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第27話:Invader



 その様子に誰がいち早く気が付いたのか。

 気が付いた時には、その者の息は既に絶えていた故に、それがこらからの遅れへとなっていく。


 魔術学院に認められた正式な魔術師同士の決闘いうのは、学院に住まう魔術学徒や教員たちとって恰好のエンターテイメントだ。

 故に、水の闘技場に人々が集まるのは普通の事であり、そして、その戦いが熱気を満ちた物だとすれば、熱狂し、歓声をあげる事も当たり前だった。


 故に、気が付かない。

 その異物に、それが吹き起こす異変に…。



「がっ…ごっ…」


「ん? なんだよ? いま、いいとこなんだよ、じゃま…え?」


「ごバッ!!」



「ギルrrrrrrrririiirrrrirp!!」



「へ? がっ…」



「え? なに? え? ぎっ!?……」



 一人一人、その異物はその持てる異常なる力で闘技場での戦いに熱狂する人々を手に掛けていく。



 そして、その異変はこの一体の異物だけからではない所からも発生し出す。



 対角線、真横、真上、四方八方と人々に異変の仲間たちが牙を剝いていく。


「ぎゃあーー!! 化物だぁ!!」


「人が、人が死んでるわ、うっぷっ…」


「ど、どけ! 俺をここから出せ!!」


「ふざけんな! 俺が先だ! テメェ、なにしやがる」


「いやぁ、助けてぇ!!」


 そうして、恐怖が拡がっていく。




「なんですか、コレは!?」



「ふむ、これは…侵入者じゃな、それも悪意ある」



「な?! 有り得ません!! このアート・ラ・ティハラに侵入者など!!」



 その観客たちの騒動に観覧席でカレンたちの戦いを見ていた魔術学院の長であるMs.ルヴァリスと旅の商人フーガーも気が付く。

 しかし、ルヴァリスの方は己の学院の置く土地に侵入者が入り込んだ事が信じられない様子で、フーガーの声に抗議の声を荒げる。



「じゃが、真実、侵入者がこのアート・ラ・ティハラの地に足を踏み入れておる」


「なぜ?!」


「(古の魔王の恩恵が切れたと見るべきか…まだ、若き魔王の力が弱いと見るべきか)」 


「なんですって!?」


「いや、流石に古の魔王の力も弱ってきていると見たほうが良いと考えてな」



 フーガーは己の考え全てをルヴァリスに話すつもりはなく。一応、懸念出来る理由を上げて、ルヴァリスの問に答える。



「馬鹿な!! の闇王様の力が弱まっているなんて…」 


「あり得ん話しではなかろう。あの方ももう古の時代の方。消えてもなお現代にまでその力の一端を残し続けてこられた事の方が稀有という物だ」 


「しかし、未だアート・ラ・ティハラはあの方の加護の元に空を飛んでいるではないですか」



「あ〜、じゃから、限定的に弱まっていくと考えられるという訳じゃ」



 そんな馬鹿な!!

 と、ルヴァリスが何度目かの叫びを上げた、その時、青天井で開放されていた闘技場の空から数多の異物たちが飛び込んで来た。 

 それを見て、ルヴァリスは青い顔をさせて、思考を停止させてる。



「ちっ! えぇえい、いまは魔王の恩恵の有無は置いておけ!! お前の死なせたくない姫君にも危険がせまっていやがるんだ!! ここの教員共も魔術師でちったぁー使えるんだろう?」



「そ、それは当然です」



「ならば、戦わせろ」



 そんな、ルヴァリスの姿に苛立ちを見せたフーガーが彼女へと激励をし、場を整える事を進言する。

 腐ってもここは名高い魔術学院。

 多少なりとも腕に覚えのある魔術師として教員職に就く者たちが居るはずだ。

 ならば、こういう時にその力を行使しなくてはどうするのだとフーガーはルヴァリスの側に使える秘書にも同じ事を告げて、部屋から追い出す。

 


