第24話:浮遊大陸に、御用心!?(5)
「ほんっとふざけんじゃないわよ!! 何なのアレ!? おかしくない!! いや、おかしい!!」
人間、間を外されると勢いが削がれる物でヒイロにとって目の前に現れた老人との会話は物凄く重要な事柄である筈なのにカレンのその勢いにより何だか声を掛け辛い状況にあった。
「5万よ!? 5万エクト!! アタシがどれだけそれだけのお金を苦労して捻出したのか、分かってる!?」
そうして、一つの騒ぎが過ぎたのに、またすぐに騒ぎを起こすこの女、ほんとにどうにかしないといつか痛い目に合うぞと、老人を捲し立てるカレンにヒイロはうんざりとする。
「偽物でしょ!? 偽物よね!! 偽物の魔導書を渡すなんて詐欺よ!? 詐欺!! アンタ、アストリナム王国で裁いて貰うから!! 分かってる!? 覚悟しなさいよね!!!」
一通りの話が終わったのか、デーンと老人にカレンが指を突き出した。
ここまで、何とも元気な九官鳥であるとヒイロの脳裏にそんなカレンの様子が思い浮かばれる。
「ふむ、姫」
「ごほん、シュフォンベルト家のカレンよ」
「………」
「………」
と、ここまでノンストップで喋り続けたカレンだが、老人が答えようと何かを喋ろうとして何故かカレンが自己紹介を始めて、それを遮った。
そんな様子を見て散々自分は喋り続けておいて人の話になると遮るなんてホントに失礼で自分勝手な奴だ、とヒイロは思った。
ただ、しかし、どうやら老人の方はそう思わなかったらしく苦笑いをしながらも灰色の顎鬚を撫で上げて落ち着いている様子である。
「カレン様、お元気そうでなによりですじゃ」
「は? 私はいつだって元気よ? なに? 偽物を売った事を誤魔化そうって訳?」
カレンのその言葉でそういえば自分もこの老人に騙されたのではなかったかとヒイロは思い出す。
そして、この老人は何か良からぬ企みを目論んでいるのではないかと疑った。
「そうでしたかの? あの時は酷く落ち込んでいた様に思いましたがの」
「はぁ? そんな訳ないじゃない」
だが、老人が何か良からぬ企みを目論んでいたとしても、その相手がカレンである事にヒイロは思い至り、別にどうでもいいかと考えを直す。
だいぶ、いや、かなりヒイロのカレンへの好感度は低い様子である。
「いいえ、いいえ、そうですとも。そして、それはきっとあの5万エクトでお売りした魔導書があったればこそ…ちがいますか?」
「だーかーらッ!! あれは偽物で、使えなかって言ってんの!!」
「はて? しかし、先ほどそこの少年が貴女様の使い魔であるとおっしゃっていらした様ですが…」
「はぐっ!?」
「成功されたのでしょう? あの5万エクトでお売りした魔導書で…?」
「……そ、そうだった、わ…えぇ…」
「それは、おめでとうございます!!」
「ッ~~~!!」
幾つかの言葉の応酬を経て言い負かされたか言い包められたかしたのだろう、最後にはカレンは言葉もなく声を上げて、足を踏み鳴らし始めた。
どうやら、老人の方が話術に置いて一枚上手であったらしい。
「そっちの話は終わったな? それじぁ、じいさん。とりあえず、俺の服と靴を返してくれないか…」
それを横目に今度こそ自分の番だとヒイロは前へと出て老人に話をかける。
あの日、あの時、突然に、訳も分からず、迷い込んだこの異世界で出会ったのは、何とも偶然か目の前の老人だった事をヒイロは思い起こす。
この老人は、最初の内は親切にもヒイロの話を聞き、親身になって右も左も分からないヒイロに水や食料等を分け与えてくれたのだ。
だから、その事はとても感謝をしている。
あの日、あの時、あの場所で、何も分からないヒイロを助けてくれたのは、この老人なのだから。
だが、汚れたからと元の世界から着ていた服や靴をほぼボロキレのローブと安っぽい革のサンダルに交換した途端、その日の内にヒイロが度重なる環境の変化で疲弊し、また疲労困憊で眠ってしまった隙に姿をくらますというのは、一体どういう事だろうか?
