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リーシュの家

『ここがあたしの家だよっ!さぁ、入って♪』



 リーシュの家は全て木材でできているようで、前世?のログハウスにそっくりだった。


「お邪魔しまーす」


『まぁ、座ってて♪今、お茶用意するから♪』


 リーシュはざっと部屋の間取りを俺に説明し、なにやら楽しそうに台所へ向かっていった。

 さすがに神様とはいえ、こんな美少女独り暮らしの家に入るのは緊張する。神様の家より美少女の部屋の方が緊張するのは男であれば当然だろう。

 リーシュの家の中は狭いと言っていた割には結構広く、小部屋が2つに居間と台所が1つずつ有るらしく…前世?でいう2LDKというやつだ。

 小部屋の方はわからないが、居間は脚の短いテーブル1つに長手のソファーがテーブルを挟むように2つ置いてあり、応接室を彷彿ほうふつさせたが、シンプルで綺麗に掃除してあったので好感が持てた。



『お待たせ~』



リーシュがお盆にのせて持ってきたのは緑茶だった。


「緑茶なのか? こっちの世界って」


『あれ? 紅茶の方が良かった? あたし、前に大和の国に住んでたから、緑茶の方がいいかなーって思ったんだけど』


「いや、緑茶の方が好きだけど、まさかここで緑茶が出てくるとは思わなくて。それより、さっきと口調が全然違うんだが…」



家に来てから特に気になっていた。出会ったばかりのあの男っぽさはなんだったのかと。俺としては今の女の子らしい感じの方が好みなので問題はない。


『…ぇーと、最初のは初対面だったから…』


「初対面だとあんな…逞しいと言うか、男らしい口調に?」


『ん~と、友達があたしの顔は男に舐められるから、基本初対面の男と話す時は強気で行けって。あと、そうゆう性格だって周りに思わせとけば、変なちょっかいとか無くなるからって。あたし、そんなに弱そうな顔かなぁ…』



(弱そうとかそうゆう問題じゃないだろうな)


 本来の口調のままだったら、容姿もあって寄ってくる男はたくさんいるだろう。さらに優しいというか気さくというか、初対面であってもわかる人の良さが善人以外を引き寄せる事もありそうで、リーシュの友達はそれを心配しているのだろう。



「そうゆう理由か。初対面と全然違うから気になってな」



『男の人と話すの80年ぶりくらいだったから、なんか新鮮で途中から強気で話すの忘れてたよ。この辺は誰も来ないし、買い出しに街に出ても男神はまったく話しかけてこないし、あたし的にはあまり目立っちゃいけない状況だからちょうどいいんだけどね♪』


アハハと笑いながらリーシュは言っているが、勘違いしている。



(それは男神の皆さんがあなたを避けてるだけじゃないですか?…何したんだよ…というか、とんでもない爆弾を投下してきた。80年!? 今、いくつなんだよ!? 神様だから年齢とか関係ないのはわかるけど)


「リーシュ、今…いくつな」


『言わないよ?』


「…の?」


『言わないよ?』



 無理矢理固めたような笑顔で被せ気味に即答してくるリーシュに、一瞬周囲の温度が下がった気がした。俺にはこの笑顔を無視して核心に触れる勇気などない。


「ご、ごめん。何でもない。ところで聞きたい事が有るんだけどいいか?」



『いいよ。答えられる事ならね!』



「あのマイリストに載ってた【スキル】って何なの? 世界樹のスキルって?」



『スキルっていうのは、その個人特有の力? というか特性? というか…まぁ、能力?って感じかな? ユシルの【世界樹】のスキルについては、あたしもわからないんだよね…世界樹から力をもらえるなんて聞いたことないし。ん~、ローちゃんなら物知りだし、何か知ってるかも』



「わからないのか。ちなみにローちゃんって?」



『ローちゃんは、あたしの友達だよ♪すっごく物知りで男神への対応もローちゃんに教えてもらったの♪スキルは口で説明するより、実際見せた方が早いかな。でも、今日はもう暗くなっちゃったから明日にしよっか!』



「ん、明日?」



 窓の外を見るとすでに日が暮れ、薄暗くなっていた。



「あのさ…俺、今日この世界に来たばかりで泊まるとこなくて…」



『しばらくウチにいていいよ♪ユシルはこの世界に来たばかりなんだから、リーシュお姉さんに頼りなって♪』


 ドンッとささやかな胸を叩くリーシュに俺は心からの感謝と若干の不安感を覚えた。

 いくら神様とはいえ、独り暮らしの女の子が初対面の男を家に泊める選択を簡単にできるというのはどうかと思う。リーシュは危うすぎる。悪意というものを理解していないのか気にしていないのか。リーシュだからそうなのか。神様だからなのか。

だがリーシュにお世話になる以外の選択肢はないし、正直ほんの少しだけ淡い期待も持っていたりする。


なのでもちろん



「ありがとう。本当に助かるよ。しばらくお世話になります」



俺はリーシュに頭を下げた。



『いいってば♪ そんな畏まらないでよ。これからよろしくね!』



リーシュが右手を差しのべてきた。



「よろしく!転生後に最初に会ったのがリーシュでよかったよ」






それは、俺がリーシュの右手を握った瞬間だった。






ポーン!



