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第17話:空飛ぶ船に、御用心!?(4)





「バカ! バカ! ばーかばーかばーか!」




 

 ヒイロの口元がヒクリと動く。

 余程、馬鹿にされたのが不満だったのかカレン様はヒイロに向けて同じフレーズを繰り返し投げ付ける事を止めない。


 状況を考えろ、と思わなくもない。

 いや、普通に思う。

 周りを見ろ、と思わなくもない。

 いや、本気で思う。


 だが、カレン様にとって下僕に侮辱された事の方が腹に据えかねるらしく。その場での報復というか、やり返しをしなければ気が済まないみたいである。



「あ、ちょっとアンタそこに居なさい。動かないで、殴りに行くから!」



 いや、本当に空気読めよバカ!!

 殴りに行くから、じゃねーよ!!

 来るな!! てか、お前が動くな!!


 ヒクヒクと動く頬を止める様に手で拭ってヒイロは深く息を吐いてから敵を見定めた。

 ブォッと、もはや聞き慣れてきた音と見慣れた斧を避けて、魔剣アイゼルを両手で持ち、前へ突き出して構える。



「なんじゃ? やるんか?」



 バイキングのヒゲモジャの口元が動く。

 ギョロリとした目がヒイロの目と合わさり、身も震える程の圧力が伸し掛かってきた。



「やるしかないでしょ、これ…」


 

 やるしかない。

 あんな馬鹿なご主人様が居るんじゃ仕方が無い。

 それは全く理由にならない。

 だって、ヒイロはカレンをご主人様だなんて思ってなどいないのだから。

 だが、何故だが先程までよりもヒイロの気が少し楽になっていた。

 カレンが現れて、自分を見つけて、声をかけて、何故だが心のざわめきが少しマシになったのだ。

 だからだろう、ヒイロは再び魔剣アイゼルを強く握り締めた。

 どこからか湧いてくる気持ちが、そうさせた。

 なんだかよく分からないその気持ちがヒイロをそうさせたのだ。

 


「フンッ!! そうかい!! そんじゃあ、死ねや!!」


「死ぬかばーか!!」



 真紅の斧の巨大な刃がヒイロの頭を目掛けて飛んでくる。

 遠い間合いの向こうから、一瞬にしてその距離を潰してバイキングが襲い来る。

 当たれば即死。

 そんな考えが脳裏に過ぎってヒイロの顔から血の気が引いていく。 

 だが、勝機はそこにしか無いとヒイロは大胆にも魔剣アイゼルでそれを迎え撃った。

 爆音と共に凄まじい勢いで炎が燃えて現れる。バイキングの斧から発生した真っ赤に揺られめく炎である。

 その場にモクモクと更なる空を目指す様に灰色の煙が上がる。



「ッラアァッ!!」



 そんな煙の中から真黒の刃がバイキングを目指して斬りつけられる。

 狙いはバイキングの顔、左。

 上手くすれば左の目に当たるか…。



「ぐぬぅ…!?」



 だが、バイキングもそう簡単に左目をくれてやる訳にはいかないとばかりに真紅の斧を間に差し込んでくる。

 それから魔剣アイゼルの刃を斧の真紅の刃に滑らせて、いなしながら避けていく。

 ガリガリガリと刃と刃の擦れる音。

 ヒイロの体が前へと進む。

 バイキングの戦闘技術によって上手く力を流されてしまいヒイロの体が刃を沿って決められた方向へと勢いのままに通されていく。



「まずっ…」



 思わずしてそんな言葉がヒイロの口を開いて出ていく。

 しかし、その勢いは止まらない。

 カシュンッ!

