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光のもとでⅠ 第十一章 トラウマ  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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22 Side Minori 02話

 部室棟を出ると、次は桜林館のテラスへ移動する。

「それいつの話?」

「確か球技大会明けの月曜日よ」

「和総の話だと、球技大会の日から今日まで何回も呼び出し食らってるみたいなんだよね」

 情報ソースが翠葉ちゃんじゃなくて和総な時点で色々と謎……。

「翠葉ちゃんってそういうこと言わないの?」

「桃や飛鳥には言ってるのかと思ってたんだけど、訊いたら知らないって言ってた。桃は生徒会経由で知ってはいるみたいだけど、回数までは把握してなかったなぁ……」

 それはそれは……間違いなく、桃華は今頃ヤキモキしていることだろう。飛鳥ちゃんならば、呼び出した女子たちにはらわた煮えくり返っているに違いない。

 でも、いつも近くにいる桃華たちが気づかないくらい巧妙に呼び出されているわけで、それでも風紀委員がリークできる程度ならまだ大丈夫かしら、とも思う。

「何? うちのクラスの姫の話?」

 そう言って階段を上がってきたのは和総だった。

 同じくB組の圭太、洋介も一緒。さらには千里も。

「呼び出しのカウントは?」

 訊けば三十日現在で十一回十四人らしい。

「ちょっとそれ……かなり頻度高くない?」

 テラスの椅子に座り、

「う~ん……頻度は高め。でも、人数はひとりかふたりって感じかな」

 うちの学校は呼び出しなどをする際にも団体行動というものにはあまり縁がない。前に聞いた話だと、多くても四、五人というところらしい。

「なんで単独で行くんだろ?」

 理美が不思議そうに口にすると、圭太が答えた。

「目立つからじゃん?」

 率直な感想だったと思う。

「確かに目立つよな。翠葉っちかわいいし、歩いているだけでも人目引くし」

 洋介も便乗する。

「たぶん、それが理由だよ」

 と言ったのは和総。

「あの子囲んでたら呼び出し以外の何にも見えないじゃん」

 確かにねぇ……。

「で? 風紀委員は何やってるわけ?」

 千里が突っ込んだ。

 いつもおちゃらけている癖に、珍しく真面目な顔つきだ。

「遊んでるわけじゃないよ。ちゃんとマークはしてるし、危ないと思えば止めにも入る」

 和総は答えつつもすっきりしない表情でテーブルに突っ伏した。

「たださぁ……俺らが動くの、御園生ちゃんが嫌がんだよねぇ……」

 みんながみんな、その言葉の真意を知りたがっている今、突っ伏しているなんて許されない。

 ベリ、とテーブルから引き剥がし、

「どういうことっ!?」

「はいはい、話すから……。俺たちは『呼び出し』っていったら結構きついことを言われて泣いちゃうとか、それが怖くて学校に来れなくなっちゃうとか、そっちを考えるわけだよ。そうじゃなければ売られたケンカをすべてお買い上げしちゃう勝気な問題児」

 和総は具体的に話し始める。

「でもさ、御園生ちゃんはそのどっちでもないんだよね。まず、呼び出しくらっても『なんでしょう?』って感じで普通についていっちゃうし、大声出されてびくっとはするけど、それで泣いたりもしない。かといって、言われていることに食って掛かるわけでもなく、最近だと藤宮先輩との架け橋になろうとしている気すらする」

「……ねぇ、質問」

 洋介が手を上げた。

「どうぞ」

「翠葉っちってさ、藤宮先輩が自分のことを好きってわかってないの?」

 いや、誰もが訊きたいことだと思うわ。

「大っ変残念ながら、今のところは気づいてない模様」

 苦笑交じりに和総が答える。と、千里が大口を開けて笑い出した。

「くくくっっっ――いい気味っ! あんだけ行動に移していて気づいてないって、最高っ! いやぁ、生徒会で見ててもそんな気はしてたんだよねぇ~」

 上機嫌で、「御園生さん最高っ!」といえば理美が一言。

「自分なんてクラスと部活しか覚えてもらえなかったくせに」

 面白くなさそうに、ぷい、と千里とは反対側に顔を向けた。こんなことは日常茶飯事。

 みんな理美が千里のことを好きなのは知っているし、千里がそれを取り合わないのも知っている。それでも理美は千里が好きなのだ。

 もう今となってはそれを突っ込む人間など周りにはいない。そのくらい周知されているわけで……。

「翠葉ちゃんってさ、誰か好きな人いないのかね?」

 圭太が口を開く。

「もしさ、もし自分が藤宮先輩を好きになったら両思いだけど、架け橋はできなくなるじゃん?」

「圭太、それ、御園生ちゃんには高度すぎる問題……」

 和総は再びテーブルに突っ伏した。

「あの子さ、やっぱ変だと思うんだよ。訊かれたことや言われたことに対してなんだけど、何に対しても事実しか話さないんだ」

 またしても端的な言い方するわね……。

 私の視線が痛かったのか、

「美乃里さん怖いっす……」

「じゃ、その先が気になる物言い改めなさいよ」

「スンマセン……。いやさ、呼び出されて自分の噂の話をされれば言われたことに対しての否定はするわけ。そこまで話のきっかけができればほかの噂の否定だってできそうなものだけど、言わないんだ。藤宮先輩のことを言われればそのことだけを答える。なんかよくわかんない子なんだよね。今、言われてる噂なんて全部嘘で全否定したいはずなのにさ」

「「「わかんねぇな」」」

「わかんない」

「わからないわね」

 私たちの反応に、「だろ?」とでも言うように和総は続きを話し始める。

「でさ、訊いてみたわけですよ。お嬢ちゃんどうしてだい? と。そしたら、『噂には尾ひれがつくから訊かれたことには答えるけれど、それ以上を口にする必要はない。自分から話を大きくする必要はないでしょ?』だって」

 はぁ、なんていうか、何も考えていないようで、一応は彼女なりに考えているらしい。

 どうもすっきり、という具合には納得ができない。でも、彼女の中に何かしらの芯があるのはわかる。

「本当に不思議な子よね」

 なんとなく私が口にした言葉に、その場の面々が頷いた。

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