「護衛って程でもねぇが、役には立つはずだ」



「そ、そうですね」



 なまじ、不可侵な力。

 結界を信じ過ぎたが故に、このアート・ラ・ティハラの土地、その土地に立つヴァースレイド魔術学院には護衛という名の戦う兵士があまり居ない。

 故に、内部に入られてからという今回の事の様な出来事には弱かった。

 それを、悔やんでルヴァリスは苦悶の表情を浮かべるが、今はその事を悔んでいる暇はない。



「フーガー、貴方も手助けして下さい! 魔術教員たちが学徒たちを逃がすでしょうが、手はあるだけ必要ですので」



 ルヴァリスはそう言うとある一定方向を見る。そこに居るのは己が目を掛けていなければならない存在。希望と言っても差し支えない少女。



「な!? もう、あそこにまで!!」



 しかし、ルヴァリスがその方向を見た時にはもう遅く。

 少女たちにへと侵入してきた異物の魔の手が差し掛かっていた。




 そして、そんな少女たちと言えば、これで、私の勝ちね、とカレンが決めた所までは良かった。

 カレンにとって最高に決まった台詞で言ってみたかった台詞だ。

 それを言えて、勝負にも勝てて満足なカレンであったが、歓声が上がり、暫くすると何やら観客席は悲鳴や怒号混じりの罵り合いになっていた。



「なに?」


「なにかしら?」



 カレンもフローアも決闘で互いに向けていた戦意を抑えて、周りで起きている異変に気を向ける。

 どうやら、騒がしい声によると観客席の至る所で殺傷事件が起きている様子だ。



「は? ヴァースレイド魔術学院で?」



 カレンの盲信するルヴァリスが治める魔術学院でその様な事件が起きるなんて思ってもみなかったと彼女は半信半疑で辺りを見渡す。



「ふむ、魔術学院の魔法船が空賊に襲われたとは聞きましたが、これも、それの延長上にある事件と見るべきでしょうか…?」 



「むっ…」



 フローアの言葉でカレンは己が乗っていた魔法船での出来事を思い出していた。

 


(まさか…ね…) 



 それから、魔術学院へ来る前に王城でマリルに忠告された言葉も思い出す。



「ギルrrrrirrrrrrirrirrgrg!!」



 そうして、狙った様に自分の元へとやってきた異形の怪物。



(コイツ、いえ、コイツラの目的は私!?)



 ハマるピースの欠片は形を成して、カレンに苦い痛みが心に走る。



「ミス・カレン…」  


「フローア、動かないで…どうやら、コイツの目的は私らしいわ」



「え? 貴女、何を言って」



 大きさ2メートルを軽く超えて、その形は人族のそれを成しているがその容姿は虫。

 銀色や銅色の金属色で身体を多ているのは、どういう属性なのか、仄暗いその者の眼は、しっかりとカレンを見据えていた。



「っ!!」



 故に、先制と言わんばかりにカレンは魔法杖から炎系統の魔術を放とうとする。



「ぎゃぎrrvvriirirrpirrr!」


「なっ!? ちよっ、離し、離しなさい!! きゃああああああああっ!!?」



 が、それよりも早く人形の昆虫の動きが早く。カレンはその足を掴まれて、空中へと連れ去られてしまう。



「ミス・カレン!! くっ、ウォータージェット!!」 



「ぎゃぎrrrrii_iriivr」



 フローアがそれを阻止しようと水魔法で昆虫に攻撃するがそれはあっさりと払い除けられてしまう。

 そうしてる内にカレンと昆虫はドンドンと高く空に飛び上がっていく。



「ちょっと、貴方!! 何をいつまでボケっと眺めているつもりですか!! ミス・カレンの彼女の使い魔でしょう!! 追い掛けなさい!!」



 そこで、漸くフローアはもう一人ここに居る人物を思い出し、彼にカレンを助ける様に言う。




「なんだよ、これ…空だぞ、ここ…なのに、なんで」



 しかし、当の人物は何やらブツブツと呟いており、放心していた。



「何をっ!!!」



 主の危機に身を呈して護りに行かない使い魔など、使い魔足り得ない。

 そんな、姿のヒイロにフローアは衝撃を受けて、また、怒りを覚えた。



「ウォーターボール!!」



「あがっ!?」



「何をしているのですか!! 使い魔ならば、主人を取り戻して来なさい!!」



 だから、フローアはヒイロへと水魔法を適度にぶつけて目を覚まさせた。



「何しやがる!!」



 しかし、それでカレンを救いに行こう思うヒイロではない。彼にとっては彼女は目の上のタンコブも同然の様な存在だ。

 それを何が可笑しくてあの様な化物と相手にしてまで助けに行かなければならないのか、というのがヒイロの心中であった。



「フローア様、ありがとうございます。どうやら、彼も正気に戻った様子」



 しかし、そんなヒイロの心中など知らずと言わんばかりにカレンのメイドであるマリルが現れ、ヒイロの首元の服を掴む。



「え?」



「さぁ、行きますよ、従者どの」



 グッと込められた力は身の細い女性の物とは思えない程に剛力でヒイロは引き摺られる様にして、闘技場から引っ張り出される。



「あの何処へ!?」


「カレンお嬢様の所です」


「え? 場所が分かるんですか?!」



「…えぇ、おおよその場所は」




 マリルがヒイロを連れてカレンの連れ去られている場所へ向かう一方で、昆虫型の魔物に足を掴まれて空中を行くカレンは叫んでいた。



「ふっざんけじゃないわよ!! 誰の足に触ってると思ってるの!? そのブッサイクな顔で、こんな事をして許されているとでも思ってるいるの!!? 聞いてるの!?」



 しかし、そんなカレンの叫び声も何のその。

 昆虫型の魔物は、無慈悲に無感動にカレンを目的の場所へと運ぶ仕事に専念している。



(ちっ、言葉の揺さぶりが聞かない。やっぱり、昆虫って事かしらね…)