 と、一瞬にして魔剣と斧との刃の重なり合いが解けた。

 伸びきっていく体をどうにかしようとするヒイロの目にバイキングの巨体がその場で横に回転していく姿が捉えられる。

 刃と刃の滑る力を、ヒイロが入れた力とその勢いを、受け流す事と同時に最後には集約させてバイキングが体を回転させて、手に握った斧を振り走らせてヒイロを襲う。



「ぉ、ぉおおおっ!?」



 思い通りにいかない身体の動き。

 体は無気力にしかし別の強い力によって流されていく。

 そして、それを後ろから真紅の刃が追い迫ってくる。

 このままではその刃に追い付かれて、体が分断されてしまう。 

 ヒイロは辛うじて右の足に力を込めた。

 それから彼は流れゆく体を更なる速い流れへと加速させる為に、地面を蹴り上げて前へと飛び込んだ。

 


「どっおせぇえええい!!」



 バイキングの地鳴りの様な掛け声。

 斧の刃がヒイロを捉える。

 ヒイロの体が、神経が、その事を感じ取った。

 薄く、小さく、しかし、確かにヒイロの履く靴のかかとが僅かにバイキングの斧に触れたのだ。



「ちぃいっ!!」



 攻撃の失敗にバイキングが大きく舌を打つ。

 だが、ヒイロからすればバイキングの攻撃は失敗なんかではない。

 ゴロンと再び甲板の上を転がって、勢いよく彼は立ち上がる。

 その額にはビッシリとした脂汗が伺えた。



「よぉも避けてくれるのぉ!?」



 バイキングが怒気をあげて言葉を投げ掛けてくる。

 もちろん、ヒイロは答えない。

 いや、答えられない。

 バイキングを睨み付けたまま、グッグッと左足の踵を甲板へ押し付けて、その感触を確かめる。


 大丈夫だ…。

 僅かに靴の踵に触れただけ。

 足に異常はみられない。

 しかし、心へのダメージは幾ばくか…。


 ヒイロは流れ落ちそうな額の汗を拭って一息付きたいと思った。今すぐにでもダルく重い腰を降ろして、体の緊張を解き放ちたい、と。


 紙一重であった。

 それはもう奇跡的な…。

 バイキングとヒイロの技量の差は明白だ。

 魔剣というアドバンテージで底上げされているとはいえ、それをただ振り回すだけの素人。

 かたや、使い込んだそれを経験と長年の感で卓越した技を駆使する玄人。


 分かっている。

 自分は素人だ。

 不意を付くかどうにかしなければ、自分の一撃は当たらない。

 しかし、その不意をどう作ればいいというのか。

 ヒイロは、努めて心は冷静に、と自分自身に何度も言い聞かせて考える。

 何か策はないのか、と。














 

 あぁ、目の前が暗い。

 真っ暗だ。

 ロックウォード=ヴァン=ブリフナルトは、己の倒れて視界の取れない今の姿と今までの己の現状を重ねて自虐的に笑みを浮かべた。


 ワタシはダレだ?

 ロックウォード。


 ワタシはナンダ?

