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エドガーは、アリスちゃんの企画書をベルン会長に示しながら言う。
「いま、こちらの企画書に目を通させていただきました。会長、この企画は一考の余地があると思います」
「考える余地なんて、ない!俺が却下って言ったら、却下なんだよ!」
ベルン会長はなんのためらいもなく、吠える。
するとアリスちゃんも必死で声をあげた。
「そんなぁっ!アリス、いっしょうけんめい企画したんですぅっ!がんばったんですぅ!」
ぎゅっと両手を胸の前で握りしめて訴えるアリスちゃんの姿は、可憐だ。
可憐だけど……、内容がね?
案の定、ベルン会長は「ふん」と鼻をならして、傲然と言う。
「は?お前が頑張ったとかどうでもいいんだよ!努力したら企画が通ると思っているのか?努力なんて、他の企画立案者だって、全員しているっつーの!」
「で、でもぉ。アリス、難しいこととか苦手で。でもでも、いーっぱい考えて、いろんな人に助けてもらって、がんばったんですよぉ!?」
お、おぅ。おぅ。
横暴なベルン会長の言いようもどうかとおもうけど、その会長に一歩もひかずに内容のない反論をするアリスちゃんにもびっくりだよ……。
ある意味、この二人はお似合いなのかも。
とか考えていると、とつぜんベルン会長ににらまれる。
「……なにか?」
「なんか嫌な予感した。お前、いまヘンなこと考えただろ」
「わたしは、なにも。ところで、エドガー。企画書を読んで、使えるって思ったの?」
なんでわかったんだろ。
たまにベルン会長は、妙なところで勘がいい。
野生的ななにかなんだろうか。
さらっと流して、エドガーに笑顔を向ける。
エドガーは「うん」と軽くうなずいて、
「これ、ダンス・パーティなんだよね。クリスマスにダンスパーティっていうのは、先ほど彼女も言っていたように異世界ではメジャーだよね。異世界の小説にもよく登場するし、憧れている女の子も多いだろう。今までも、何度か企画は提出されている」
「そうだね。だいたい予算が高くなりすぎて却下されているけど」
「うん。でもこの案だと、ケータリング業者もウェイターの派遣業者も見積もりが出ているんだけど、格安なんだ。ケータリング業者は新作料理のアンケートに答えることが代わりの条件になっていて、派遣業者は新人研修を兼ねるってことになっている。ダンスの音楽は、伯爵家のおかかえの楽団のボランティアだし。会場の設営も生徒が主体になることで、予算が通常のイベントとほぼ同額でできそうなんだ」
「へぇ。そこまでちゃんと詰めているんだ」
エドガーに渡された企画書に、わたしもざっと目を通した。
会計に関しては、エドガーほどの知識もないので、わからないことも多い。
けれど綿密にたてられた企画は、すでにあちこちの支援者をとりつけていた。
この企画なら、今まで要望は多かったものの実現できなかったクリスマス・パーティが実現可能だ。
あまったれた口調のために軽んじかけたけど、アリスちゃんてば、すっごい有能。
アントワール伯爵はお優しい方だけど、学生のイベントに自分が後見する団体のボランティアをまわしてくれるなんて、はじめてのことだ。
それなのに、ちゃんと協力をとりつけているみたいだし。
他の業者については、わたしには詳しいことはわからないけど、エドガーが後押ししたくなる条件を整えているみたいだ。
ここまでの協力をとりつけたんなら、そりゃ「いーっぱいがんばった」って言いたくなるだろう。
「これは確かに、一考の余地があるね。というか、わたしとしてはぜひ後押ししたいわ」
「僕も、だね。クリスマス・パーティは、生徒たちの要望も多い。実現できれば喜ばれるだろう」
「駄目だ駄目だ!俺は、反対だ!」
わたしとエドガーが企画に賛成すると、ベルン会長がその言葉をかきけすように大声でどなる。
うるさいなー、もう。