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リトル・ティムは東へ旅をする  作者: あおいそらの
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悩みと酔っ払い

 ティムは、ずっと東へ東へ歩いて行った。

 日が暮れると足を休めて眠り、朝になると、太陽の昇るほうへ歩き出した。


 ある時、夕暮れに町についた。


 「どこか、馬小屋をぼくの寝床に貸してくれる家、あるかしら。」


 ティムはそう思いながら、ひっそりとした町の通りを通り抜けた。

 町はずれまで来ると、店があった。


 「おじさん、パンちょうだい。」


 ティムは小銭で小さなパンをひとつ買って、店主にきいた。


 「ねえ、おじさん。どこか僕を泊めてくれるところないかしら?」


 「ここには宿屋はないし、自分でその辺の戸を叩いてみな。」


 店主は胡散くさそうにそういったので、ティムはパンをもって店を出て、町を離れた。


 「あのおじさん、意地悪だなあ。あんな言い方することないんだ。ぼくが子どもだからって、馬鹿にしてるよ。」


 ティムは憤慨してパンにかぶりついた。

 そこから数歩行ったところで、ティムは何かにつまづいてひっくり返った。


 「なんだ!誰だ! このオレ様をけとばしやがったのは!」


 ”何か”は怒鳴った。


 「ご、ごめんなさい。あ・・あの、見えなかったんだよ。」


 「子どもか? 痛え。思い切りけとばしたな。」


 「ぼく、つまづいたんだ。道の真ん中に人が寝てるなんて思わなかったもの。」


 「道の真ん中に寝てちゃあいけねえか、ええ?」


 「おじさん、酔ってるんだね?」


 「ああ!どうだ、お前も。ん? なんだ、子どもか。ええ、豆ちびめ。」


 「豆ちびじゃない。ティムだよ。」


 「おい、ちび。こんなとこで何してんだ? いい子は今ごろ安らかにお休みだぜ。」


 「ぼく、ねるとこなくって、探してるんだ。」


 「宿無しかい。ええ。同志よ! ここへきて、俺と一緒に寝ようや。」


 「道の真ん中で? だめだよ。人が通れないじゃない。」


 「この夜中にこの道を通る奴なんかいねえよ。ほれ、ちび。ここへ座れ。」


 ティムは、酔っぱらいの隣りに座って、顔をしかめた。


 「お酒くさいや。」


 「いい匂いだ。お前もどうだ?うまいぜ。」


 「いらないよ。子どもだからね。でも、大人だってあんまり飲んじゃ悪いんだよ。」


 「何言うか、偉そうに。子どもにゃ何の悩みもねえから、酒がなくてもいられるんだ。

 俺みたいなのは、酒なしで生きられないさ。」


 「悩みがあると、お酒を飲むの?」


 「そうさ。忘れられて、いい気持ちにもなる。」


 「悩みって、忘れちゃったらそれでいいの? もう悩まないでよくなるの?」


 「あたりめえよ。酔ってる間はご機嫌さ・・・目が覚めると、みじめだが。」


 最後を呟くように言って、男は黙りこんだ。


 「悩みって、逃げてちゃちっともよくならないと思うよ。

 ぼくだって、悩みくらいあるんだ。子どもだと馬鹿にされてもね。

 でもぼく、悩みがあれば悩めばいいと思うの。

 そしたらいつか、悩みでなくなっちゃうんだもの。

 それが一番、すてきだな。

 ぼく、そうするんだよ。おじさん? 寝ちゃったの?」


 酔っぱらいは目が覚めていたが、寝たふりをしていた。

 こんな豆ちびに説教されているようなのが恥ずかしいと思ったので。

 

 すぐにティムも、彼の横で眠ってしまった。


 「ティムっていったっけ。 お前の悩みはどうせちっぽけだ。

 だけど、お前の体もちっこいんだから、お前にしたら、精いっぱいの悩みなんだろうなあ。」


 そして、星を見つめてから目を閉じた。

 そして、本当に眠りについた。


 


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