 ロックウォード。


 それから彼はいつもの暗示を心の中で繰り返す。

 ロックウォード、ロックウォード、ロックウォード…。

 誰でもない、僕は僕だ。

 ただのロックウォード。



--------ロックウォード様



 ふと、耳元で囁くような小さな声が聞こえる。

 あぁ、君か。

 と、ロックウォードもまた周りに響かない様に小さな音で囁く。



--------申し訳ありません



 謝罪。

 なんの為の謝罪か。

 それはロックウォードの身を護れなかった事に対しての謝罪だろう。



--------いや…君が気にする事ではないよ…影に離れよと命令したのは僕だからね…



 『影』、と呼ぶ存在。

 それはロックウォードが物心付く前から側にいた存在だった。

 彼らもしくは彼女らはロックウォードを護る為に側に仕えているのだ、という。

 物心の付く前から側にいたそんな存在にロックウォードは何ら疑問を抱いていなかった。

 少し前までは…。


 その形を、存在を、周りから見られない様に、知られない様に振る舞う彼ら。『影』と自称し、ロックウォードたちの様な権力者たちを裏の世界から守護する彼ら。

 そんな彼らに不信を抱いたのはいつの頃か。


 それはきっと、父が倒れた時だろうと彼は思った。


 ロックウォードの父は優しく温和な男性だった。

 息子であるロックウォードにも、配下である家臣たちにも分け隔てなく優しさを与える良き父であり、良き統治者であった。

 たとえ周りからそれは軟弱な男だからだと揶揄されていたとしても。

 父は良き人間であった。


 そんな父は、ロックウォードの十歳を迎える誕生祭を前に倒れてしまう。

 原因は不明。

 当初は過労による失神だと見られていた。

 しばらく、睡眠を取った後に目覚める物だと思われていた。


 しかし、父は目覚めなかった。


 一日が過ぎ、一週間が過ぎ、一ヶ月、一年。

 ロックウォードの父親が目を覚ますことはなかった。

 国中の医師が父の元へ現れては、原因が分からないと立ち去っていった。

 治療さえ出来ないと匙を投げていった。


 そして、その間にロックウォードの周りは激しく移り変わっていった。


 父の代わりに、叔父がこれからの全てを取り仕切るとロックウォードを家から遠ざけた。

 跡取りとなる筈のロックウォードを遠ざけて、己の血筋を正統とすべく周りに働き掛け始めたのだ。

 それに何処からともなく現れた親類だという女性が異議を申し立て、両者は争い始めた。


 父は?

 ワタシは?

 

 どうなるというのだろう。

 どうなっているというのだろう。

 どうなっていくというのだろう。


 その全てに答えが与えられる事はなく。

 ロックウォードはただ見知らぬ土地で、見知らぬ人々を側に、見知らぬ暮らしを強いられる事となったのだった。


 『影』よ。

 ワタシの『影』よ。


 教えてくれ。

 お前が知り得る全ての事を。

 教えてくれ。


 ロックウォードにはもう頼るものが無かった。 

 誰に頼れば良いのか、分からなかった。


 叔父も、親類だという女性も、父に従っていた家臣たちも、誰も彼もがロックウォードを無視して、父の持つ権力に群がっていた。

 父の座っていた場所へ己こそが移り変わろうと、また、移り変わった相手に取り入ろうと、群がって蠢いていた。


 そこに、優しさは無かった。

 父の持つあの優しさは感じられなかった。


 だから、唯一、自分の側に従える『影』に頼る事にした。


 影はロックウォードが思うよりも、沢山の事を教えてくれた。

 知識も、戦い方も、欺き方も、影はロックウォードに必要であろうと思う物を教えてくれた。

 ただし、けっして。

 けっして、父の事を、父の周りで起きている事を教えようとはしてくれなかった。

 ロックウォードが一番知りたい事を彼らは一様にして教えようとはしてくれなかったのだ。


 しかし、ロックウォードは諦めなかった。

 影はロックウォードに学ぶ機会を与えてくれた。成長をする過程を与えてくれた。

 父が倒れた折に叔父の働き掛けなのか断念させられていた学問や、制限されるあらゆる経験を彼らから少なからずも得てロックウォードは育っていった。

 そして、それを元にしてロックウォードは調べ始める。

 叔父にも、影にも、周りの誰にも気付かれない様に己の身に起きている事と父がどうなっているのかという事を調べていった。


 ロックウォードの予想通りに叔父は家の乗っ取りを企てて、ロックウォードとその父を廃する様に動いていた。

 それが進めば現段階では具合が悪いのか親類の女性がそれを制していたので、かろうじてロックウォードたちは、まだ家の者としての存在を許されているようだった。


 父は未だ眠ったままだ。

 あれから、数年も経つというのに眠ったままだった。

 しかし、悪化して命を落としていないだけ良かったと言えるだろう。


 原因は何なのか。

 病気か、あるいは…。


 調べていく内にロックウォードは、ずっと疑問に思っていた事を強く感じる様になる。

 あの日、あの時、あの場所で、彼ら『影』は何をしていたのだろうか、と。

 ロックウォードに限らず、この国の大抵の権力者には『影』が付き従っているはずだった。

 それは、父も例外ではない。


 一番最初に思った不信。

 父の『影』は何をしていたのか。


 ロックウォードが調べていく内に分かった事は、父の症状が毒薬あるいは魔法によるものである可能性が高いという事だった。

 そして、それを父に使用した者が居るという事。

 それから、その者の行動を防ぐ事も、その身を捉える事も『影』たちは出来なかったという事だ。


 ロックウォードは彼らから色々な事を学ぶ内に彼ら『影』の強さを知った。

 その頼もしさを、その恐ろしさを知った。

 知ったからこそ、ロックウォードは疑問に思った。

 彼らは何も出来なかったのだろうか?

 何も?


 しなかったのではなく?