もしや、元の世界の製品である事できっと物珍しい服や靴だと思って、持って行ったのだろうか?
もし、そうであるならば、それは普通に立派な窃盗であり、犯罪行為である。
しかも、ヒイロを置いて行った場所が、あの太陽の照り付ける砂漠のど真ん中という所に殺意を感じるのは気のせいだろうか。
あわよくば証拠隠滅しかりと、ヒイロを消す腹積もりだったのではないだろうか。
「まぁ、しかしだ。俺は返すもの返して貰えれば、どうだとか、あーだとか言うつもりはない。あの時、本当に身の振り方が分からなった俺をアンタが助けた事は事実だし、感謝もしている。だから…」
疑いたくはない。
が、一度、そういう思考に流れてしまえば、そうではないかと思えてきりがない。
しかし、感謝している事もあるので皆までは言わない。
どうで、あーで、充分である。
ただし、持って行った物は返して貰いたい。
ヒイロはそう思った。
そう思ったのだった。
「ふむ、10日分の水と食料。後、新しめのナイフをキッチリそのまま同じ物を返して貰えれば、ワシも返すことに吝かではない」
「は?」
が、しかし、返ってきた言葉は思ってもみなかった物だった。
「まぁ、ワシと一緒に居た時に飲み食いした分は請求せんよ。オヌシの言う通り人助けじゃ。しかし、ほれ、聞いたと思うがワシも商売人じゃ。良かれと思って置いて行ったそれらの物をそっくりそのまま返して貰えるかの?」
そして、それはなにやら話の筋の通る様な内容であり、既に持ち物がボロボロとなってしまったヒイロにとってそれをそっくりそのまま返すことなど無理な話であった。
まずもって、あの状況で、当てどもない砂漠の中で、食料や飲み水を手に入れられる訳がなく。老人が置いていった物を消費して、あのアイゼルと出会った遺跡にたどり着き、そして、イシスの村までたどり着いたのである。そして、新しめだったナイフも幾度も使用している内にもはや新しめとは言えないし、なんなら、とある理由で鉄の剣にブチ当てたので僅かにだが傷付いてさえいる。
と、いうか、学院側の検品とかで手元にすら無い。
その状態でこの話し合いにてヒイロに有利に働くアドバンテージは皆無であり、もはや、結果さえ見えてきた様子だ。
「そも、あの物珍しいだけで実用性の少ない装備がいるかの? まぁ、勝手な物々交換での商談ではあったが、そこそこの物を渡したとワシは自負しておるが?」
いや、まず、勝手に交換するなとヒイロは心の中で声を張り上げる。
やはり、確信犯なのだろうか?
しかし、それを証明するすでをヒイロは持たない。
「そもそも、ワシからすれば、あの時ちょっと周りを見回って来たら居なくなっていて貸し与えていた備品を持ち逃げされたというのが正直な所なじゃが」
と、そう思った矢先、そんな老人の言葉にヒイロは驚愕の表情をする。
そして、その言葉が脳裏に染み込むように理解出来ていくと徐々に顔を青くしていった。
ちょっと、待て。
いま、なんて言った?と。
初耳である。
見回りをしていた?
