ティム、弟子になる
リトル・ティムは、今にも壊れそうな木造小屋の前に立って、ためらっていた。
手には医者からの紹介状を持っている。
「こんなおんぼろ小屋に住んでる人に、ぼくを働かせて払うお金あるのかしら?」
それでも思いきって、戸を押して中に入った。
「ごめんください。」
「誰だ?」
「ぼく、リトル・ティムっていいます。あの、先生に・・・」
「ああ、そういえば、あのへぼ医者がそんなことを言っとったな。
まあ入れ。おまえがそうか、ええ? 名前は?」
「リトル・ティム。あのう、ぼく、使ってもらえますか?」
ティムは、その老人をびっくりして見ていた。
まっ白い髪にひげ、気難しそうな顔、ものすごい雷のような声!
「ああ、採用じゃ。2,3日だと? いたけりゃずっとここにおればよい。」
「あの、ぼく、何をすれば・・・」
「おまえは、わしの弟子になるんじゃ。」
「弟子って?」
「わしの言うことを聞く、わしの教えを聞く、わしを先生と呼ぶ。いいか?」
「それだけでいいの?」
「ばかもん。弟子にならにゃならんじゃろう。」
ティムはよくわからなかったが、老人の言うことをきいて、雑用をした。
買い物や料理や洗濯。それから掃除に、何やらわけのわからない書類の整理。
ある日、小屋に立派な身なりの男が訪ねてきた。
「おや、小僧を雇ったのか、ジュルク?」
「わしの弟子さ。」
「弟子だって! ほう、お前にも弟子が付いたか、へえ!」
男はあきれて叫んだ。
「どういうことなの、おじさん?」
「なあに。肩書も金もない気狂いの学者につこうって弟子がいるとは、信じられなかっただけさ。
ええ、小僧。本当に弟子か?」
「先生は気狂いじゃないよ。」
「そうとも、気狂いじゃない。ティム、お茶を入れておいで。」
その客が帰った後で、先生は疲れたように頭を抱えて椅子にうずくまっていたが、
やがて、ティムのほうを見ると言い出した。
「なあ、ティム。時を駆ける機械を研究するのは気狂いだろうか?」
「ううん。もしできたら、すてきだな。」
「みんなは気狂い扱いする。学会じゃわしはのけ者だ。弟子もできん。」
「でもね、先生。大切なのはーー自分の思うことをやり通すことだと思うよ。
先生のこと知らないで、気狂いだっていう人は馬鹿だと思うの。
みんなが間違ってるんだよ。」
「だが・・・弟子がいないと、わしのこれまでの研究も、わしが死んだときに一緒に灰になっちまう。
わしは何もしなかったことになるんじゃ。みんなが言うようにな。」
「先生。先生も間違ってる。
それじゃ先生は、人に見せびらかすために研究をしたの?
灰になったって、誰も先生のことわからなくったって、
先生の生きてきた道は、神様がちゃんと見ていてくださるよ。」
それからティムは、つぶやくようにつづけた。
「ぼく、先生は立派だと思ってるの、昼間に来た人よりずっと。
先生は、目的を持っているもの。
他の人に何と言われてもここまで来たのは、強い心を持ってるからだと思うの。」
それからティムは、翌日、お給金と引き換えに、ピンクの粒を一つ、先生に渡した。
「それ、不死の薬なの。それを飲むと死ねなくなるって。
でも、飲まないほうが幸せだって言われたけど、 でも、先生。
もしかしたら、
先生みたいな目的のある人なら、
それも値打ちがあるんじゃないかと思うのよ。」