 そうして、気が付いたのだ。

 『影』は、この国の大抵の権力者たちに付き従っている。

 それは、つまり、この国の大抵の権力者たちと繋がっているという事に他ならないのではないか、と。


 物心が付く前から彼らの存在があった。

 だから、そこに居るのは、在るのは、当然の事だと思っていた。

 そして、そこに、彼らの感情は無いのだと思っていた。


 しかし、ロックウォードは知っている。

 彼らが学ぶ事を、技を持っている事を、人にそれを教える事を、知っている。

 喋る事を、食べる事を、笑う事を、怒る事を、悲しむ事を、知っている。

 生きている事を、感情があるという事を。


 ロックウォードは、知っている。


 だって、ロックウォードは彼らから学び、彼らと暮らし、彼らと共に生きていたのだから。

 彼らもロックフォードと何ら変わりない存在である事を彼は充分に理解していた。

 では。


 では、彼らは一体、誰の味方だ…?


 ロックウォードは、知らない。

 彼らは何を思って『影』であるのか。

 その事を教えて貰ってはいないし、教えて貰おうともしなかった。

 だって、考えもしなかったのだ。

 思いもしなかったのだ。


 それに気が付いて、ロックウォードの背筋は寒気が走り、その身を震わせた。


 彼らは、本当に、自分の味方か?


 その忠誠の心は父に向いているのか、叔父に向いているのか、親類の女性か、それともまた別の…。


 彼らを全く信用していない訳ではない。

 彼らは親切だった。

 血の繋がる叔父よりも親類の女性よりも、父の倒れるいま他の誰よりもロックウォードに親切だった。

 だが、疑惑は確かにあるのだ。

 不信は確かにロックウォードを戸惑わせのだ。


 備えなければ。

 ロックウォードは思った。

 彼らから学び、強く成長した。

 だが、次は彼らから離れ、学び、より強く成長しなければならない。


 そして、父の事を調べている内に魔法という物を知った。

 もしかしたら、父は魔法によってその身を魔に侵されているのかもしれないと思った。

 ならば、それを学ぶ事は強くなる上でも良い行動だろうと考えた。


 そうやって、ロックウォードは国を離れる事にした。

 陸が浮遊する場所にあるという魔術学院へ行く事にした。

 強き自分を手に入れて、この不条理な世界を自分で壊す為に…。

 それで。

 


(…なにも分からず、なにも出来ず、なにも掴めず…ワタシは…僕は倒れている…)



 如何ともし難い事実にロックウォードはまた自虐的に笑う。

 大した自信を持っている訳ではないが、『影』から学び取った戦う業は身に付いていると思っていた。

 それを若干誇っていた自分が恥ずかしい。

 魔術学院へ来て、周りに見えるひ弱なお坊っちゃんお嬢ちゃんを前に特殊技能を持ち合わせる自分は他よりも優位だと考えていたのに。



--------ロックウォード様、如何いたしましょう



 結局、自分はこの『影』が居ないと何一つ満足に出来ないのだ。



--------そうだね……火薬はあったかい?



--------はい。この魔法船にはさほど積まれてはいませんが、あの空賊の船にならば大量に積まれてございました



 空賊の船にね。

 いつの間にやら、この影は空賊たちの目を盗んでその船の中へ侵入し、調べ上げたという事だろう。

 相変わらず、凄いとしか言い様がないとロックウォードは思った。

 その強さが僕には恨めしいとも。


 『影』の声に目をギュッと瞑ってから、ロックウォードは周りの気配に耳を澄ませる。 

 それから怠く伸し掛かる背中を少し持ち上げてから視界が取れる様に身体をずらした。


 黒髪の少年が戦っていた。

 恐ろしい見た目の赤髪の重戦士を前に勇敢に戦ってみせていた。



(素晴らしいね…伝説は本当かもしれないね…)



 どう見ても勝ち目がなさそうなその少年の容姿からは、その戦いは異様に思えた。

 まるで、魔法か他の特別な力を元に戦っているかの様にさえ見えたのだ。

 いや、きっと、特別な力があるのだろう。

 伝説の通りに、神話の通りに。



(なら、彼を助ける事でその力を得ようじゃないか…僕の為に…父の為に…)