そんな馬鹿な? と。
「嘘だ…」
ふるふると肩を震わせてヒイロはポツリと呟いた。
反論するにも言葉が思い浮かばず、また、浮かばないのでは出て行きもしない。
「嘘なものか、砂漠では昼間の移動は厳しいと説明したじゃろ。自生する植物の少ない木陰で夜までじっとしておれと言っておったのに、ちょっと目を離した隙に居なくなりおって…じゃから、貸し与えていた備品や渡して置い食料、飲み水などは、もう物々交換でええじゃろとワシは考えることにしたのじゃが?」
反面、老人の方はスラスラと舌の滑り良く。
また、捲し立てるかの様に言葉が連なり出て来て、ヒイロは次第に己に確かな非があった気がしてくる。
「…あの、はい。それでお願いします」
そして、どうだろうか。
至った結論が思いもよらない己の失態と理解し、ヒイロはガクガクと揺れる膝を折り、そのまま流れる様に土下座の構えをみせたではないか。
もう、なんというか恥ずかしいやら申し訳ないやら。
ヒイロはひたすらに老人へと謝罪の言葉を繰り返す機械と化した。
誠に申し訳ありませんでした、と。
「まぁ、誰しも間違いはある。そう落ち込む事は無い。そも、ワシは怒っておらんしな」
しかし、そんなヒイロに老人は朗らかに許しの言葉をかけた。
己の失態に深く心を抉られる中で、そん優しさに溢れた対応をされるとは、本当にこの老人は良い人なのだろう。
そんな人物を疑うなって自分はなんて愚かな奴なんだとヒイロはまた自分を蔑み、老人に深く感謝したのであった。
「さて、このフーガーがその様な人物だったとはこのルヴァリス、初めて知りました」
「ほ、ワシもそれなりに善行を積んでおるのさ」
「嘘臭い…」
ただ、しかし、どうやら、ルヴァリスただ1人はその話に懐疑的で、老人、フーガ―を冷たい視線で見つめる。
フーガ―を良く知るルヴァリスからしたら、ヒイロとフーガ―の話には少し怪しい部分が多々見受けられるのである。
このかつては粗暴で狡猾であったフーガ―が、今では年老いて胡散臭い老人をやっている。その事が、ルヴァリスには本当に気色の悪い事だった。
このヒイロという少年を助けた事さえ、何か裏があるに違いないのだとルヴァリスは思っていた。
「まぁ、しかし、そちらの事はどうでもいいのです。まずは、Ms.カレンに与えたという魔導書は本当に偽物ではないのでしょうね?」
だが、いくら気色悪いとはいえ、この男がカレンを騙す事はしないだろうとは思うのだ。
奇妙ではあるが、そこにルヴァリスはフーガ―に信頼を置いていた。
「もちろん」
だから、ルヴァリスの追及に一切の淀みなくそう言い切るフーガ―に魔導書は偽物ではない、と判断を下す。
何か釈然としない僅かな疑念を残しながらも…。
「…いいでしょう。まぁ、現にMs.カレンはそこの少年を使い魔として呼び出せた様ですし」
「え? 呼び出す?」
ルヴァリスの呼び出したという言葉にヒイロが反応して、謝罪の為に下げっぱなしだった頭を上げる。
「ええ、呼び出されたのではないのですか?」
それで、不可思議な顔をルヴァリスに向けるので、僅かな疑念が何か、確信めいた疑念へと変化しようとする。
「シィッ! アンタ約束…」
ただ、もちろん、カレンが失敗に終わって、その代わりに得体のしれない者を己の使い魔だと主張しているなんて事を思う筈も無く。
「ぐっ、はい。呼び出されました」
力こそパワーとヒイロの腹部を叩いて、カレンは彼を服従させる。
その主従然とした光景を見て、ルヴァリスは惜しくも確信を得られなくなり、一旦、その考えを頭の隅へと追いやる事となる。
「よろしい…では、Ms.カレンは使い魔召喚の儀を成功させたものとします」
なにより、学院では何故か成功しなかった使い魔召喚を成功させて、得意気にしているカレンの前でルヴァリスはあまり水を差す様な事をしたくなかった。
「はい! ありがとうございます!!」
「お腹痛い…」
だから、こうして、見事にはまる歯車と歯車。