〔風天ヴァーユリーシュとの友情値が30%を越えました。風魔法スキル [始] の借用が可能です。借用登録しますか?〕



 頭の中に突然、電子音と機械的な女性の声が聞こえた。



「はい???」



 ポーン!


〔承諾を確認。スキルリストに登録しました。〕



「は??」



『ん? どうしたの?』



「今…頭の中でリーシュから風魔法スキルを借用できるって声が聞こえたんだ」



『へ? 借用!? あたしの風魔法!?…ユシル! マイリスト出して! 早く!』



「え?…ぁ…あぁ…今出す。…マイリスト!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 名前∥ユシル


 神格∥転生した元人間かとうせいぶつ


スキル∥      ???

世界樹


借用スキル∥風魔法 〔始〕




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 経歴が省かれていた。必要な情報だけくれるなんて都合のいいツールだ。


 それよりも…マイリストに新しい項目が増えていた事に驚いた。




「スキルが増えてる…」



横から見ていたリーシュが声をあげる。



『〔始〕だけど、風魔法使えるようになってるね!急に何で…。ねぇ、これって……もしかして、【世界樹】スキルの効果なんじゃないの!? ていうかそれしかないよね?』



「リーシュ、借用スキルって聞いたことある?」


『ないよ!初耳!』


「じゃあ、やっぱり…これが【世界樹】スキルの効果なのか? しかも、友情値?仲良くなるとスキルを借りられると?」



『絶対そうだよ! それ以外考えられないもん! すごいね! そのスキル!! 友達の数だけスキル使えるなんて!』



 本当にそうなのか?いくら考えても答えは出ないが、ほんの少しでも自分のスキルについて分かった事があったので嬉しかった。しかも魔法。俺は中二病ではないが、誰であれ魔法が使えるとなれば使ってみたくなるのは当たり前だ。きっと誰しも一度は魔法が使えたらと夢見たものだろう。しかも風魔法。空を飛ぶ事すらできるようになるかもしれない。



「…使ってみたい」



『あたしも見たい! ユシル、明日使ってみよう! 今日はご飯食べて早く寝よっ♪ 晩ご飯作らなきゃ!』



 そういって興奮気味なリーシュは、パタパタと台所へ向かった。俺は待ってる間、特にすることもないので明日のスキル実験の妄想とこれからのリーシュという美少女との同居?生活を想像し、色々な意味で気持ちが昂るのだった。









1時間ほどすると


『おまたせ~! 遅くなってゴメンね! 神界で初めての食べ物だと思ったから、気合い入れて作ったら時間かかっちゃった!』



出てきたのはシチューのようなものとパンだった。


『不死鳥のシチューだよ♪熱いから気を付けてね♪』


「不死鳥!? 食材にできるの!?…えっ、旨っ!?」



 そう不死鳥は旨いのだ。前世でブランド地鶏など食べたことないが、噛んだときに溢れる鶏特有のあっさりとした肉汁、食感はちゃんとあるのに口の中でホロホロになってすぐ無くなってしまう。不死鳥がきっと鳥界No.1だ。


『捌くのに時間かかるけど、ユシルの口の合ったみたいでよかった♪外に骨を出しておけば朝には復活して飛んでっちゃうからエコだしね』



(リーシュ…いや、リーシュ様!なんていい人なんだ。エコかどうかはわからないけど、もう女神じゃないか)



「本当に美味しい! 転生してよかったって初めて思った!」



『そこまで~?…フフ、嬉しいなぁ♪あっ、ご飯食べたらお風呂も沸かさなきゃ!早く寝ないとね♪ ユシルは右のローちゃんの部屋で寝てね♪ベッドもあるし、いつでも寝れるようにしてあるからね』



「ローさんの部屋なのか。使って大丈夫?」



『いいの。ローちゃん、たまにしか来ないから。確かこの前来たのは…2年前かな?』


少しリーシュの顔が暗くなる。



(ローちゃんよ、もっと来てやれよ…)



『あ…あと、ユシルなら大丈夫だと思うんだけど、お風呂と就寝後のあたしの部屋のドアに触らないでね? 近づくのもオススメしないよ?』


(なんだかんだ言っても、やっぱりリーシュも年頃の女の子と何も変わらないんだなぁ…)



そう思いながら


「もち…」


『消えちゃうから』


「え?」


『風結界が張ってあるから、多分人間のユシルだと消滅しちゃうから、絶対に触らないでね♪』




「…も、もちろん、全力で触らない!」



(消滅って…怖いよ、この女神めちゃくちゃ怖いよ)





 その後、食事を終えた俺は眠りにつくまでログハウスのドアに怯え続けた。




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