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光のもとでⅠ 第十一章 トラウマ  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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03~07 Side Momoka 05話

「今学期は我が校最大のイベント、紅葉祭があります。日程は十月三十日三十一日の土日。その紅葉祭の実行委員を男女ひとりずつ選出したいと思います」

 私が司会進行を買って出ると、佐野が後ろで黒板にお題を記し始めた。

「まず、毎度のことながら、生徒会役員とクラス委員は対象外となります。立候補者はいますか?」

 いつものように教室全体を見回すも、珍しく誰の手も上がらない。

 おかしいわね。紅葉祭の実行委員はかなり人気があるはずだけれど……。

 それに加えて、うちのクラスは文化部の人間は少ないはず。

 推薦を募ろうとしたとき、

「はいっ!」

 と、声が挙がった。

「あら、希和、珍しいわね? でも大歓迎よ」

 推薦よりも立候補のほうがいい。何よりも一緒に仕事がしやすい。

「桃ちゃん、ごめん! 私の立候補じゃなくて、推薦なの。でも、すごくやりたがってる子だから――有田希和は七倉香乃子を推薦しますっ!」

 香乃を……?

「ち、ちょっとっっっ!?」

 窓際の香乃が身を乗り出し廊下側の希和に抗議する。

 抗議というよりは焦っている感じ……?

 とりあえず、私はふたりのやり取りを見守ることにした。

「だって、カノンずっとやりたがってたじゃんっ。でも、中等部では見てるだけだったし……」

 過去の記憶を手繰り寄せる。

 確かに、今まで一度も紅葉祭の実行委員にいたことはないわね。

「カノン、一年が一番身動きとりやすいよ? 再来年は今年よりも大きなものを製作しなくちゃいけなくなるから実行委員なんてできないかもしれないんだよ? 今やらないでどうするのっ!?」