嘘と誤魔化しと勘違いにより、廻りだすは、何という名の輪であろう。
それが、何で、何処へ向かうか、それは誰も知らない。
しかして、この事を知る者は、影に顔を隠して、そっとほくそ笑む。
鋭い牙を剥き出し、大きな爪を獲物に向けて、心底嬉しそうに、そっと、ほくそ笑む。
◇◇◇◇
さて、そうして、結局の所、この食堂の一件以来、ヒイロはカレンの使い魔として学院側に認められる事となってしまう。
認められたが故に魔剣アイゼルも老人から物々交換として手に入れた旅人ナイフも、そうやってヒイロの手元にへとは戻ってきた。
ただ、ボロ切れとなり掛けていた服は捨てれており、カレンが用意させたこちらの世界の従者の着る服を与えられて、ヒイロはそれを身に着ける事となってしまったのだが、これにてヒイロの身の保証は成ったと言っていい。
これによりヒイロの否応なしに、もはや、自他共に認められて主従関係があるのだと周りには完全に思われていった様子なのである。
これは、カレンのまずは見た目と周りの目が大事だという策略が功を奏した形でもあった。
身なりが従者でカレンに付き従っていれば、自ずと周りはそう受け入れていく。
カレンがそう考えたのだ。
そうして、その一環である行動もまた起こし始めている。
「はい、駄目、やり直し!」
使い魔といえば主人の命令に従い、行動するものというのがカレンにとっての使い魔への認識であった。
差し当たって言えば、魔術師の使い魔ならば、魔法薬で使う素材を集めるとか、魔法学的に有意義な情報を持って来るだとか、そんな所だろうか。
それで、カレンはヒイロにどちらでもいいから、何か主人である自分に献上させる物を探させる事にした。
それは、ヒイロが学園内で奔走し、探し回るのを周りに見せる事で彼がカレンの使い魔であるという情報を更に強化して刷り込みさせる事も見据えた采配でもあった。
食堂からの一件から少しカレンはちょくちょくそうして命令をヒイロに下しているのだ。
但し、使い魔たるヒイロが持ってくる物の殆どが使い物にならないという欠点こそはあったが。
「じゃ、私は次の授業があるから、また、何か探して来ること…いいわね? あぁ、でも明日は用事があるから今日の分はもういいわ。とりあえず、私が帰って来るまで部屋に居なさい。分かったわね?」
「くっ…」
だが、まぁ、それはそれで、駄目出しをして、再度やり直させるという事をさせて、上下の関係を構築する上での材料となるので、彼女的には何ら問題はなかった。
そも、魔法薬学の素材は必要ならば学園側が用意するし、魔法学についても別に何か特別な情報をヒイロから得ようなんて、期待していないのだから欠点という程でもないのだ。
勿論、それをヒイロに伝える事はしない。
そんな事を言えば、ヒイロはこのカレンの命令に意味を見出だせず、また、度重なる駄目出しとやり直しの繰り返しに憤慨するだろうからだ。
カレンは彼が、取引で彼女の使い物という立場を受けて、得られる安寧が如何に大切かを常に仄めかして、また、それに従事する事が如何にヒイロ自身の為になるかを知らしめる事が重要だと考えた。
そしてその為にも、この一連の流れは良い物だと彼女は確信していた。
例えそれが一方的な歪んだ考えであっても。
彼女の基礎的な知識には民は貴族に従うというこの世界の常識が、その一方的な歪みを気付かせてはくれないのだ。
「くそったれ! くそったれぇえ!!」
次の授業という用事で部屋から出掛けて、カレンの居なくなったその場所で、残されたヒイロは叫び声を上げる。
一方的な歪み、押しつけは、時も要さず悪い感情を生む。
それがどれだけ己にとっての常識だとしても相手を顧みない行いは、ただただ好ましくはない結果になる事が多い。
このカレンとヒイロにとってもそれは同じであるらしく。
いくら、カレンが己の常識に従って最良と思う選択をしたとしても、それがヒイロにとって最良という訳ではなく。むしろ、それは逆にヒイロにとって多大な苦痛と不満を与え、それをもってして罵詈雑言を放つほどの悪い感情を生み出してしまっていた。
