第10話:君成す出逢いに、御用心!?(6)
このひとつ前に話を新しく入れました。
なので、この話は番号が変わっただけで中身は前とあまり変わっていません、すみませんです(汗)
嵐(?)が過ぎていく。
刺す程の視線でヒイロを射抜いてフローアが踵を返して去っていく。
茫然自失と共に肩を並べてポカンと口を開けてヒイロは、それを見送った。
それから、何なんだろうな、などと小さく呟いて、ぬぅと差し出した彼の手には、金銀貨が握られていた。
そして、そんな急に出された手に驚いて、咄嗟にこれまた出してしまったカレンの手にそれは渡され、少年はようやく解放されたと深いため息を吐く。
「だ~っ、疲れた。今日1日でこの街の全部、回ったんじゃないか? ちくしょ~…」
黒髪の少年ヒイロはぐったりと地面に座り込み、両膝に両腕をあてがい空を見上げる。
あ~、星がきれぇ~、なんて言ったりして、なにやらやり遂げた満足感を満喫しているようだった。
「……ふん。なによ、馬鹿みたい? いちいちお金を返しに来るなんて…よっぽど、私に会いたかったのかしら?」
はて、この馬鹿女は何を言っとるんだ、この馬鹿女はっ!?
と、ヒイロはカレンのその言葉においっきりに顔を歪めて立ち上がる。
「ふざけんな!! こぉの…犬ちくしょ〜!? 俺はただ単に得体の知れない女からの金なんて受け取りたく無かっただけなんだよ!!」
それからもう我慢がならないと口汚い事は承知の上でカレンへと暴言を言い放ったのであった。
…
…
…
「なっ!? なななな、なんですって〜!? いっ、いいい、犬犬犬、犬ちくしょぉ〜おっ!?」
こいつ、何言った?
いま、何て言った?
何を言ったのかしら、この馬鹿男はぁっ!?
国が数ある貴族の中でも最も古いとされるシュフォンベルト家の才女に向かって、この馬鹿男ときたら、い、いいい、犬ちくしょ?犬ちくしょう、と仰りましたか、この、どですかん!?
仮にも平民の分際で、き、貴族である私を犬とは、犬とは、犬とはとわぁぁあーっ!?
ぶるぶると肩を揺らして、怒りに燃えるカレン。
もう、一言…。
この馬鹿男にものすげぇ事を言わないと気が済まない。
カレンは大きく息を吸い、口を開け何かを言わんとする。
が、馬鹿男ならぬヒイロはさっさと元来た道を引き返そうとくるりと体を翻した。
「て、えっ? ち、ちょっ、待ちなさいよ!?ねぇ? ちょっと!!? ……、ねぇてばぁ!?」
しかし、ヒイロは振り向かない。
スタスタとカレンの言葉を無視して暗闇の中へと消えていく。
と、そこでカレンは、ハッとする。
暗闇?
暗い?
夜なのだ!?
街灯が光を灯すが、それはおざなり程度。
昼間のような明るさはなく、夜の闇がそころかしこに漂っていた。
ぞくりっとカレンの背筋に悪寒が走る。街中には自分以外に人っ子1人居ない。
道は前も後ろも一寸先は闇。
ゾクゾクッとカレンの体全体に寒気が走る。
『怪人ギュソー』
いやいや、あれはただの噂だ。
夜、子どもが出歩かないようにするための作り話だ。
したがって、私は大丈夫。
というか、私は世界でも数少ない魔術師。
いや、その生徒だけど。
しかし、魔法は火・水・土・風・光・闇の六系統すべてを操る事の出来る『神の子』と呼ばれた天才である。
怪人なんて、そこらの凡人…目じゃ無いの。赤子も同然なの。
だから、だから……
「ちょとぉぉおーっ!? 待ちなさいよっ!? お、女の子をこんな暗闇の中に1人にする気なのっ? ちょっ、ちょっと~…」
カレンは一寸先の闇に消えたヒイロを追いかけ走る。
幸い、ヒイロは歩いていたので、そこまで遠くには行っていなかった。
そんなヒイロを見つけて、スタスタとカレンは足早に近づいていく。
「……なに?」
だが、ヒイロは自分の腕にしがみついてくる桃色髪の少女にやや冷めた視線を送る。
そんな視線のヒイロに桃色髪の少女カレンは頬をぷくぅと膨らませて、何よう?
