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夢喰い

作者: 夏原冬樹

 夢を見なくなったのはいつの頃だろうか。記憶を呼び起こしてみるともう何十年も見てない。日々の仕事に追われ、朝は飛び起き朝食を餓鬼のようにむさぼり、家を出ると満員電車に輸送され職場へ向かう。昼は反りの合わない上司と共に営業に出かけ、誰が買うのだろう百科事典の押し売りをする。業務に忙殺されていると気づけば定時を大幅に超え、サービス残業。帰宅ももちろん満員電車の洗礼を浴び、夜は死んだように眠る。こんなサイクルをもう十年近く繰り返している。気づけば夢を見ることはなくなった。夢の世界に胸をときめかせていた幼少もどこかへ去り、これが成長なのかとなかば夢をみることを諦めた。

「それは夢喰いが憑いているからですよ……」

 仕事からの帰り、会社から駅までの路上の片隅にひっそりと易者が佇んでいることに気付いた。椅子に座りながら、机に配置されてあるガラスのような球を眺めている。私はそのようすにただならぬ雰囲気を感じた。黒いフードをかぶり、全身黒装束で身を固めた風貌もさることながら、常人とは違うオーラを感じた。そこで彼に悩みを打ち明けたのである。

 「はあ……それはなんですか」

 私は目の前の男に向かって行った。

 「夢喰いはその字の通り、夢を食らう異形のものです……。夢は古来から現世を映す仮初めの世界とされてきました。夢の中で人は現実とは違う異界を想起する。その世界に巣くう少し変わった生き物です」

 分かったようなわからないことを言う。今の発言をかいつまんで言えば、その夢喰いと言う怪物が憑りついているから夢を見なくなったのだろう。

「それでは私は何をしたらいいのですか。まさかこのまま夢が見れないなんてことはないですよね」

 夢を見るためにはどうしたらよいのか尋ねる。

 「今取り除いてあげますよ……」

 男はそういうとなにやら呪文のような言葉を発した。

 気が付けば私は消えた。

 ああそうか私そのものが夢喰いだったのか。

長い年月の間に憑りついていた男と意識、思考を同期させていたみたいだ。私が消え、私が憑りついていた男はすっきりした顔をしているのを認識したのが最後の光景だった。


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