行方不明のセバスチャン
リトル・ティムは、山を一つ越えて山村に入った。
おなかもすいてきて、くたくたで歩くのがひどく億劫になって、小川のそばにしゃがみこんだ。
「セバスチャン! セバスチャン!」
後ろで高い細い声がして、振り返ると、金髪のやつれた女が木の下に立ちすくんで、こちらを見ていた。
「こんにちわ、おばさん。」
ティムは微笑んであいさつしたが、婦人は青ざめて首をふった。
「どうしたの、おばさん? 顔色が悪いよ。病気なの?」
「い・・いえ。大丈夫よ。坊やがおばさんの子に似てるもんで、びっくりしちゃって。」
弱々しく微笑する婦人は、どこか哀れに見えた。
「坊やの名前は?」
「ティム。リトル・ティム・クランドゥール。おばさんの子は、セバスチャンっていうの?」
「そうよ。坊や、うちへ来ない?ごちそうするわ。」
「うわあ、よかった。ぼく、腹ぺこなんだ。だって、ずっと歩いてきたんだもの。ほら、あの山のずっとむこうから来たんだよ。」
「まあ、大変ね。どこへいくの?」
「アーサー叔父さんのとこ。だから、ずっとずっと先なんだ。」
「じゃあ、おなかいっぱい食べて、元気つけなくちゃね。」
婦人の家には、子供は一人もいなくて、部屋はきちんと片づけられていた。
「セバスチャンは? おばさん?」
婦人は首をふった。
「行方不明なの。もう一週間にもなるのよ。見つからないの。ああ、もうきっと死んでるわ。
食べるものもなしで、夜は寒いし・・・一週間も生きてるわけないわ。ああ、あの子は・・・」
婦人は机につっぷして泣き出した。
「おばさん。大丈夫だよ、きっと。 ほら、ぼくを見て。
僕ももう一週間も一人でこうして生きてきたんだよ。
でも、こんなに元気でしょう。
山の中では木の実をを食べたし、夜はたき火をたいたんだ。
小川の水を飲めば生き返る気がするよ。
だから、おばさん。セバスチャンもきっと大丈夫さ。
子どもってねえ、大人が考えるほど弱虫じゃないんだ。
男の子は特にそうだよ。
きっと、ケロッとして帰ってくるよ。」
婦人はまだしゃくりあげながらも、顔をあげて、涙をふいた。
「そうね、ありがとう、坊や。きっと、そうよね。」
「うん、もちろんだよ。パイをもう一切れもらっていい?」
「どうぞ。おなかいっぱい食べてちょうだい。」
数日して、セバスチャンは山の中を心ゆくまで探検し終えて、
元気いっぱいに母の胸に舞い戻ってきた。