 ブラブラと地面を下に視界を制限されながらも、カレンの心は冷静だった。

 何故かは分からないが、怪人ギュソーと相対していた時より、平静を保っていられる。

 そして、ふと、先程の決闘での己の使い魔であるヒイロの活躍を思い出した。



(会った時はあんなにボロボロだったくせに、戦わせればそれなりに出来るのね)



 己の使い魔なのだから当然と思えるが、彼は真のカレンの使い魔ではない。しかし、何故か分からないがカレンにはこのままでいい程に彼が使い魔ままの方がしっくりときていると思えた。



(一応の使い魔が出来た事への心の余裕かしらね)



 カレンの推理は半ば当たっていた。

 魔術師が使い魔を呼ぶ理由は、魔素を扱う術者として身を守るの他に、その術者の心に寄り添える者として存在させる為の物でもあるのだ。

 ここで、使い魔として正式に契約されていない状態のカレンとヒイロの関係だが、しかし、カレンの心情ではヒイロが使い魔で居ることに何かしらの安心感を覚えていた。

 ここに来て正式と言われる儀式を通さずとも、仮のままだが使い魔としての仮契約をした効果が出始めていたのだ。



(さて、ここら辺が真広いわね)



 そして、上記の理由で心の余裕があるカレンは周りを良く見て、自分が地面に到着しても安全そうな場所を確認すると、魔法杖から火炎を放ち、昆虫型の魔物へと思い切りにぶつける。



