる訳にもいかないだろう」



 それに対してルファーは苦渋の表情を浮かべながらも戦斧で魔物たちを屠ってゆく。

 ギルド長からしてみれば、このルファーが前線で戦ってくれる事には感謝の念しかない。

 だが、このルファーの真の職業は酒場アルテミのバーテンダー兼バウンサーだ。

 ここ最近に王都にやって来た流れ者だが、それはハンターにも言える事だ。

 それになにやり、この男の強さは本物であり、それが周りのハンターからの尊敬を集めて、そこそこに人気者である。

 そんな男だからこそ、この前線で他のハンター達と混じって戦ってくれている事は戦っているハンター達の士気にも関わり、とても重宝する物だった。

 まぁ、しかし、本人からしたら本来の持ち場である酒場の状態が気になって気が気でないかもしれないが…。


「す~、はぁ〜…。しかし、ウチのハンターたちも頑張ってはいるがマズイな…」



 ハンターたちも頑張って魔物を倒してはいるが、先も述べた様に数が問題だった。

 倒しても倒しても、群がってくる昆虫型の魔物に皆、疲れを見せて辟易へきえきしていた。



「ぐわっ…」



「ちょっ!? なにしてんのよ、きゃあっ!!」



「くっ! はぁいはぁあ!!」



「ぐはははっ、ぐわっ、ははは!!」


「大将!? 攻撃を受けたのに押し切らないで!! 回復!! 回復するんで、戻ってきて下さい!!」




 確実に拮抗が崩れ始めている。

 それを目にして、下級のハンターたちは尻込みをしている者も居れば、既に逃げ出している者たちも居た。



「こ、こんなの無理だよ!! うわぁーー!!」



「くそぉお、痛ええ痛えよぉお」



「ぎゃあああ!!」



 傷付き倒れ伏す者たちも見られ、これはもう詰んでしまっているとギルド長は覚悟を決める。

 先の戦争で生き残ってギルドの長にまでなった悪運の強い自分だが、もはや、ここまで。

 王都と共に散るのもまた一興であろうと…。



「ファイヤーストーーーーム!!」



 と、そんな劣勢を強いられていたハンターたちの前に炎の柱が立ち上がる。そうして、次々に魔物たちを業火が燃やしていく光景が映し出されていく。



「な、なんだぁ!?」



 その光景にギルド長も吸っていた煙草を口元からポロリと落とし、空にも届きそうな火柱を見上げて、驚きの声を上げる。



「ふぅ、やれやれ、マリルたちはまだかしらね」



 そんな凄惨な光景の中で場違いな可愛らしい声があがる。

 轟轟(ごうごう)と燃え盛る魔物たちとそれらが出す煙りから一人の少女が現れる。



「な、なにぃ!? ま、まさか、こ、これは嬢ちゃんがやったのか!?」



 信じられない光景が次々に現れて混乱をするギルド長だが、流石の歴剣の勇士たるこの男は、目の前で起きた光景がこの少女が起こした事だろうと結論付けた。



「えぇ、そうよ。それが何か?」



 すると、その少女は尊大な出で立ちで肯定の返事をする。

 それに面食らったのはギルド長以外のハンター達だった。

 そんな訳がないと誰もが思った。

 しかし、そうするとこの目の前の光景を否定しなければならなくなる訳で、それに気が付いて誰もが口を閉口させた。



「なるほど、嬢ちゃん…魔法使いって奴だな」



 そんな中でもカレンの尊大な態度や所業に対して圧せられながらも通常行動が出来るギルド長は、カレンが何者かを言い当てた。

 先の戦争でも一般兵や騎士を圧倒せしめた存在である魔法使いの事をギルド長は知っていたからだ。



「まぁね、私はカレン」



 その事を気が付いているギルド長にカレンは心底、笑みを浮かべて名乗りを上げる。



「私の名前はカレン=ギースライド・シュフォンベルト!! シュフォンベルト家の神の子とは私の事よ!!」



 それを聞いて、ギルド長は目を見開く。

 シュフォンベルト家。

 それは先の大戦に参加したアストリナム王国の兵士たちの中では伝説の人物の家名だった。

 アレックス=ギースライド・シュフォンベルト。

 それが最後の戦いで、殿(しんがり)を務め、見事にアストリナム王を含むアストリナム軍を救って見せた英雄の名前である。

 そして、その家名とミドルネームを名乗り継ぐという事は、この目の前の少女は、つまり、その血筋の者という事になるのだが…。



「しかし、白族…」



 シュフォンベルト家の者は基本的に黒に近い色を持って生まれると言われているのをギルド長は噂で聞いていた。

