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「理由は?」
わたしは、ほぼ同じ目線のベルン会長を上目づかいで睨みながら、尋ねた。
「は?」
まさか自分の意見に異を唱えられると思わなかったとでもいうかのように、ベルン会長は表情をこわばらせる。
わたしは構わず、ベルン会長の目をみて、つづけた。
「まさか生徒たちの要望が多い企画が実現できそうだというのに、反対する理由も挙げられないわけじゃないですよね?具体的な理由をおっしゃってください」
「うぅ……、そうだ!クリスマスってのは、異世界の神の誕生を祝う祭りだろう!?そんなもの、アントワールで祝ってどうする!?」
一瞬ひるんだベルン会長は、いい反対意見を思いついて、勝ち誇ったように言う。が。
「異世界でも、真剣に宗教行事として執り行っているところでは、むしろダンスパーティなどはしないようですし、問題ないのでは?まぁあえて問題があると会長が主張されるのであれば、異世界の小説をまねた”なんちゃってクリスマスパーティ”というイベントにすればいいのではないでしょうか」
異世界からもたらされる小説の人気は、息が長い。
商魂たくましい商家のアピールのおかげもあって、そこから根付いたイベントも多く、クリスマスも学校では今までパーティはできなかったものの、家庭では祝う家も多いという。
そこに異世界の宗教への思い入れは、ほとんどない。
イベントとして、クリスマス・パーティを執り行うことになんの問題もないだろう。
「他に、なにか?」
わたしが促すと、ベルン会長はなにやらうぐうぐうなる。
反対意見は、ないんだな。
「特にないようでしたら、アリスさん。こちらの企画は採用の方向で検討したいと思います。いいですね?」
わたしが企画書を見せながらいうと、アリスちゃんはぱぁっと顔を輝かせて、
「はい!ありがとうございますぅっ!大好きですぅ!」
と、わたしに飛びついてくる。
あー、こういうところが男子に人気の理由なのかな。
確かに、感情を素直に表現してくる子ってかわいい。
スキンシップ過多なところも、男子的には嬉しいだろう。
ちらりと見ると、アリスちゃんに付き添って来ていた子はもちろん、エドガーも微妙にうらやましそうな顔でこっちを見ている。
ベルン会長にいたっては、顔を真っ赤にしてこっちを睨んでいる。
そんなに羨ましいのか。
アリスちゃんが気軽に抱き着いてきたのは、わたしが女子だからだろう。
なんとなく得意な気分になって、わたしはアリスちゃんから離れる前に、頭をなでなでする。
どうだ、うらやましかろう。男子ども。
にしても、会長はアリスちゃんに気があるなら、ちょっとは企画も融通してあげればいいのに。
企画を通すのに私情を持ち込まれるのは困るけど、ちゃんと企画書を読むぐらいは普通にしろよ。
やれやれと思ってベルン会長を見る。
と、ベルン会長はこちらを睨んで、
「そんなにダンスパーティがしたいのかっ」
「はぁ……?なんのことですか?」
とつぜん怒鳴られても、なにがなにやらさっぱりわからない。
わたしが問い返すと、会長はきゃんきゃん吠え始めた。
「とぼけるなっ。お前たちがそんな企画を後押しするのは、自分たちがクリスマスに一緒に踊りたいからなんだろうっ?」