「きがっ、?、rsprprq」



 その衝撃に驚いてカレンの思惑通りに魔物は彼女の足を離してしまう。



「ウィンドドーム!!」



 そうして、離されたカレンは空中へ投げ出されるが、地面へとぶつかる前に風魔法で風のガードを敷いてふんわりと着地を決める。


「ぎるrrrrrrrrllrl_lf」


「ぎるりvlooliilcom」


「ぎりrllliirrrrrrpr」


しかし、周りには既に魔物たちが何体か蠢いており、着地してきたカレンの方へと視線を向けてくる。



「はぁ、面倒ね」



 幽霊や怪人などという訳の分からない物じゃなければ、巨大昆虫型の魔物だろうとカレンの敵ではない。



「ウィンドカッター、ウォーターカッター、フレイムカッター!!」



 故に、属性に関係なく殺傷能力の高い攻撃魔法をこれでもかとカレンは魔物たちへ向けて放っていく。

 その攻撃で頭を飛ばす者、四肢を飛ばす者、燃え盛る者とダーメジの受け方はまちまちだが、すべからく魔物たちの殆どが再起不能となっていく。


「ギリrrsrrrvvrrgiirgpr」


「ぎらrrtldriglirigrp」


「ぎゅぃいrrrrlliiilrqri」



 ただ、魔物の数が多く。

 カレンが魔法で幾度となく攻撃しても、その屍を超えて更に群がってくる。 

 個体だけなら脅威ではないが、これ以上団体で来られると流石のカレンも魔力切れという結果で危うい状況に陥るかもしれなかった。



「ご無事ですか、カレンお嬢様!!」



 しかし、そんなカレンのちょっとした懸念も漸く現れた二人の従者によって晴れる。



「遅かったわね、まぁ、いいわ。マリルは私の後ろに、ちょっと、あんたは前よ。魔法で弱らせるからトドメはあんたの剣でお願いするわ」



 そう言って、カレンはやってきた侍女であゆマリルを後方に、前衛に魔法剣を持つヒイロを立たせようとした。



「いえ、それにはお呼びません…」 


「え?」



 しかし、その命令はいつもカレンに忠実なマリルの言葉によって退けられる。  



「不思議にお思いでしょうが、ここは私に任せて下さい」



 そう言って、マリルは昆虫型の魔物の前へ出ていく。


「ちょっと、何してるのよマリル!!」



 これには、カレンも流石に驚いて声を荒げる。



「大丈夫です、カレン様。彼らは私の言うことを聞きます」



「は?」



「貴方たち、誰の命令でこの方に危害を加えようとしているのかは知りませんが、命令を撤回します。直ちにこうべを垂れて、何処となりへと去りなさい」


「ぎき?」 


「ぎrrpv 」


「きゅいーんrlop」



 それは、本当に不思議な話だった。

 カレンや魔術学院の者たちを襲った魔物たちにマリルは命令が出来る。  

 そして、その話は本当の様でまちまちにだが、あれ程、攻撃的だった昆虫型の魔物たちはマリルへと頭を垂れるとその背に生えた羽を羽ばたかせて跳んでいく。


 その姿はまるで、この事件の首謀者が…。



「申し訳ありません。何故、彼らが私の言うことを聞くのかは教えられませんが、今回の彼らを使っての襲撃の首謀者は私ではありません」



 と、そう無理やり連れてこられたヒイロが考えた所でマリルからの否定の言葉が割って入る。

 しかし、カレンの行方を瞬時に察知し、迷うことなく、ここまで連れてきたのもマリルなので、ヒイロのマリルへの疑念は拭えない。



「ふぅーん、まぁ、いいけど。コイツらなんなの?」



 ただ、拐われた当人であるカレンはマリルの言葉を信じ切っている様で、魔物の正体を聞き始めた。



「はい、彼らは遠い西国の島国を拠点としている鉄鉱原子といわれる機械鎧でございます」



「機械? 機械っていうと、芸術都市バファールで流行ってるっていう」 



「はい、そちらの物の多くは小さく簡易的な物ですが、間違った認識ではありません。その様な技術が使われて、アレらが出来上がって、おおよそが西国の機械王の命令によって動いております」



「おおよそなの?」



「はい。西国では彼らは売買されており、その主人となった者によって下される命令が優先されますので」



「ふぅーん、西国ってちょっと怖い所なのね」



「…そうですね」



 ここでまた、ヒイロの中でマリルへの疑念が増えた。売買された機械の権限は、その買った持ち主にある。そう、明言したにも関わらず、マリルは、その権限を超えて、魔物たちの命令を撤回し、変更した。

 売買された時点で機械王とやらの権限が離れたにも関わらずだ。

 これは、一体、どういう事なのだろうか。

 そもそも、本当に魔物たちの主人がマリル出ないという証明はされていない。

 つまり、まだ、彼女は疑惑の中にいるのだ。


 ヒイロは、魔剣アイゼルの柄を握り、マリルへと注視した。

 何かしら変な動きをしたら、いつでも動ける様にだ。



「ギリルリュル4rrijvgjtvlpojn!!!!」


「きゃあっ!?」


「な?」


「マリル!?」



 しかし、それは思いもよらぬ所から思いもよらぬ者へ攻撃がなされた。

 一応にこうべを垂れて去っていく昆虫型の魔物達だったが、その一匹が突如、下げていた頭を上げて、カレンへと語りかけていたマリルへとその鋭利な爪を奮ったのだ。

 あまりの速さと勢いにヒイロは動けず、マリルも気付けずに真正面から魔物の攻撃を受けて、その衝撃で数メートルもの距離を吹き飛ばされた。



「っ! アンタ、なんなの!? マリルの手下じゃ無いわけ!? ファイヤーアロー!!」



 その場で直ぐに動けたのはカレンだけ。

 彼女だけは魔物の敵意を感じるとすぐ様に攻撃魔法で魔物を撃退しようとする。



「ギューーンキューーンギリリラrrrjlvrvz」



「ちっ、しぶとい! ストーンエッジ!!」



「ギッ!?」



 地面から生えた土柱にその身を吹き飛ばされて、昆虫型の魔物が遠退いていく。




「マリル!!」



 それを見て、カレンは振り返り、マリルの元へと急ぐ。



「ぐっぐぐ、こんな筈は…申し訳ありませんカレンお嬢様…彼らは私の言うことを聞くはずなのです、本当に…あぐっ」



「そんな事は分かってんのよ! 現に他の奴らは今も律儀に頭を下げて飛んでってるわよ!! でも、アイツ!! アイツだけ違う!! よく見たら、他の奴らともちょっと違うのもわかったわ!! だから、あんたの言葉を私は信じてるし、とにかく、今は傷の手当を…ヒール!!」


