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第19話:Whose angle is it?





 暗がりの部屋。

 遮光のカーテンに外の燦燦さんさんと輝く太陽の光が内へと入り込む事をさえぎられているのだ。

 しかし、それでも少なくない光が零れ漏れて、その部屋に幾人かの人物が居るのが分かる。



「フッ…」



 思わずとして出た息。

 それから、グニャリと歪ませた口元で、女性の笑い声が部屋の中に響き渡る。



「ハハハハハハ…どうやら、襲撃は失敗してしまったようだ」



 鼠色のローブに身を包み、まるっとそのフードで頭と顔を隠す女性は心底可笑しそうに己から離れた位置にある机でティーカップを口にして香りの立つ紅茶を飲んでいる人物へ、そう語りかけた。



「そうですか…」



 笑い声をあげる程に感情を高ぶらせて見せる鼠色のローブの女性に対して、この紅茶を静かに嗜んでいる人物は冷静に、むしろ冷淡に答えた。

 あまり興味が無い事柄なのだろう。



「ふふふ、親愛なる共犯者よ。興味の無い事であれ、もう少し反応が欲しいものだな」



 そんな対応にローブの女性は、唯一、視認できる口元を先ほどよりも緩く歪めてから、共犯者と呼ぶ人物に悪戯な笑みを返した。



「私が居なければ、そちらの計画も成功しない。いや、しえない…」



 それから、カツカツカツと淀みなく明朗な足音をさせて、共犯者と呼ぶ人物が座る机へと歩み近づいていく。



「…すでに、こちら側はそちら側への要望には答えました」



 そんなローブの女性の歩み寄りを確認する事も、驚くといった表現をすることもせず、共犯者と呼ばれる人物はティーカップに残る紅茶を眺めるように俯きながら、言葉を返す。



「それ故に。事が成ろうが成るまいが、それはそちら側の問題…」



 それから、そっと持ち上げていたティーカップを机の上へ乗せると顔を上げて、遮光カーテンにより遮られて尚、この暗がりの部屋のどこかに居場所を見つけた光へと視線を移す。



「確かにな。こちらの都合にそちらが合わせる由縁はないな…」



 カツン! と両足を揃えて、共犯者と呼ぶ人物の座る机の目の前で止まって見せる鼠色のローブの女性。



「だが、しかし…仲良くやろうとは、思わないのかね?」



 お互い似た者同士。

 と、口元だけが見えるローブの女性は己の顔がある方にさえ視線を向けない共犯者へとその手を差し伸べる。



「似た者同士?」



 だが、その差し伸べられた手から逃れる様に共犯者と呼ばれる人物は立ち上がり、まじまじと口元以外顔の見えない鼠色のローブを身に纏った女性を凝視する。



「ふふふふ…うふふふふふ…あははははははははははっは!!」



 それから、突如、決壊した様に共犯者と呼ばれるその人物は笑い声をあげた。

 長く、とても長く。

 いつまでも、いつまでも。



「フッ…まぁ、いい。空賊どもはただの物のついで」



 そんな終わりの見せない共犯者の笑い声にローブの女性はもう会話が出来ないであろうと見切りをつけて、独り言つ。



「策は成った…あとは”ホロビ”る事を待つだけでいい」

















「難攻不落の浮遊大陸…さしもの、それも輸送船の中となるとちょいと無理があったかの?」



 老人男性のしわがれた声。

 そういって老人は、腰を据えたソファーの前に置かれた台の上の湯飲みを持とうと手を伸ばす。



「無理? あり得ませんね!!」



 しかし、それは急に横から吹いてきた一陣の風によって吹き飛ばされてしまう。

 そんな、空中へと乱雑に舞った湯飲みと緑色のお湯を老人は慌てて魔法で捕まえると、しっかりと手元で受け止めて次なる襲撃に己の飲み物がさらされない様にガードを固める。



「このアート・ラ・ティハラが、下劣たる他の者に侵入を許すとでもお思いですか!!」



 キンキンと耳鳴りをも起こしそうな程に甲高い声でそう答えるのは女性。

 歳は若くはなく、かと言って彼女がいま相対している湯飲みでお茶を飲む目の前の老人の様に年老いて老婆と言うほどでもない。

 しかし、その顔には確かに年月とその苦労が刻まれており、多少くたびれた所の見受けられる中年の女性であった。



「アート・ラ・ティハラは…ね。しかし、ヴァースレイド魔術学院は、どうかのぉ」



 老人の呟くようなその言葉に、中年の女性は顔の色を真っ赤に変えて、何を!! と老人を睨み付ける。



「まさか?! この度のこの騒動は貴方によるものなどという事はないでしょうね!!!」



 それから、また、キンキンと甲高い声をさせて彼女は怒鳴り声をあげる。



「ここの管理人は、いまやお前さんじゃ。それにケチを付ける事などはせぬよ」



 しかし、そんな彼女の怒りを老人は涼しい顔で受け流すと、ずずずっとお茶をすする。


 かつて、難攻不落の魔王城として機能していたこの浮遊大陸。

 だが、いまは亡き魔王の遺産をどの様に使おうとこの老人には、あまり関心がなかった。

 ただ、



「ただし、ここを利用する権利はワシにもある。それを破棄したわけではないのでな…その事は重々承知しておくれよ、ルヴァリス」



 突然、老人の頭に強い衝撃が走った。

 あまりの早業に老人の体は座り込むソファーから飛び出し、手に持った湯飲みもお茶も舞い上がり、地面へと強かに着地する。



「呼び捨てを許した覚えはございません。ワタクシの名を御呼ばれになる時は是非ともMs.を冠する事をお勧めしますわMr.」



 細長い茶色の杖を手に女性、Ms.ルヴァリスは床に倒れる老人を見下してそう言い放つ。



「相変わらず凄い女じゃのう、お前さん、いや、Ms.ルヴァリスは…いたたた」



 腰に手をやり立ち上がると老人は身に纏う灰色のローブに付いた埃を落とすように肩をはたいた。

 それから、まだ茶色の杖を自分の方へと差し向けているMs.ルヴァリスに気が付いて、ニコリと笑みを浮かべて両手の手の平を見せた。



「よろしい」



 それを見てMs.ルヴァリスは満足したのか、老人へと差し向ける杖をおろす。



「それで? そちらの”駄剣”は貴方が持ち込んだのでしょうか?」



 そして、今度は壁に立て掛けられたどこかで見たような剣へとその杖を向けた。











・・・

・・・



 白塗りの壁。

 全てが純白だったらば、そこはさぞかし大きなお城の豪華な一室だったに違いない。

 ガラスの窓から見えるのは、定期的に整えられた荘厳な庭園? それとも、大自然豊かな森林?

 鳥がさえずり歌い、蝶が優雅に舞い飛ぶ様は、それはそれは素敵な物語の1ページだ。


「ねぇ? センセイ? そう…思わない?」


「さて、その手の読み物を詳しく読んだ事がないので、なんとも言えないね」


 真っ白な髪を揺らして、クスクスと少女が笑う。



「嘘よ、私、知ってるんだから…センセイ、たまにそういう本を読んでたって」



 それに対して、黒髪の男性は表情を変えずに少女の笑う顔を見つめる。



「センセイって、ファンタジーが大好きなのよね?」



 いつまでも、少女の言葉に答えないセンセイと呼ばれる男性に少女がそう問い掛ける。

 男性は、ガラス張りの壁に手をついて、ツンとした表情で口を開いた。


「あぁ、とびっきりのハッピーエンドがね…」

 




・・・


・・・














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