 しかし、目の前のシュフォンベルト家を名乗る者の姿は髪の毛が白銀であれば、その瞳も白銀。

 とても、噂とは合わない、正反対の性質を持っていた。




「ちっ!」



 それを指摘してしまったギルド長にカレンはひと睨みして、舌打ちをする。



「悪かったわね、白で!! でも、確かに、私はシュフォンベルト家の者よ。ほら、この紋章に見覚えはないかしら?」



 そう言ってカレンは懐からペンダントを取り出す。それは簡素な意匠ながら精巧に出来ている銀のペンダントだった。そして、その真ん中にシュフォンベルト家の紋章である三本足の鳥の絵姿が描かれてきた。



「た、確かに、それはシュフォンベルト家の紋章…失礼しました。シュフォンベルト家のご令嬢とはつゆ知らず、無礼な振る舞いをお許し下さい」



 それと同じものを戦場で見ていた為に即座に本物だと確信したギルド長は片膝を立てて、カレンに騎士の礼を取る。

 それを見て、満足げにカレンは頷くと、ギルド長に立つように促す。



「いいわ、許して上げる。それよりも、状況を説明しなさい。とりあえず、ここら辺りの魔物は焼き付くしたみたいだけど」



「はい! その様でございます。しかし、敵はここだけに在らず。王都の至る所に出没している様子。また、王城に有りましても同じく魔物が出没しているようで、そちらは騎士たちが相手取っている模様です」



「なるほど…」



 簡単にだがカレンへと状況を説明するギルド長。それに思案を始めたカレン。



「な、なんだ!?」



「ど、同士討ち?!」



 と、そんな中で状況は刻々と変わっている行く様で、魔物たちがお互いがお互いに攻撃をしながら新しくカレンたちの前へとやって来た。



「どういうことだ?!」



 それを見て困惑するギルド長やハンター達。

 しかし、それを見たカレンはほくそ笑む。



「カレンお嬢様!!」



 そして、ほくそ笑むカレンの思惑通りにやって来たのはマリルとヒイロ達だった。



「貴方、ハンター達の取締役よね?」


「は? は、はい。ギルド長をやらせて頂いております」



 カレンは、先ほどから自分と喋っている相手がハンター達の中でも抜きん出て位の高い位置いる取締役だと思いそう聞くと、ギルド長は素直にそうだと答える。

 そして、その答えに満足したカレンはギルド長へと命令を下す。



「詳しくは言えないけど、あの魔物たちの中で私たちが言うことを聞かせられる個体たちが居るわ」



「なんですと!?」



「いま、そいつらを使って同士討ちをさせているの」



 見れば分かるでしょ? とカレン。

 それに半信半疑だが、確かに、新たに現れた多くの魔物たちが同士討ちを始めているのがギルド長の目の前で行われていた。



「これもシュフォンベルト家の恩恵だと思い感謝しなさい。それで、まずはアンタたちはこれから非戦闘員である王都の民を護衛しなさい。そうね、集める場所は王立図書館でいいわね」


「し、しかし」



 カレンの命令にギルド長は再び困惑を見せる。



「しかし、じゃないわ。まずは民の安全が優先よ!! ハンターであっても騎士であってもそれは変わらないでしょう? 溢れて襲ってくる魔物たちから民を護りなさい!! いま、軍は王都に居らず、騎士は王城の防衛で手一杯」



 ならば、代わりに動くのは、民を守るのはギルドハンターであるとカレンはギルド長並びに彼女たちの話に耳を済ませるハンター達に呼び掛ける。



「やりましょう、ギルド長」



 

 そう声を上げたのは若くして副ギルド長へと納まった青年だった。



「そうだ! アイツらが同士討ちしてる今の内なら救助活動も出来る」


「確かに数で押されていただけで、彼方が同士討ちで此方に来る数が減るのであれば、私たちは、こぼれを相手取るだなので余裕ですね」



「がははは、とりあえず、人間を襲うって来る奴をワシらが襲えばええとだけワイな」



「正論だけど言い方が物騒です、大将!?」



 そして、それに賛同する様にハンター達まで同調の声を上げ始める。



「どうするの? 事態は刻々と過ぎていくは、決断は早めにお願いね。私はそんなに気長じゃないから」


「………わかりました」



 カレンの言葉にハンター達の決意にギルド長は、決断を余儀無くされる。しかし、ギルド長も王国から半ば疎まれつつある自分たちハンターズギルドが王都の危機を救ったとなれば、胸のすく思いだろうと、意外とやる気に満ちていた。