と、睨み付けた。
「アンタ!! お、おおお、男の子なんだから。おおお、女の子の私を家まで送り届けるのは義務でしょ~?」
「……はぁっ?」
と、ヒイロはそのカレンの言葉に眉をしかめる。そして、
何を言うとりますか、女の子?
知らない男の子に家まで送れと、女の子?
男はオオカミなのよ、女の子?
そんな私めに『えすおーえす』ですか、女の子?
と、彼は何やらブツブツと呟き始める。
「……な、なによう? 文句ある? 私はこの国のお姫さまなのよ? 王族に仕えるのは国民の義務でしょう?」
「…はぁ? てか、お前、最初に貴族って言ってなかったか?」
「そうよ、私はアストリナム王国で最も古い貴族であるシュフォンベルト家の才女よ!! それでもって、アストリナム国王の7番目の娘なんだからっ!!」
「いろんな肩書きを……持ってんだねぇ〜」
ヒイロはひしっと自分の腕にしがみついているカレンに疲れた表情を見せた。
もう、なんか、脱力感が体を支配している様子だ…。
それ故かノロノロと彼の歩みも遅くなる。
「ちょっと、もっと早く歩きなさいよ!? 早く帰らないと、怪人ギュソーが出てちゃうじゃない!!」
しかし、グッタリしたヒイロにカレンは容赦のない言葉を投げかける。
早く行け、と。
「……はあっ!?」
しかし、それに対して、ヒイロはやや訝しげな表情でカレンを凝視した。
そして、こういうのって、いわゆる……痛い女ってやつ?
と、言いながらヒイロは哀れむような視線でカレンを見つめる。
「なっ、痛くないわよ!? なによ、痛い女って? 痛くないわ、痛くないもん、痛くないだもん!?」
「いや、怪人って…」
カレンが不機嫌に大きな声を上げる。
が、そんなカレンにヒイロは悪びれた様子もなくスタスタと夜道を歩いていく。
それに付いて歩くヒイロの腕にしがみついているカレンはやや歩き難いのか、時々足元がこけそうになるのだが、その手を一向にヒイロの腕から、離そうとはしない。
「ちょっとぉ~、もっとゆっくり歩きなさいよねぇ!? こけそうになったじゃない?」
「早く歩けとか、ゆっくり歩けとか、どっちですよ?」
そんなやり取りをしていると痛い女じゃなく、面倒くさい女だったのか…と、ヒイロがため息を吐いた。
なので面倒くさい女でもないと、カレンはヒイロを睨み付けた。
さて、何故にこのような状況になったのか…。
カレンは、薄明かりと真っ暗闇の夜道の中、これまでの事柄をまとめる。
水魔術の使い手・フローア=ミッドルナとの口論は、一様の決着は着いた。
使い魔召喚の失敗から、古代魔法で人間である、この黒髪の少年を召喚したと、フローアには、そう言い訳をしたのだ。
しかも、そんな、自分の話に、みすぼらしく現れたヒイロを見たフローアが失笑をした為、それを自分は大胆不敵にも自分の使い魔は普通では無いと大見栄を切ってしまう。
そして、そんな偽使い魔の暴言(?)によって…
『よろしいですわよね、ミス・カレン? ふふ、うふふ、うふふふっ、見せて貰いましょうじゃないの? 貴女のその使い魔の強さ!?』
と後日、魔術学院にて、その使い魔の強さを見せて貰おうではないかと、その場を去って行った。
若干、いや、かなり黒い波動を身に纏いながら…。
そして、後に残された自分が、自分のついた嘘偽りが、まずはその場でバレなかった事にホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。
いや、一瞬か?
