第26話:浮遊大陸に、御用心!?(7)
水。
それは、生命の源。
人の大半を占めるその存在は、人が人たらしめるものと言っても過言ではないのかもしれない。
が、しかし、水=人ではない。
否。
断じて、否である。
黒髪の異世界少年ヒイロは、いま周りを水に覆われた円状の闘技場にと立たされていた。
理由は不明。
ヒイロの立場にて不明である。
だが、目の前に居るデコっぱちを晒した金髪ドリルヘアーのお嬢様には見覚えがある。
思い出せ、ヒイロの脳、海馬。
彼女は誰で、何故、自分の前に居るのかを…。
さて、そんな事を考えているヒイロを他所に桃色の髪色を持つ少女カレンと金色の髪色を持つフローアは、互いに獰猛な笑みを浮かべて嗤っていた。
「ミス・カレン、よくぞ、いらっしゃいましたわ」
「いいえ、こちらこそ、御招き下さり御礼申し上げますわミス・フローア」
「なんの、しかし、まさか本当の誠にそちらの方が貴女様の使い魔だったなんて…なんて…なんて…言ってよろしいのかしら…」
「あら、別に称賛して下さっても構いませんわ。そちらの物珍しい【鳥】と同じく【人】というのは物珍しい使い魔らしいですから…ワタクシの使い魔は…」
フフフ、ウフフフと互いが互いに見えない壁を積み上げて登るかの様に言葉にて剣戟を交わす両者。
世にも恐ろしいのは女性の伏して激突し合う争いではなかろうかと言わんばかりである。
事の発端は、カレンの嘘。
魔術師として下の下に当たる使い魔召喚の儀に失敗したカレンが何かと学院内で衝突するフローアへと対抗する為に、または抵抗する為に苦肉の策として、その場に居たヒイロを己が使い魔として紹介した出来事。
そして、その使い魔認定されたヒイロに拠る水系統魔術最高峰と名高いフローアの使い魔が【鳥】だという言葉。
その2つが折り重なって、フローアを激怒させ、彼女の手腕にて貸し出しの許可を得て今、魔術学院の中の一つの闘技場である水の間にて二人は使い魔を侍らせて、相対する事となっているのである。
そういう訳で思い出せたかヒイロと彼に焦点を当てると彼は水面上に浮かぶ円状の闘技場に興味を惹かれてか、そちらをボケーッと見ている。これではまるっきし阿呆だ。
対する、フローアの使い魔こと【鳥】改めペンギン目ペンギン科の彼、リーグジュエヌは、クカカカカッと口から鳴き声を鳴らして、阿呆ことヒイロを威嚇している。
リーグジュエヌにやる気があるのか、阿呆にやる気がないのか。対する両者の意気込みは、対照的だ。
が、阿呆を擁護するのならば、まず、タイミングが悪かった、そして、場が悪かった。
タイミング。
その夜、ヒイロはセンチメンタルでマジモンのジャーニーしてて草臥れていた。なのに、美少女とはいえ、二人掛かりで取り押さえられて、部屋に閉じ込められて、翌朝、部屋から出されたかと思ったら、この闘技場である。
ヒイロから言わせれば、正に鬼畜の所業。
そして、場。
その闘技場であるが、まさしく、円状の盤があって周りは水に囲まれてはいるが、そのさらに周りには観客席がグルリと一周しており、コロッセオなのだ。
何を言っているのか分からないかもしれないが、ヒイロも何を言っているのか分からないから仕方が無い。
何かもう、グラディエーターじゃん。ユー、グラディエーターになっちゃいなYOと言わんばかりに、周りには数少なく無い観客が居て、目の前には戦うであろう相手が居る。
あぁ、相手がペンギンだから闘技場の周りは水に囲まれてあるんだなぁ、ひいろ。(まる)
なんて、つまり、彼はそんな何処かの素朴系詩人の様な事を考えて、現実逃避をしている最中なのであった。
しかして、現実は時を止めない。
クカカカカッと鋭く鳴き声を上げるリーグジュエヌの口元からジェット気流の様な水流が放たれる。
その威力は、ボクサーの放つボディブローと同等と言える威力で、水流はヒイロの腹部を捉える。
「グッ! ぐっええぇえーーっ………?!!」
リーグジュエヌのその攻撃方法とポテンシャルにヒイロは驚愕する。
マジか、お前!?
そのやり口、その威力。
ポケットの中のモンスターじゃねぇーか、お前!?
