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生きる意志

 


 何も見えない。真っ暗だ。頭がぼやける。まるで水に浮いているような感覚だ。



さっきの痛みは何だったのか。




『……るか?』



何か遠くの方から声が聞こえた。



『我の声が聞こえるか?』



「え?」



  老人まで行かなくてもそれなりに年を重ねたような重みのある声だ。森の中には誰もいなかったはずなのに何故…そう思っていると



『聞こえるな?』



 俺に話し掛けているようだ。意識がはっきりしてきた途端不安になった。森の中からいきなり真っ暗なところへ連れてこられたのだから当たり前だ。



「あ、あのっ!ここはどこなんですか!? あなたは誰なんですか!?」



『…落ち着け。お前の生は先程終わった。お前は死んだのだ』



(死んだ!?そんな馬鹿な!?ありえないだろ。そんな急に…ただ散歩してただけなのに)


いきなり死んだと言われて信じられるはずがない。信じられないのだから当然こう考えるだろう。



「冗談…ですよね?」



『理解できぬのもわからなくはないが。 お前は先程、邪竜ニドヘグに腹を貫かれ死んだのだ。その直前に触っていた大樹があったであろう?それが我だ』



(邪竜? ふざけてんのか? んなもんいるかよ…)



 死んだの次は邪竜だ。今の状況はよくわからないが、話が突拍子過ぎてもうどうしていいやら。



「…それが本当だって証拠は?」



『自分の体を触ってみろ。触れるものならな…』



  まず、手を触ろうとしてみた。



  何の感触もなく、何もない。

 

  そして腕も、足も、顔も…

 

  そもそも触ろうとする手すら感じられないのだ。



『お前は今、我の中に溶け込んでいるのだ。

 ニドヘグに食われる寸前に、意志だけ我の中に取り込んだ』




 認めたくはないが、この何もわからない状況が反って真実だと思えてきてしまう。俺は早々に真実かどうかという答えの出ない問答はやめて、気になったことを口にする。



「どうしてですか? それにあなたは誰なんですか?!」



 どうして俺を助けたのか。そもそもお前は誰なのかと。



『ニドヘグに意志を…魂と言った方が分かりやすいか? 食われたらその生は終わる。生は廻っている。それが終わるというのは本当の終わり。無だな。お前の生が終わるのは我には関係ないが、お前という存在に少し興味が湧いた。…我をミドガルドで見つける人間は今まで存在しなかったからな。だが、今のお前からは何も感じん。まぁ、我が名くらいは教えてやろう』



『我が名は世界樹ユグドラシル…世界を支える者なり。

  運命が尽きし者よ…最後の言葉を聞いてやろう』




(ユグドラシル!? あの北欧神話とかゲームとかに出てくるやつか!?と、いうか最後の言葉!?俺は死ぬのか!?いや、消えてなくなるのか!?嫌だっ!絶対に嫌だ!)



  嫌な夢と決めつけられないほどの現実味があった。そして、もし夢だとしても喜んで死ぬ人などいない。


「嫌だ……最後なんて絶対に嫌だ!」



『もうお前の体はニドヘグに食われて存在しない。お前の運命は尽きた…諦めろ』




 …運命?




 運命なんて言葉でこんな理不尽な事が許されるのか?




 俺は、もういない家族の分も生きるって決めた。


 たとえ、一人になっても…


 それが俺が唯一できる祖父への…俺を生んでくれた両親への恩返しだと思っているから。



「それでも嫌なんだ!俺は……俺を生んで育ててくれた家族の為にも生きるって決めたんだっ!」



『我儘を言うな。そうゆう運命だったのだ…どうしようもないではないか』




「運命で全部済ませるなよっ!運命で全て諦められるなら…俺の人生って何だったんだよっ!勝手に決められた運命になんかに人生終わらされてたまるかぁぁぁー!!!」




  ガシャーンッ!!




 何かが割れるような感覚があった。そして、次第に体の存在感というか、五感というか、先程までには全く感じられなかった人としての感覚が戻ってきた。



『ッ!我の深層領域に入ってきただと!?それにこの感覚…我の魔力を使って、体の再形成か!?』



 驚くユグドラシルら次第に様相を変える。



『…フフフ…フハハハ…まさかここまで我と波長の合う人間が存在するとはな。ミドガルドで我を見つけるわけだ』



 体の感触が戻った。手も足も顔も存在する。


「運命、運命って…運命くらい自分で決めるぞっ!ユグドラシル!! 俺を元の世界に返せっ!!」



 

『…それは不可能だ。お前の体は我の魔力とお前の意志のみで出来ている。ミドガルドに戻せばすぐに消えるであろう』


思わず力が抜けた。どうにかなりそうな気がしていたのに。



「じゃあ、どうすれば…」




『…お前、転生する気はないか? 神々の座する神界に。神界ならば魔力の体で構わん。神々もそのようなものだからな』



(転生…?神界…?でも、それしか今を生きる道がないのなら…)



「…生きていられるのなら、何でもいい…」



『ここまで波長の合う人間は初めてだからな。我の意志と力もやろう。きっと神界で役に立つであろうよ』



「よくわからないが、それでお前に何の利点があるんだよ?」



『お前を見ていて……運命を受け入れるのが馬鹿らしくなっただけだ。我の運命はニドヘグに根を食い荒らされ、ラグナロクで焼き払われるのをただ待つのみ。ならばお前に全てくれてやった方が面白そうだからな』



「お前は……消えるのか…?」



『同情か?それには及ばん。我はお前の中で生き、お前の目を通して世界を傍観する事にしよう』



「何か神界とやらでやらせたいことでもあるのか?」



『ない。お前の好きに生きろ』




その言葉を最後に俺は何かに吸い出されるような感覚に意識を失った。

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