よくよく考えてみるとそれは唯の時間稼ぎで、しかも、もはや、この黒髪の少年を自分の使い魔と言ってしまったのだから、もう、これから、彼以外の者を使い魔を変えようにも変えられない事に気が付いてしまったのだ。
そんな訳で、仕方なく、このみすぼらしい少年をどうにか本当に自分の使い魔にしようとカレンは一計を考えているのだが…。
「…で、どこまで着いてくるの、お前?」
どうにも彼は、一刻も早く、自分から引き離れたいようだった。
フローアとの話が終わったと見るや否や、自分の用件を済ませてさっさと去ろうとしたり、今も掴まれた自分の腕からカレンを引き剥がすようにして彼は早足で歩いていたり。
なので、カレンはそれに文句を言って引き寄せるようにして自分のペースで歩かせようとする。
もちろん、カレンもヒイロに合わせるようにして小走りで進むのだが、何故だか歩調が合わない。
意図してヒイロが歩調を合わせようとしていないのか、とにかくカレンが無理矢理にもペースを自分の方に合わせようと彼を引っ張らないと置いていかれてしまいそうになってしまうだ。
そうして、どれくらいの距離を歩いたのだろうか。
目指したのは街中央にある大きなお城だった筈だ。
街のどこからでも見えて、そこを目指せば良いと言われれば間違いなく真っ直ぐに進んで行ける目印だ。
だけど、あれ?
…
…
…
…
…
どデカイ目印を目指していたはずの、二人。
ヒイロとカレンは、目の前の光景にしばし、呆然と立ち尽くしていた。
「……ねぇ」
先に声をかけたのは桃色の髪をウエーブに靡かせた少女・カレン。
彼女は、ぽりぽりと首筋を人差し指で掻いているヒイロに心底呆れたような表情を送る。
「私はお城に、行きたいの」
「……うん」
カレンの言葉にヒイロは生の返事で、それを返す。
「わ〜た〜し〜はぁっ、お城に送り届けなさいって言ったの!!」
「………うん」
ぴぎりっと、カレンの何かが切れた。途端、カレンはヒイロの腹にグーで一撃を与え、ズビシッ!と目の前の光景に指を差す。
「じゃあ、なんで街の外? なんで目の前、草原、原っぱ? 目的のお城は真後ろなんですけど?」
大声でヒイロに叫ぶカレンだが、当のヒイロにとって、それどころではなかった。
先ほど、理不尽にも、いきなり殴られた自分の腹が悲しくも断末魔の叫びをあげて、痛みを放っているのだ。
ヒイロは、ぐおぉぉっ!?と、その場にしゃがみ込んでしまう。
(この、この女、この女は…人が善意で、善意で送り届けてやっているというのに…)
感謝されこそ、このような理不尽な暴虐を与えられる謂れは無いはずだぞ!?
ヒイロは、未だズキズキと痛む脇腹を抱える。
「なにしてるのよ?ほら、行くわよ?私を送り届けるんでしょ?」
しかし、そんなヒイロの諸事情なんぞ知らぬ存ぜねという感じで、カレンは我が道を往くと来た道を引き返そうと振り返る。
「ぐっ、コノッ…!?」
そんなカレンのわがままにヒイロも文句は山の様にあったが、二度も腹を殴られたくないと、ヒイロは何も言わずに引き返そうとする。
「主!?」
と、そんなヒイロに背中に差した魔剣アイゼルが声をあげる。
その瞬間、アイゼルの声にヒイロは、ビクリと肩を上げて反応する。
「お前、馬鹿!? 俺以外の人がいる時に何を堂々と喋ってんだよ!?」
そう、アイゼルには自分以外の人間がいる時は言葉を話すなときつく言い聞かせてあったはず。
もしくは、重要な事ならば小声でと…。
だが、いまアイゼルは、そのどちらもせずに、堂々と声を上げた。
「喋って…る?」
再び、ヒイロはビクリと両肩を上げる。
ヒイロがおそるおそるカレンの方を見ると、やはり、桃色髪の少女は背中に差した剣が言葉を話したのを見て驚いていた。
あちゃ〜、とヒイロはそれにうなだれるように顔を下に向ける。
「ねっ、ねぇ、あんた…それ?」
「えぇ、えぇ、そうね。えぇ、そうなんです。喋るんです、話すんです、声を放つ剣なんです…」
ここであえて魔剣とは口が裂けても言わないヒイロ。
もちろん、それは得体の知れない者と見られないため。
いや、確かにヒイロは、ぼろぼろの服を着ていて、住む所も無く、深夜の街中を徘徊しているので、その時点で街の憲兵が、そんなヒイロを見れば怪しい得体の知れない者と見るのだろうが…。
それに増しても言葉を話す剣などと…。しかも、それが世界を支配できる魔剣なんて言われた日には、ヒイロは得体の怪しい奴から、世界をも脅かす魔王なんてものにまで飛躍的にクラスチェンジしてしまう訳なのだ。
その為、ヒイロは口が裂けてもアイゼルを、ただの喋る剣なんです、としか言い様がなかった。
「へ、へぇ…」
と、意外に冷静なカレン。
あれ?