こちとら、クリスマスバルーンも無ければ、ランドセル背負った機械兵器も無いんだぜ!?
と、そんな事を思いながら彼は膝下から崩れ落ちて、ダラリと口元からヨダレを垂らす。
「クカカカカーーーーッ!!!」
しかし、そんな事など知らぬわ、存ぜぬわ!! と、リーグジュエヌの猛攻は止まらず、再び、ジェット水流がヒイロを襲おうとする。
「げはっ…ごほっ…じょ、冗談じゃねぇっ!!」
水は生命の源。
人の大半を占めるその存在。
だが、水=人では無いのだ。
それをぶつけられた所で身体に回帰する訳も無く。
ただただ、痛み、鈍痛となってヒイロを襲い来るだけなのだ。
故に、彼は転がりながらも逃げ回る。
ドシュン!! ドシュン!! と、幾度となく放たれるリーグジュエヌの攻撃に当たって堪るかと恥も外聞も無く逃げ回る。
「あらあら、そちらの使い魔さんは逃げるだけで何か特技とかはないのかしら…」
それを見て、己の使い魔の勇姿を得意気に、また、相手の使い魔の醜態に嘲笑を顔に浮かべてフローアがカレンへと言葉を投げ掛ける。
途端、そんな彼女の目の前に炎の壁が立ち上がり、迫り来る。
「あら、暖かい」
しかし、それを彼女は自らの手で出した水流により、両断し、かつ、炎を消化してしまう。
「チッ!」
その様子にカレンから舌打ちが打たれる。
炎の壁をフローアへと差し向けたのは彼女だ。
ヒイロとリーグジュエヌの攻防に目をやっているフローアの隙に乗じて火炎魔法で攻撃をかましたのである。
「嫌だわ、手癖の悪い。使い魔が使い魔なら、その主も主よね」
手に流れる水流を薄く伸ばして、カッターの刃の如くフローアがカレンへと飛ばし放つ。
しかし、それをカレンは風魔法を真っ向からブチ当てて、ただの飛沫へと化すると同時に土魔法でフローアの足元から柱を真上へと突出す。
「クッ! 流石に! 天才と言われるだけあって…」
火炎、風、土と多彩な適正を使いながら攻撃して来るカレンにフローアは足元から突出してきた細い土の棒を避けながらも、舌を巻く。
だが、負けない。
負ける訳にはいかない。
「あらあら、ウチの使い魔も逃げ回るのが上手い様だけども、ミス・フローア? 貴女もお上手だこと…逃げ回る事が!」
特にこの口さがない性悪な女にだけには。
カレンの舌戦に苦い顔をしながらもフローアは、自らの象徴とも言える水魔法をカレンへとぶつけていく。
ジェット水流ならのウォータージェット、ウォーターカッター、ウォーターウィップ。
水魔法に由来する物を駆使して、彼女はカレンへと相対していく。
だが、相手も然ることながら多適正に加えて、それを使い熟す多彩な技術の攻撃。
ファイヤーアローにパウンドウィンドウ、ストーンエッジと、どれも、下級から中級までと低い魔術でありながらも高威力を保持する物ばかりだ。
簡単に勝てる相手ではない。
一方で、カレンもカレンでフローアの魔法技術の高さに心の中で再度、舌打ちをする。
己は多適正による多面攻撃を得意とする。
しかして、その実は器用貧乏とも言える状態なのが実情だ。
だが、それでもカレンの魔法技術も天才と称される事で分かる様に高度な物で有ることも確かなのだ。
ただ、その高度な攻撃を、多彩さを持つ攻撃を目の前のフローアという少女は、たった一つの系統、水という系統の適正だけでしのぎ切り、また、こちらに隙があれば攻撃に転じて来る。
これが、意味する事は彼女もまたカレンとは違った天才という事になる。
(だけど、認めない)
認められない。
忘却の何某と呼ばれるあの少年もこの水系統最高峰と呼ばれる少女も、カレンには認められなかった。
天才は、一人でいい。
一人だから、価値があり、価値があるから、認められ、認められればこそ、その名声があの人たちに、あの二人の老夫婦に届くのだから。
「ちょっと!! アンタ!! 逃げてばかりいないで、何とかしなさいよ!!」
焦りは、苛立ちに、苛立ちは八つ当たりとなって、カレンの激怒がヒイロへと向けられる。
「な、こと、言ったってぇえぇっ」
が、しかし、そうされた所で只人たるヒイロにマジモンならぬ本気なモンスターたるリーグジュエヌに太刀打ち出来るかと言えば、そうは簡単にはいかない。
何せ、ヒイロ少年は基質が特にヘタレと来ている。
「何の為に魔法剣を返して貰ったと思ってるのよ!? この為に使用許可も取ってあるのよ!! 使いなさいよ、バカ!!」
魔法剣とな?!
