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光のもとでⅠ 第十一章 トラウマ  作者: 葉野りるは
本編
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07話

「じゃ、御園生も戻ってきたことだし、ホームルームの本題な」

 ホームルームの本題……?

 不思議に思っていると、教卓の上に宿題を積み上げていた桃華さんと佐野くんが壇上に立った。

「今学期は我が校最大のイベント、紅葉祭があります。日程は十月三十日三十一日の土日。その紅葉祭の実行委員を男女ひとりずつ選出したいと思います」

 桃華さんが教卓の前に立ち進行を買って出ると、佐野くんは黒板を前にチョークを持つ。

「まず、毎度のことながら、生徒会役員とクラス委員は対象外となります。立候補者はいますか?」

 桃華さんが教室全体を見渡す。

 少し間があり、「はいっ!」と元気のいい声があがった。

 廊下側の一番前の席、希和ちゃんが立ち上がる。

「あら、希和、珍しいわね? でも大歓迎よ」

「桃ちゃん、ごめん! 私の立候補じゃなくて、推薦なの。でも、すごくやりたがってる子だから――有田希和は七倉香乃子を推薦しますっ!」

「ち、ちょっとっっっ!?」

 今度は窓際の列の一番前、香乃子ちゃんが身を乗り出して希和ちゃんに待ったをかける。

「だって、カノンずっとやりたがってたじゃんっ。でも、中等部では見てるだけだったし……」

 そうなんだ……。

 香乃子ちゃんはこういうものに自分から立候補するような子には見えない。どちらかと言うなら、人前で何かをするのは苦手なんじゃないかな、と思う。

 だから、できずに来ちゃったのかな……?

「カノン、一年が一番身動きとりやすいよ? 再来年は今年よりも大きなものを製作しなくちゃいけなくなるから実行委員なんてできないかもしれないんだよ? 今やらないでどうするのっ!?」

 香乃子ちゃんは思いあたる節があるのか、黙り込んでしまった。

「香乃、どうする?」

 桃華さんの問いかけにも答えられない。

 今朝、お菓子の話でポンポン言葉を口にしていた香乃子ちゃんとは別人。――でも、同じ人……。

「七倉、一歩踏み出してみたら?」

 声をかけたのは佐野くんだった。

 佐野くんは教壇から下り、香乃子ちゃんの前に立つ。

「推薦ってさ、推薦した人の期待も信頼もかかってると思うんだよね」

 俯いていた香乃子ちゃんがその言葉に顔を上げた。

「相変わらずいいこと言うじゃない」

 桃華さんは佐野くんの隣に並び、

「香乃、私も同感。それに香乃にならできると思うし、私たちクラス委員も安心して背中を預けられるわ」

 それでもまだ香乃子ちゃんは答えられずにいた。

 桃華さんと見詰め合う状態が続き、

「カノンっ、なんのために夏休み中に自分の作品仕上げたのっ!?」

 希和ちゃんの喝が飛ぶ。そこに、

「はーい! 俺も七倉を推薦っ!」

 空太くんが声をあげるとそれを皮切りに、「私も!」「俺も!」とクラス中から後押しの声があがった。

「香乃、どうする?」

 もう一度桃華さんが尋ねると、

「……はいっっっ! 七倉香乃子、推薦されたけど立候補っ! 実行委員やりたいですっ」

 カタリ、と席を立ち教室全体を見渡すように振り向くと、みんなが了承の拍手を送った。 

「じゃ、続いて男子なんだけど――」

 桃華さんが教壇に戻ると、佐野くんは黒板に香乃子ちゃんの名前を記す。

「できれば運動部から出てほしいの。文化部は何かと忙しいから」

 ……香乃子ちゃんは文化部だけど大丈夫なのなかな……?

「香乃は美術部のほう、大丈夫なの?」

 飛鳥ちゃんが訊くと、

「へへへ……実は、自分の作品は終わらせてあるの。あとは部全体のものだけだから大丈夫」

 香乃子ちゃんの隣の席、高坂くんが「実行委員がやりたくて?」と訊くと、恥ずかしそうにコクリと頷いた。

 香乃子ちゃん、がんばり屋さんだ……。実行委員になれて良かったね。

 ほんわかした気分で香乃子ちゃんの後ろ姿を見ていると、「はい」と空太くんが手を上げた。

「俺、立候補」

「あら、助かるわ」

 にこりと微笑む桃華さん。

「おっしゃ、七倉と高崎に決定な!」

 佐野くんが追加で空太くんの名前を黒板に書いた。

「このクラスでの紅葉祭実行委員やってみたくなった」

 空太くんの言葉に少し引っかかりを覚える。すると海斗くんが、

「まぁな、紅葉祭実行委員は中高で一度しかなれないからな」

 どうやら、ひとりでも多くの生徒が実行委員など、行事の中枢に携われるように、という配慮があり、何かの実行委員を一度やると、ほかでは実行委員にはなれないのだという。

 なるほどなぁ……と思いながら聞いている私はどこか他人事。

「じゃ、香乃と空太はあとで生徒会までメアドと携帯の番号の提出に来てね」


 ホームルームが終わると、教卓に乗っている宿題の山に桃華さんと佐野くんが唸る。

「海斗、悪いんだけど、これ持っていくの手伝ってくんない?」

 佐野くんが声をかけると、「いいよ」と海斗くんが即答した。

 海斗くんも理系の二冊で私も文系の二冊。ほかの人は満遍なく十三冊、という人がとても多い。

「翠葉も一緒に行くだろ?」

 海斗くんに訊かれたとき、「翠」と教室の後ろのドアから名前を呼ばれた。

「あ、ツカサ――そうだった……」

 ツカサが迎えに来てくれると言っていたのは朝のこと。

「ねぇ、御園生ちゃん」

「ん?」

 教卓の前に座る河野くんに話かけられる。

「藤宮先輩と付き合い始めたの?」

 え……?

「……あれ? 違うの?」

「どうして……?」

「下の名前呼び捨てになってるから。海斗や佐野だってくんづけでしょ?」

「……うん。でも、付き合ってはいないよ?」

「ふーん……なんでそんなことになってるの?」

「ツカサにそう呼んでほしいって言われたから……かな?」

「ふーん……じゃ、俺のことも和総かずさくんて呼べる?」

「……努力すればなんとか」

「じゃ、和総は?」

「和総、何翠ちんいじめてんのよっ!」

 斜め後ろから理美ちゃんの蹴りが入る。

「別にいじめてるつもりはないんだけどさ。……でも、それはちょっと気をつけたほうがいいかもね」

 河野くんは立ち上がり、「また明日!」と前のドアから教室を出ていった。

 なんだったのだろう……?

「翠、まだ?」

 はっとして視線を向けると、ツカサはドアに寄りかかり眉間にしわを寄せて立っていた。

 これ以上待たせたら何を言われるかわからない。

「早く行ったほうがいいぞ~」

 海斗くんに言われて、「またあとでね」と桃華さんたちを振り返って前のドアから出た。

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