 力が必要だ。

 今までに無い。


 それは魔法だったり、国とは関係の無い繋がりだったり。

 そう、ロックウォードは学んだのだ。


 ならば、黒髪の少年を助ける事になんの躊躇ためらいがあろうか。


 黒髪の少年と赤毛の重戦士の戦いに周りは圧倒されてか動けないでいる。

 あの恐ろしい赤毛の重戦士の威圧に魔法船の船員たちも空賊の団員たちも飲み込まれている。そして、そんな状況の中で一人、動き足掻いている異常な少年を前に驚き、その動向を見守っているのだ。



(また、そんな中で己が動き出せば、逆に一斉に注目を浴びて危機に陥るかもしれないと…誰も彼もが日和っている…)



 ある意味、茶番だなとロックウォードは笑う。

 空賊たちはともかく船員たちはここで動かなければ、どの道、危険に晒される。

 少年が勝てば良いが、敗北すれば次は自分たちの番だと分かっているはずだ。

 なのに、動けない。

 動かない。

 それほど、己だけが傷付くのが怖いのだろう。

 そして、ならば、いまは目の前の少年だけ傷付く事は承認しようと、半ば生贄の様な形に少年を差し出しているのだ。



「誰も彼も…傷付くのが怖いのは当然か…」

 


 もちろん、それはロックウォードさえ同じだ。

 だが、ロックウォードには目的がある。

 彼を助ける理由がある。



「は? ていうか、なに? なんで、アイツ戦ってんの?」



 と、そんな呟く様な声にロックウォードは桃色の髪を携えた少女に意識を向ける。

 あぁ、そういえば彼女もこの場に来たのか、と。



「いいえ、それより、なんで? なんで、周りの人たちはアイツを助けないの? どうして?」



 そんな彼女は状況がいまいち分かっていなさそうである。

 まぁ、空賊が魔法船を襲ってきた事は分かっていると思うが、流石にこの誰も手出しも口出しもしない状況は分かり辛いというものだろう。



--------以上の場所に火薬は配置されておりました



 『影』の声がロックウォードの思考に割って入ってくる。『影』の情報により空賊船の中にある火薬樽の位置が分かり、彼の魔力に"砂"が感知される。



「さぁ…こちらにおいで…そう、そして…広がれ…」



 魔法というのは便利だ。

 この世の理という物を人の理で動かす事の出来る構造は、計り知れない程の力だ。

 そんな力をロックウォードは魔術学院で手に入れた。

 ほんの僅かな知識だが、操る業を学んだのだ。



(あとは火種か…)



 自分を襲ったあの真紅の斧から出る炎を上手く利用出来れば良いが…。

 しかし、下手をすれば近付け過ぎて黒髪の少年をも巻き込み兼ねない。

 手に入れた力だが、未だそれ以上に上手く扱う事が出来ない己の無力さにロックウォードは歯を噛み締めた。


 じりじりと黒髪の少年と赤毛の重戦士が間合いを詰め始める。

 また、刃を交えて戦いを始めるのだ。 


 ロックウォードにも先ほどの攻防では、黒髪の少年が危なかった様に見えた。

 次は大丈夫なのか。

 もしかしたら、次でやられてしまうのではないだろうか。

 ロックウォードに焦りの色が出始める。



(僕に…火の適正は無かった…)



 魔法を扱うのにも才能と適正がいる。

 そして、そんな魔法を扱う魔術師でも主だって出る属性は一つだ。

 ロックウォードの場合、それは土。


 一つ以上となれば、まさに天に愛された才能が必要となる。



「…アンタらいい加減にしなさいよ!? ソレはアタシのモノでアタシ以外が…」



「…やぁ、Ms.シュフォンベルト…」



「はあ?」



 ギロリと言わんばかりの音が聞こえそうな視線で少女、カレン=ギースライド・シュフォンベルトがロックウォードを睨み付ける。

 そんな視線を受けながら、ロックウォードはのそのそと彼女の方へと這いながらも移動して、船内入り口を作る壁へと体を起こし寄せて、背中を預けた。



「君さ、火の属性も持っていたよね?」

 

「だから? なに?」



 心底不機嫌そうな顔でこちらを見続ける少女にロックウォードはいつの間にかお馴染みとなってしまった笑みを浮かべて言葉を紡いだ。



「火をね…少し…この砂粒に…」



 着けて貰えないだろうか、と。


 

 




 

 

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