と、ヒイロは頭を捻るが、己の背中に背負った魔剣アイゼルの事を思い出す。
それから、え? 使っていいの? と戸惑いを示す事となる。
相手はモンスター、魔物。
かといって、見た目はペンギン。
水の何かを吐き出して来るヤバい奴だが、果たして、刃を向けて良いのやら、本来のヘタレ基質も相まってヒイロは二の足を踏む。
「じゃなきゃ、アンタ! 死ぬわよ!!」
はい?
これまた、カレンの言葉にヒイロは頭を捻る。
「アンタ、周りを見てみなさい、周りを!!」
そう言われて漸く逃げるだけに専念していたヒイロは己の逃げ回った先々を見渡す。
すると、そこには固められた闘技場の石材がペンギンのジェット水流で抉り削られた光景が散りばめられているではないか。
ボクサーのボディブローも痛覚という概念が無く繰り返せば、岩をも砕くだろう事はヒイロの愚鈍な頭をしても理解出来た光景であった。
「マジか!!?」
ヤベェ!! と、魔剣アイゼルをやっとの事で構えてヒイロはペンギンモンスター・リーグジュエヌと相対する。
「しかし、ジェット水流を剣でどうにか出来るかと言われれば…」
斬れば良いのか、捌けば良いのか。
水を相手に真面目にぶつかった事のないヒイロは攻守共に解決の糸口を見付けられずにいた。
が、待ったはリーグジュエヌ側には無かったらしく再び、リーグジュエヌは口元からジェット水流を繰り出して来た。
「ちょっ、ま、あぇえいっ!!」
それに、反応をしきれないヒイロだが運良く水流は魔剣アイゼルの刀身に当たり、受け止められる。
「て、マジか!?」
すると、不思議な事にリーグジュエヌの放ったジェット水流を魔剣アイゼルは受け止めただけで無く、その場に留め、纏めて水球としていくではないか。
「こ、こいつぁ、使える!!」
そこで、ヒイロはそのままお返しとばかりにその水球をリーグジュエヌへと打ち返した。
「グワワワワッ?!?」
バシュッ!! と景気良く水球がリーグジュエヌへと当たると彼はそのままひっくり返りもんどりを打つ。
水のタイプに水の攻撃は、エヘンエヘン…となりそうではあったがその衝撃はかなりの物だったらしく立ち上がるリーグジュエヌの足元はふらついている様子だ。
「ハッ、イケる。アイゼル!! やるじゃねぇーか!!」
興奮さめやらぬままにヒイロはブンブンと魔剣アイゼルを振り回しながら、顔をニヤつかせる。
「さぁ、こいや!! 何度だって打ち返してやるぜ!!」
「グガッ!!」
そんな様子のヒイロにモンスターであるリーグジュエヌもイラッと来たのか舌打ちの様な罵倒の様な鳴き声を上げて、再度、ジェット水流を放つ。
「ほいさ!」
「グワワワワッ?! ……クカーーーッ!!」
「よいさ!」
「グケーーーッ!? ……グッ、グワワワワーーーーーッ!!」
「どっこいさーーっ!!」
「グワハッ!!?」
しかして、ゾーンに入ったが如く我が意を得たりとヒイロはリーグジュエヌのジェット水流を受け止め、水球弾に変えて打ち返していき、それが見事に全てリーグジュエヌへと当たるのだった。
ここに来て、この魔術学院にて経験した木こりによる己の持つ得物の捌き方、調理場による相手の注文や周りに合わせる捌き方、そして、武術の先生と仰ぐセイブとの格闘術で得た体幹が三位一体となり、ヒイロはリーグジュエヌの攻撃を捌き、逆に己からの攻撃へと転じる事に成功する。
「やれば出来るじゃない!!」
「リーグジュエヌ!!」
そして、それが意味する所はこの戦いに置いてフローアとリーグジュエヌ側では無くカレンとヒイロ側に優位性が生まれたという事になるのだった。
「どっ、ーーーーやらぁ? 使い魔の優秀性はうちが上の方ねぇえ? オホホホホホッ!!」
そして、その事でカレンの気分は向上し、人目も憚らず、下品な高笑いをする。
(わぁーー、なんか嫌なやつやー)
そんな、カレンを見てヒイロはゲッソリとした表情をしながら若干引いていた。