もはや、弁解をする余地もなくカレンにとっての常識がヒイロにとっての非常識となり、ヒイロにとっての常識を行わないカレンはいま彼の中の嫌悪すべき相手との水準に達してしまいそうな勢いであった。
そもそも、食堂で起こった一連の騒ぎの収拾にしてもヒイロにとって気に食わない出来事の一つであった。
あの後、凄惨とする食堂の姿に後片付けをしなければならないとヒイロはカレンに訴えた。
己も混乱する怒涛の展開にこそ呆けて見せたヒイロだが、視界に入るその食堂の姿に気を取り直して、食堂の雑務員としての立場を思い出し、その諸先輩方と共に、全てではないにしろ、その何割かはマシにしようと行動を起こそうとした。
が、それをカレンが静止したのだ。
曰く、己の従者の仕事ではないやら、他の雑務員の仕事を奪ってはならないなどと言い、ヒイロをその場から引き離そうとした。
これにヒイロは異を唱え、己が一時でも食堂の雑務員であった事、壊した張本人であるカレンが本当なら後始末をしなければならないと思って居る事などを告げたがカレンはそれを意に介さず。
あろうことか、ヒイロに手を出す事さえ、禁じてきたのだ。
納得のいかないヒイロは彼女の言うことなど聞かず、勝手に片づけを始めようとしたが、貴族であるカレンにそう宣言されてしまえば、下々の民である周りの雑務員には否応なく。また、貴族に逆らってまで自分たちに付き従ってしまうヒイロにどう対応すればいいにか困ってしまうといった感じで、彼から距離を置いてしまう始末。
それを見て、ヒイロが思うことは一つであり、彼は諦めたかの様に、この場を去るというカレンの言葉に従うしかなかったのだった。
だが、それで納得がいったかといえば、それは別の問題だ。
カレンの傲慢な言葉にも行動にも態度にも、ヒイロは怒りをため込んでいた。
結局、あの後、食堂がどうなったのか気になってはいるが、それで自分がそこに赴いてカレンが何とするか。
また、他の雑務員にどう思われるかなどと気にして、確かめにも行けない。
それがまた腹立たしかった。
「俺は…最低だ!!」
カレンへ向ける義憤とそれを退けられない己の無力さとでヒイロの心は荒んでいた。
傍らに掴む魔剣アイゼルの不可思議な力でまたその感情を取り除いてしまおうかと考える程にだ。
しかし、それをすれば魔剣の力を使う事で己が魔物となるというリスクを考えるとヒイロはそういう気が起きず、何より、魔剣アイゼルを返して貰った折より、この魔剣アイゼルが言葉を発しようとしないのだ。
これは、何かの前兆か…とヒイロはアイゼルを見やる。
「……」
やはり、何も答えない鞘の中の魔剣。
ヒイロは渋りきった表情をしながら、手に戻ってから初めて魔剣アイゼルを鞘から出すことにする。
まさか、この魔術学院とやらで手を離れていた内に何かされたのではと考え、カレンの命令のせいで後回しになっていた兼ねてからの疑問を解消すべく、ヒイロはこの魔術学院に来て初めて魔剣アイゼルのその漆黒の刀身を顕にする。
漆黒と一言に言えばそれまでだが、この魔剣アイゼルは美しい直線上に両刃をギラつかせて、妖しげに今にも蠢きそうな紋様が刃紋として描かれている。
芸術品としても魔剣という名に恥じない一級品なのかもしれない。
惜しらまくは、ヒイロにその芸術品を品評する眼力がない事であろう。
「アイゼル…」
ポツリと声をかけるヒイロ。
しかし、返ってくる事のない言葉。
一体、どうしたのいうのだろうか。
まさか、空賊の一件にて無理をさせたのではないかとヒイロは魔剣アイゼルに耳を当てる。
微かにでも何か魔剣アイゼルからの信号を捕らえるために…。
そして、
「………グゥ…zzZ」
「コイツまだ寝てたのッ!!!?」
ベシッとその刀身を床に叩き付けて、要らぬ心配を課せられた事にカレンの事と共にまた怒りを再熱させていくヒイロなのであった。