「よし! お前ら!! これからは、ここに留まって戦うだけじゃなく。王都の民を護りながら戦うぞ!! 王都を護り歩くなかで、同じハンターにあったらギルドからその様な指令が出たと通知しろ!! いいな!!! これは、魔物を狩るだけの仕事じゃない!!! 王都の民を護る為の戦いだ!!!!」



 故に、ギルド長のハンター達へと指令を伝える声は次第と大きな物へと変わっていく。

 言葉を紡ぐ度に力強く、自分たちの価値を示す為の戦いだとハンター達に伝えていく。



「それで、シュフォンベルト家のお嬢様は…」


「カレンよ!」



 希望と羨望に満ちた視線をカレンに向けて、再び語りかけるギルド長にカレンは再度、名前を名乗る。


「はい! カレンお嬢様は、これからどうなさるおつもりでしょうか?」


 それに、即座に反応して言い直すギルド長はカレンに、次はどの様に動くのかと問う。



「そうね…」



 それを聞いて、しばし、カレンは考える。



「とりあえず、王城を目指すわ。その道中で、民を助けながら、こぼれて暴れまわる魔物を倒していくわ」



 そして、真の目的地でもある。

 王城を目指していくとギルド長に伝える。



「では、途中まで私と部下がお供致しましょう」



「えぇ、お願いするわ。マリル、ヒイロ、あなた達も、もちろん着いてくるのよ!!」



 そうして、カレンはマリルとヒイロも伴って王城へと向かって歩き出したのであった。











「押せ押せぇえええ!!」


「このぉ!!」


「うぉおおおっ!!」



 王都アースラルの真ん中にそびえ立つ純白の王城では、騎士たちが昆虫型の魔物を相手に死闘を繰り広げていた。



「むぅう、もう、ここまでやって来てしまったか」



 そして、死闘を繰り広げているがその戦績は芳しくなく。魔物達の数の暴力で、徐々に王城の奥へと、王の間へと近付いて来ていた。



「カリヤック大臣、そろそろ、剣の準備をしろ」



 そんな中で吹き出す汗を拭いながら顔を赤くしたり青くしたりするカリヤック大臣にアストリナム王は静かにそう告げる。

 机上での軍議や、その前の戦隊の指示などではその手腕を見せるカリヤック大臣だが、本人がその戦場に出るとなると急にへたれてしまうのが彼の欠点であった。

 故に、そんな彼を安心させる意味でもアストリナム王は努めて冷静で、事の際には己が先陣を切って戦うという意気を見せて彼の精神安定剤としての役割を果たす。



「わ、わかっております。しかし、陛下は私の後ろに騎士たちを前にお願い致します」



 そして、その役割が効いているのか、カリヤック大臣は悲鳴をあげずに、何とか国防大臣としての意地をみせていた。


 と、そんな二人がやり取りをしている内に王の間の扉の前であれほど騒がしかった騎士たちの掛け声が消えている事にアストリナム王直属の近衛兵である親衛隊の隊長が気が付く。