『『『ワーーーーーーーーッ!』』』『『『ピィューーーイ!!ピィューーーイ!!』』』『『『ワーーーーーーーーッ!』』』
「っ!?! っ!?!」
すると、ヒイロの耳に突如として人々の歓声や口笛の音が聞こえて、ビクッビクッと身体を強張らせる。
それは、ヒイロたちが円卓の闘技場へ登場した時より聞こえていた闘技場をぐるりと囲む観客の声。
突然な部屋への押し込みからの決闘場という何の説明もない状況での戸惑いと緊張感から五感が無意識にそれらをヒイロの意識から閉め出していた、それ。
しかし、相手への対処法を見付けた事がヒイロに僅かながらにも余裕を生み、思考を巡らせられるまで精神状態が落ち着いてきたこの状況で、ようやくヒイロは周囲の状況にも思考を割くことが出来て、彼の耳にも観客の怒号の様な歓声や口笛が入ってきたのである。
「な、なんだ、これ…っ、うわっと」
その騒々しい姿はまさしくコロッセオ。
ぐるりと囲むスタジアム型の観客席に数多くの観客人たちが集まって騒いでいた。
それを闘技場という下側から見渡して、ヒイロは足元をフラつせてたたらを踏む。
「ちぃい、リーグジュエヌ!!」
「ぐわわっ!!!」
その様にして今更ながら大事となっている決闘に呆けているヒイロではあるが、相対するフローアとリーグジュエヌがそれを許さない。
「ちょっと、なにボケッとしてんのよ!? アイツら何かしてくるわよ!!」
「はぇ?!」
惚けたままのヒイロにカレンが大声で危機を知らせるが、なしのつぶて。
そんな二人を置いておき、フローアとリーグジュエヌは動き出す。
円卓の闘技場の外側に回された円の泉。
その泉にリーグジュエヌがドボンと入り込むと、フローアはその泉の水の流れを操作する。
流れるプールよろしく一定方向に流れ続ける泉の水は荒れに荒れて激流と化す。
「グワワワワッ!!」
そこへ、激流から飛び出して、その勢いのままに空中を飛ぶリーグジュエヌがヒイロ目掛けて、ジェット水流を放つ。
「っ!?」
ここにきてからのさらなる木こりで鍛えた体幹と調理場で鍛えた手際の良さ、そして、糸目の先生との鍛練で鍛えた危機察知能力がヒイロの身を助ける。
水流のスピードに乗ったリーグジュエヌから更に強めのジェット水流がヒイロを目掛けて飛び出して来たが、呆けていたにしては何とかヒイロは魔剣アイゼルを間に挟むことが出来た。
「うぐっ!?」
しかし、先ほどと違って水流は剣先で玉になることなく、凄まじい勢いで二つに割れて、ヒイロの身体を擦っていった。
「いっ、たぁ…」
コンクリートをも砕く水流を更に強めた物がヒイロの身体にかすりながらも当たる。
その事は確実にヒイロへの身体へダメージとして残り、ひんやりとした冷水を浴びせられたにも関わらず、ヒイロの身体は水流で擦られた部分がじんっと熱く熱を持っていく。
ふと、上から触るとやはり軽くだが痛みが走り。どうやら、打撲程度のダメージを受けた様子である。
「こ、こいつぁ、やべぇ…」
通常のジェット水流のボディブローも食らえば一溜まりもないが、この擦れていくかすれ水流も受け続ければ全身打撲で大怪我である。
「クケーッ!!グワワワワッ!!!」
「ちっ! ぐがぁっつ!!?」
しかして、高速ジェット水流攻撃を繰り出してくるリーグジュエヌに対しての攻撃方法をヒイロは持っている筈もなく。何とか、魔剣アイゼルで最小限のダメージ値にしているだけで精一杯だ。
(くそ、泉の中に入ろうにも流れが急すぎて俺じゃ溺れるな)
ならば、己もリーグジュエヌと同じく泉の激流の中にと考えたが見れば解るほどの遠心力を増した激流へダイブして、泳ぎきる自信はヒイロには無かった。
ならば、その激流から飛び出してきたリーグジュエヌを叩くかとしようとすれば、それは相手も想定していた事なのか縦横無尽と出てくる場所を変えて、飛び出して来る。
何度も何度もリーグジュエヌの攻撃から身を守るヒイロの身体は徐々にダメージが蓄積されていき、ついには円卓の端っこで膝立ちとなり、身体は魔剣アイゼルで支えなければならない程となる。