「すみません、カレン…お嬢様…」


「っ! …気を失ったみたいね…」


「ギリルリュルrllvigjltvyo!!!」


「ちっ! しつこいのよ!! ファイヤーショット!!」


 カレンの魔法杖から二つの火炎の弾丸が飛び出る。

 昆虫型の魔物の頭と土手っ腹にぶち当たり消えていく。

 それに動きを止められて、魔物は棒立ちになる。



「イッライラさせてくれるわ!! 何なのよアンタ!!」



「ギリルリュルrllmアストリナムvwrpホロブベシ」



「あ?」



「ギルリリリルrrvmiシrvjwねvoyr」



 しかし、棒立ちになった魔物は中腰になり、その口を大きく開く。



「カッ!!!」



 次の瞬間、カレンへ目掛けて真っ直ぐに高熱線が走っていく。



「やばっ!!」



 それを見て、ウォーターシールドを張ろうとするカレンだが、間に合いそうにない。



「っずぇえい!!」



 そこに、飛び出してきたのは魔剣アイゼルを携えたヒイロだ。



「ジェット水流も何とかなったし、これもってあちぇえええええーーっ!!?」



 しかし、魔剣アイゼルを前にガードするもその高熱からは逃げられなかったらしく。熱線に触れた部分を冷やす為に地面へと転げ回る。



「何やってんのよ、あんた…」



 それを見て呆れるカレンだが、しかし、ヒイロが前に出て魔剣アイゼル出さなければ、被害はもっと酷かっただろう。

 何も考えずに飛び出したであろうヒイロだったが、これは英断であった。

 敵の熱線を魔剣アイゼルは確かに両断し、その効果を和らげたのだ。

 で、なければ、今頃はカレンとて重症を免れなかったであろう。




「くっ、失敗した…」 


「まぁ、いいわ。私は無傷で助かったわけだし。良くやったわ、下僕げぼく!!」


「下僕やめーい!!」



「ギルラユルラルrrllrglorアストリナムrlloyホロブベシ」



「なぁ、なんか聞いた名前で不穏な事を言ってねぇーか、アイツ」



「そうね」



 ヒイロに言われなくても、一度目にこの魔物が言葉らしき物を発した時にカレンは気が付いていた。

 この魔物は他の連中とは違う命令を受けている。

 そして、他とは同じ個体ではない別個体であることに、カレンは何か裏で蠢く策略的な何かを感じ取っていた。



「我が国を狙うどこかの他国さんのことかしらね」



 それとも、真にカレンを亡き者としようとする何かか…。



(ハッ、今更、私に何の価値があるっていうのよ…)



 怪人ギュソーの時にも考えたがアストリナム王国を狙うなら、自分の様なみそっかすではなく。自国へと多大な貢献をしている姉姫たちを狙った方が余程良い作戦だと思うのだが、この作戦の首謀者はそう思っていないのだろうか。


 ギュッとカレンは己の髪の毛を握り締めた。


「イライラする」


「あん?」



「訳分かんなくてイライラするって言ってんの!?」



 その怒りはマリルを害された怒り。

 その怒りは訳も分からず狙われる怒り。

 その怒りは何も出来ずに逃避する自分への怒り。



「ギリルラrlovrvillマジョrllコロス」



 あぁ、劣等感はまだ払拭されていないか。

 カレンは己の両瞼に手をやり、息を吐く。

 狙われている時でさえ、誰かと比べてしまっている。

 そんな自分にカレンは怒りを抱く。


「pギルヒニrllvuw!!!」


「アンタも煩いのよ!!」  


「お、おい、大丈夫か…?」


 そんな様子の変なカレンにヒイロが思わず声を掛けるが、カレンはそんな事など気にせず、魔法杖を魔物へと向ける。

 すると、その杖の先から薄白い線と円が空中に飛び出して丸く入り組んだ魔方陣が描き書かれ始める。

 そうして、完成した魔方陣にカレンが魔力を込めて、呪文を唱える。





「『アトモウスト・バーン!!!』」



 


 辺りの空気がカレンの方へと一気に流れ込む。その瞬間、何かの弾みと切っ掛けでおどろおどろしい高熱の火炎が魔物へ向けて一直線に薙ぎ払われた。

 周囲の酸素をも喰い物にして、魔素をも食らい尽くして、辺り一面を爆発と火炎の地獄へと変える魔術。

 それが、カレンが持つ最高の魔術だ。


 そうして、それを放たれた者が飲ま込まれたのならば、もはや、その影すら無くなってしまう程の威力を持つそれをやり遂げてカレンは、ツンと小さな鼻っぱしらを釣り上げて、消えていたであろう魔物の方向を見上げる。



 ただ、そんな彼女の髪の毛の色は桃色では無く白色へと変化しており、また、その瞳も銀色の眼へと変わっていた。




      

















キャラクターが勝手に動いて思う様にしてくれない〜(涙)

でも、話は少しずつ進んでる〜(嬉)


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