「陛下…扉前の騎士たちがやられてしまった様子です」



「そうか」



 そして、隊長はそれをアストリナム王に伝えると部下を彼の周りに配置して、王を囲む様に護衛させる。



「………」


「………」


「………」



 息を飲むのさえ戸惑われる静寂が王の間に流れる。

 果たして、扉の前ではどのような凄惨な状況が広がっているのか、想像するだけで恐ろしいと親衛隊の一人は思った。


 そして、長い沈黙と静かな空気が流れて王の間の扉が開かれる。

 最初に目には入ってきたのは、白銀の髪の毛。それに、白銀の瞳と親衛隊第七番隊隊長である事を示す赤色のマントだった。



「っ、リューレスト=オルグ…!!」



 その者の正体に最初に気が付いたのはカリヤック大臣。そして、彼は思わずしてリューレスト=オルグの名を呟く。

 そして、何故、いま彼がこの王の間に現れたのかを考えた。



「おぉ、リューレスト!! そなたは無事であったか!! そなたがその扉から来たという事は、そなたが敵を倒したということか」



 リューレスト=オルグを見て、アストリナム王がその様な事を言い始める。



「………」



 それに、リューレストは答えず、ただ、ゆっくりと王の間の中へと入って来る。



「止まれ!!」



 そんな彼に嫌な予感を脳裏に過らせたカリヤック大臣が大きな声でリューレストの歩みを止める様に叫ぶ。

 しかし、その言葉にリューレストは従うことなく。やはり、ゆっくりとカリヤック大臣、他、親衛隊とアストリナム王の方へと向かって歩みを進めてくる。



「何を言っているカリヤック? リューレストが敵を全て倒したのだ、危機は去った。リューレストの、英雄の活躍を、讃えねばならぬ」



 そんな訳がない。

 カリヤックはリューレスト=オルグの事になると変に彼に肩入れをして判断を(にぶ)らせるアストリナム王に内心で舌打ちをする。


 怪しい。

 すこぶる怪しいのだ。


 その素性のしれない経歴が、その底を見せない不気味な程の強さが、そして、何よりカリヤックが長年、嫌と言うほど付き合っていく腐った貴族たちの様な張り付けた笑顔を見せるリューレストが危うくて、怪しくて、カリヤックは彼に信用を置けないでいるのであった。


 そんな彼がこの場面で一人で現れた事にカリヤックの危機感が限界を超えて、訴えてくる。



「そこで止まれと言っているのだ、リューレスト=オルグッ!!」



 そのカリヤックの尋常じゃない程の警戒にアストリナム王を囲む親衛隊も剣を鞘から抜刀し、リューレスト=オルグへと警戒を強める。

 特に、隊長は前へと出て、剣を構えて彼を待ち構える様子を見せる。



「何故ですか?」



 そんな中でカリヤックの散々嫌ってきた腐った貴族のする張り付けただけの笑顔を見せてリューレストが、そう問うてきた。



「何故だと?」



 それにカリヤックは渋い表情を見せて答える。



「怪しいからだ!!」



 そう、理由は至極当然、怪しいからだった。



「何故、ここに来た。貴様はカレリーナ姫様直属の親衛隊だ!! 王城の何処かで魔物と戦っているのならいざ知らず、何故に王の間へとやって来た」



「それは、王の安否を心配してですかね」



「何を戯れ言を…。ここには国王陛下直属の親衛隊が居る!! そして、各親衛隊には有事の際に防守する持ち場を与えられている筈だ!! そこの指揮を放棄してやって来た貴様に、疑念を浮かべぬ私ではない!!」



 王の親衛隊を除いて、一番から七番の数を与えられた親衛隊は、各姫君たちを護る他に有事の際には防守しなければならない場所がある。

 現にリューレスト以外の親衛隊長、並びにさの指揮下にある部隊はそこの防守に専念している事だろう。そうやって、城の守りを固めて、外敵から王を護るのが親衛隊の仕事でもあるだ。


 だというのに、目の間の七番隊隊長であるリューレスト=オルグは、その持ち場を離れてこの王の間までやって来た。

 いくら七番目の姫であるカレリーナ姫が城に居らず、他より指揮が楽になっていたとしても、それは可笑しな事であった。

 故に、カリヤックはリューレストを危険視する。リューレストの行動を細部に渡って怪しんだ。



「持ち場ですか? あぁ、そんな場所もありましたね。しかし、護るべき姫君も居ませんし、私が居なくても部下たちは優秀なので何とかなると思いまして、それなら、私は王の安否を心配するべきかと駆けつけたのですがね…」



 やはり、それは嘘だ。

 カリヤックは白々しく肩を(すく)めるリューレストのその姿に寒気を感じた。

 それは、己が悪意をぶつけられた時に感じる類いの悪寒であった。




「やれやれ、どうして信じて貰えないのでしょうか……やはり……顔に……出てしまっているのでしょうかね?」



 すっと、リューレストは何処からともなく鉄製の仮面を取り出すと、ゆっくりとそれを己の顔に着け始めた。



「これで、表情は読まれませんか!?」



 それは無機質で冷たい印象を持った鉄仮面であった。

 そんな冷たい鉄仮面の様にリューレストの声も冷たく、鋭い物となっていく。



「っ!? ぐぁあっ!?!」



 その攻撃は目にも止まらぬ抜刀であった。

 アストリナム王、カリヤック大臣たちの一番前で剣を構えていた親衛隊長の腕が斬られ、宙へと飛んでいく。



「王の安否を心配していたのは本当ですよ?」



 だと、言うのに何の感情も無くリューレストは、話ながら、再び、カリヤックたちの方へと歩みを進め出す。




「私に殺される前に魔物に殺されてしまうのではないかと、本当に、心配していましたよ?」




 

 そうして、鉄仮面の怪人ギュソー。

 リューレスト=オルグがアストリナム王たちへとその剣を向けたのであった。









タ、タイトルが、良いタイトルが思い付かない…。

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