と、ヒイロはそんな世界を脅かす魔王なんて誇大妄想に被害妄想を考えていたのに案外冷静なカレンに驚いてしまう。
どうやら、カレンは、そこまで喋る剣であるアイゼルに驚いた様子は無い。
「驚か…ないの?」
ヒイロは、おそるおそるとカレンにそう問い掛けてみる。
「別に、その手のマジックアイテムなんて私が通う魔術学院に行けば、いくらでも見れるわよ! 自動で文字を画くペンや相手の欲望を映し出す鏡。ファイアーブレスを吐く盾に伸縮自在のマジックランス…」
喋る剣なんて、珍しくもないわ…ちょっと、驚いたけど…と、カレン。
なるほど、マジックアイテムですか…と、ヒイロは意外に驚かないカレンにホッとする。
確かに、魔剣アイゼルは、『この魔法や不思議溢れる世界でも喋る剣などは普通では無い代物』とは言った。が、普通では無いが存在しない物とは言っていない。
ここでヒイロは、再び安堵のため息をつく。なんだ、別に努めて隠す事柄でも無かったのか…。
「くっ、なにを悠長に馬鹿なやり取りをしている!? 主、敵だ!! 闇夜にて、白刃に狙われているぞっ!!」
などと、今までの思い過ごしと取り越し苦労に、やや安堵して、ため息をついたのも束の間、そんな、アイゼルが切羽詰まった声を上げた。瞬間、カレンの後ろの闇から光る鋭利な剣が横一閃に振り抜かされた。
「えっ!?」
カレンはその剣に気が付けず、その剣を避ける事が出来ない。ビシュ!!
と、闇夜を切裂き剣がカレンを襲う。
「いっ!?」
それを真っ正面から見る事の出来たヒイロは、アイゼルの言葉もあってか、咄嗟に背中に差した魔剣アイゼルを取りだし、横一閃に襲う闇夜の剣からカレンを守る。
ギィン!!と交差した両刃は、ガチャガチャと拮抗を保つ。
そんな唐突の光景にカレンは『えっ、えっ、え?』と戸惑うばかりで事態を把握しきれていない。
いや、それはこの場にいるヒイロやアイゼルも同じであった。
いきなり、闇夜を切り裂くようにして現れた剣。
そして、それを携える仮面の男。
「何だ、お前はぁっ!?」
ヒイロが男を睨み付けながら、そう問い掛ける。
すると、仮面の男はヒイロの持つ魔剣アイゼルを跳ね上げて、腰を低くし、剣を構えて答える。
「怪人ギュソー…」
銀色の仮面の男は、そうぽつりと呟き。
再び、その手に持つ鈍く光を放つ鉄剣でヒイロたちへと、襲い来るのであった…
お久しぶりです、こんにちは。
いや、もう忘れ去られていると思うので。
初めまして、こんにちはですね。
とりあえず、まだ、生きていますよ。
と、生存報告をば(笑)
次はいつになるかはわりませんが、とりあえず、ぼちぼちとやっていくつもりです。
暇潰しに忘れた頃に来て頂ければ、幸いです。
それでは、また♪