 そうね、香乃は美術部だから、再来年はきついかもしれない。

「香乃、どうする?」

 教卓の前から訊いたけど、返事はない。

 何を悩んでいるのか……。

 すると、私の背後にいた佐野が動いた。

「七倉、一歩踏み出してみたら?」

 佐野が教壇の一番端まで行き、香乃に声をかける。

「推薦ってさ、推薦した人の期待も信頼もかかってると思うんだよね」

 香乃ははっとしたように顔を上げ、佐野と視線を合わせた。

 香乃は顔を赤らめつつ、まだ何か考えているみたい。

 私も教壇を下りて佐野の隣に立ち、

「相変わらずいいこと言うじゃない。香乃、私も同感。それに香乃にならできると思うし、私たちクラス委員も安心して背中を預けられるわ」

 やっぱり、やりたいと思っている人にやってもらいたい。

 困り顔の香乃に笑顔を向けると、

「カノンっ、なんのために夏休み中に自分の作品仕上げたのっ!?」

 廊下側から希和が声をかける。

 個人の作品が仕上がっているのなら、文化部であっても忙殺されることはないだろう。それなら迷うことはないと思うのだけど……。

 それに……香乃、実行委員になればもっと佐野と話す機会が増えるわよ? そんな動機であっても私はかまわない。恋って時にすごい原動力になるものだし……。

 思わず香乃に昔の自分を重ねる。

「はーい! 俺も七倉を推薦っ!」

 香乃の斜め後ろの席の空太が口にした。

 空太の発言がきっかけとなり、クラスといたるところから賛成の旨を示す声が挙がりだす。

「香乃、どうする?」

 返ってきたのは満面の笑みだった。

「……はいっっっ! 七倉香乃子、推薦されたけど立候補っ! 実行委員やりたいですっ」

 席を立ち、教室全体を見渡すように振り向くと、クラスメイトは拍手で承認の意を伝えた。

「じゃ、続いて男子なんだけど――できれば運動部から出てほしいの。文化部は色々と忙しいから」

「香乃は美術部のほう、大丈夫なの?」

 飛鳥が訊くと香乃はにこりと笑って答えた。

「へへへ……実は、自分の作品は終わらせてあるの。あとは部全体のものだけだから大丈夫」

「実行委員がやりたくて?」

 香乃の隣に座る高坂が訊くと、小さくコクリと頷く。そんなとき、再度空太が手を挙げた。

「俺、立候補」

「あら、助かるわ」

 いい面子が揃った。

 佐野は私の背後で、「おっしゃ、七倉と高崎に決定な!」と黒板にカツカツと文字を書く。

「このクラスでの紅葉祭実行委員やってみたくなった」

 空太がニコニコと口にする。

 実行委員は結構倍率が高いはずなのだけど、どうしたことか今回は手が挙がらなかった。それはきっと、今朝、香乃の赤面を見てしまったから。

 女子なら誰もが香乃の気持ちに気づいただろう。そして、実行委員になれば佐野と話す機会が増えることくらいは容易に想像できたのだ。

 ほかの女子が手を上げなかったところを見ると、誰もが香乃を応援しているというところだろうか。

 男子は女子が決まってから、誰かフォロー要員混みで立候補するつもりだったのか、と思わなくもない。現に空太なら適任だ。

 さすがうちのクラスね……。

「じゃぁ、香乃と空太はあとで生徒会までメアドと携帯番号の提出に来てね」

 これで二学期最初の仕事が終わった。


「さて、これを職員室へ持って行かなくちゃいけないんだけど……」

 目の前にあるのは宿題の山。本当に山、なのだ。

 佐野がプリントを見ながら、

「クラス三十人で平均して十一科目ってところかなぁ……」

 私は五教科、佐野は六教科と大差ない。が、

「俺たちってかなり立場ないよな……」

 佐野の視線の先には海斗と翠葉。

「そうね……」

 翠葉はあんな状態でテストを受けたにも関わらず二教科だ。海斗は毎回理系のみの宿題。

 九十九点を取ろうが満点ではない限り、情け容赦なく宿題の冊子が追加される。

「あんな状態でも満点を取るだけの努力をした翠葉は免除」

「だな……。海斗、悪いんだけど、これ持っていくの手伝ってくんない?」

 窓際の席に向かって、「悪いんだけど」と声をかけた佐野だけど、

「あんた全然悪いと思ってないでしょ?」

「簾条さん、何当たり前のこと仰ってるんですか」

 にこりと笑うこの男、意外といい根性してるんじゃないかしら。

「次の期末考査はクラス全体で勉強会かしら? ひとりでも多くの人間を満点取らせないと腕がもげるわ」

「あぁ、それは楽しそうなんじゃん? でも、絶対的に御園生と海斗に質問が集中するよな」

「それで脱落してくれると助かるんだけど」

「鬼」

「嘘よ」

 そんな、嘘とも本気とも取れない会話をしていると、教室に異質な声が響いた。

 異質、というより、私の中では聞き分けるのに努力のいらない声。

 視線を上げると、教室の後ろのドア口に藤宮司が立っていた。大きくも小さくもない声で「翠」呼ぶと、

「あ、ツカサ」

 教卓前にやってきた翠葉が藤宮司を振り返る。

「――そうだった……」

 などと零しているくらいだ。藤宮司が迎えにくることをすっかり忘れていたに違いない。

「ねぇ、御園生ちゃん」

 教卓の前の席、和総かずさが声をかけると、「ん?」と翠葉が首を傾げる。

「藤宮先輩と付き合い始めたん?」

 それは突っ込みたくもなるわよね。私も佐野も海斗も、みんな聞いていない振りをして耳はダンボ。

「……あれ? 違うの?」

「どうして……?」

「下の名前呼び捨てになってるから。海斗や佐野だってくんづけでしょ?」

「……うん。でも、付き合ってはいないよ?」

 しっかりと否定。この会話、あの男に聞こえているのかしら。

 それを考えるだけでもおかしくて、こみ上げてくるものを必死に堪えた。

 海斗の陰に隠れると、

「桃華ひでぇ……」

 だって、おかしすぎるじゃない。

 どうしよう、腹筋がひくついてしまいそうだ。

「ふーん……なんでそんなことになってるの?」

 和総も興味本位な割にがんばって訊いている。でも――和総は夏休み中に彼女ができたと聞いた気がするわ。それに、興味本位とはいえ、ここまで突っ込んで訊くタイプの人間でもない。

「ツカサにそう呼んでほしいって言われたから……かな?」

「ふーん……じゃ、俺のことも和総くんて呼べる?」

 和総……?

 いつもとらしからぬ和総が気になり、海斗の脇に出る。

「……努力すればなんとか」

「じゃ、和総は?」

 口を挟もうとしたそのとき、

「和総、何翠ちんいじめてんのよっ!」

 私よりも先に理美が動いた。

「別にいじめてるつもりはないんだけどさ。……でも、それはちょっと気をつけたほうがいいかもね。また明日!」

 和総が教室を出てから、ふとパーソナルデータを思い出す。

 河野和総、バスケ部、風紀委員――委員会が絡むということだろうか……。

「翠、まだ?」

 不機嫌そうな声が割り込んだ。

「早く行ったほうがいいぞ~」

 海斗が言えば、「またあとでね」と翠葉は教室を出た。


「ま、確かに勘違いされてもおかしくはないわな」

 海斗がため息をつく。

「美男美女でいいんじゃない?」

 佐野はあっけらかんと答えたけれど、

「ん~……」

 唸る海斗も風紀委員の動向が気になっているのだろう。

 佐野は外部生だから知らない。うちの学校において、風紀委員がどのような権限を持っているのか。どのような仕事が割り振られているのか。

 委員会を決めるとき、なぜ一番最初がクラス委員の選出で、その次が風紀委員なのか。

「少し探りを入れなくちゃ……」

「そうだな」

 佐野だけが要領を得ない顔をしていた。でも、そのうちわかるわ。

 今はまだ紅葉祭の悪巧みのほうに全力投球しておいてくれるかしら。佐野の思考のみ置き去りにして、三人職員室へ向かって歩きだした。

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