「ちっ、何やってんよ!」
それを見てカレンがヒイロを助けるべく魔法を使おうとする。
「あら、ワタクシをお忘れになっては困りますわ」
しかし、それをフローアが許さず。
カレンとフローアは何度かの魔法の攻防を経て、睨み合う体制になる。
(ーーっ!! どうすんのよ、あの馬鹿。あのまま止まったままだったらあっちの使い魔のいい的じゃない)
ヒイロの方を気にかけながら、じりじりとフローアへどうにかして有効的な魔法攻撃をして、隙を作ろうと伺うカレン。
(このままの状態ならば、使い魔対決はワタクシの勝ちね、ウフフ)
そして、そんな隙を作らせまいとしながらも次のリーグジュエヌの攻撃で己の使い魔とカレンの使い魔の勝敗が決する事を予見して、フローアは内心でほくそ笑み。
そして、
「クケケーッ!!」
フローアの使い魔、リーグジュエヌがより効果的で決定的な一撃を加えようと飛距離の伸びるヒイロの対角線上から飛び出して、ジェット水流を口元から発生させ様と雄叫びをあげる。
「くっ、あの馬鹿!!」
「やりなさい、リーグジュエヌ!!」
二人の魔女が己の使い魔の決着を予見した。
コロッセオにいる魔術学院の学徒たちもその決着を予見した。
「待ってたぜ!! てめぇが、俺の真っ正面から飛び出してくる、この時を、よぉおおおっ!!」
しかし、ヒイロだけは全ての者の予見した決着を見ていなかった。
ただ、じっと自分が出来る攻撃を探していた。
ただ、じっと自分の攻撃が当たるその体制を模索していた。
円卓の闘技場の端で座り込んだのは、両端からではリーグジュエヌが飛距離を稼げないと判断するだろうと推測したから。そして、受けたダメージを大袈裟に見せて片膝を付いたのも、油断させ慢心させ、最大の飛距離からの攻撃を選択させる為。そして、そのやってくるだろう攻撃方向を選択させる為。
「そんで、しゃがみの片膝を立てたのはっ!! こうして、力を溜めて、一気に放つためだ!!!」
「ぎょわわわわわわわっ!!?!」
勢いを付けて飛び出してきたリーグジュエヌには空中で避ける事が出来ない。ただ、一直線にヒイロの元へと飛んで来る。
リーグジュエヌから放たれたジェット水流もまだ耐えられるダメージ量で力を蓄えていたので、倒れる程でもない。
何より、渾身の力で水流を魔剣アイゼルにて両断していくので、力負けした水流が先ほどの攻撃よりヒイロへ与えるダメージ量が少なかった。
「喰らえッ!!」
己の渾身の一撃と相手の渾身の飛び込みが合わさって、ヒイロの持つ魔剣アイゼルがリーグジュエヌへと牙を剥く。
「リーグジュエヌ!!!」
しかし、そこに異変を察知したフローアが咄嗟にリーグジュエヌへとウォーターシールドで包み込み、守護する。
それは、的確な判断でバシュッと嫌な音と共にウォーターシールドとリーグジュエヌが魔剣アイゼルに斬り流されて、斬られた方向にリーグジュエヌが飛んでいく。
「リーグジュエヌ!!! くっ、ヒール!!」
ウォーターシールドの加護のお陰で致命傷を避けられたリーグジュエヌだが、それでもかなりの怪我をしている様でフローアは即座に回復魔法をリーグジュエヌに施した。
「大事ない?」
「えぇ、なんとか、大丈夫の様です」
そこで、カレンからフローアへとリーグジュエヌの様子を聞く言葉が投げ掛けられた。
突然の出来事に驚いたフローアだが、回復魔法も施して、どうやらリーグジュエヌに何ら後遺症などが出ないと分かって、フローアはほっとしてその言葉に応じた。
「じゃあ、これで、私の勝ちね!!」
「は?」
しかし、次に出てきたカレンの言葉に何を言っているのだと彼女の方を見ると、フローアの目先にカレンの持つ魔法杖が突き付けられているのが見えた。
その切っ先には炎が灯されていて、何時でも発動出来ると言わんばかりの熱を保っていた。
ふぅ、なんとかここまで書けた。
フローア登場から長かった。ホントに(笑)