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光のもとでⅠ 第十一章 トラウマ  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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00 Side Kaito 02話

 あのあと、さらに曲のリクエストを受け付けた。

 流行なのかなんなのか、「嵐」の曲は上位にたくさんあがっていた。あとは「コブクロ」や「エグザイル」。

 俺は佐野ほど率先して音楽を聴かないし、その時々のランキングで上位にある曲しか聴かない。だから、こういうのは詳しくない。正直、知らない曲だらけだ。

「そこの悪代官の皆様、ものは相談なんですが、うちのクラスの佐野も引き込みませんかね? あいつ、歩くミュージックボックスですよ」

 その言葉に、

「あら好都合! 今、あそこを歩いているのって佐野くんよね?」

 茜先輩が部室棟を指差した。

 そこには、部活が終わってグラウンドから戻ってきたばかりの佐野の姿があるわけで……。

「はい、海斗と千里、捕獲部隊出動!」

 久先輩から軽快な指示が飛ぶ。

 俺たちに拒否権なんてすてきライフカードは用意されていない。とりあえずは言われるがままに動く。

 着替えが終わった佐野を拉致して図書室へ連行。

「持ってるものをすべて出したまえ」

 というのは別になんでもなく、持っているミュージックプレーヤーを出しやがれ、というだけのこと。

 こいつは普段から複数のミュージックプレーヤーを持ち歩いている。

「海斗、俺、なんで拉致られてんだろ……」

 きょとんとした佐野に少し同情。数日前、その席を強要されたのは俺だった。

「ま、早い話がグルになろうぜ! ってところだ」

 佐野はその場のメンバーをぐるっと見渡し、

「いいいいいい……慎んで遠慮申し上げる」

 と、席を立とうとする。その肩をガッチリと押さえて立たせないのが優太先輩だった。

「ひどいなぁ~……楽しいことはみんなでやらないと」

 どっちがひどいのかわかったものじゃない。

「春日先輩……だって、ここにいないのって御園生と藤宮先輩だけじゃないっすか。何やらかすつもりなんですか……」

「佐野、おまえ冴えてるな?」

 真面目にそう思った。その佐野に悪巧みを話すと、

「へぇ~……俺、実は昨日御園生に会ってきたんですよね」

 と意外な情報がもたらされる。

「恋愛か友達かはわからないみたいですけど、御園生は確かに藤宮先輩を慕っているし、大切だとも好きだとも言ってましたよ」

 新たなる情報ゲット。恋愛だか友達だかわからないっていうのはもはや翠葉のデフォルトだ。

「しかも、皆様にすてき情報を進呈してもよろしいでしょうか」

 なんだ、佐野もまんざらじゃねぇな。

 にやりと笑ってこの大御所たる生徒会メンバーを見やる度量のある男。

 おまえさ、桃華と一緒でクラス委員と生徒会兼任しちゃえばいいのに。

 そんな自己都合的なことを考えつつ、佐野の話に耳を傾ける。

「藤宮先輩、この夏かなりがんばったっぽいですよ。御園生が呼び方変えました」

「「マジっ!?」」

 俺と千里が食いつく。と、ニ、三年メンバーは「あらあら、なんて変わったのかしら」とニヤニヤしだす。桃華だけは知っているのか、相変わらず「面白くない」という顔をしていた。

「簾条だって知ってんじゃないの?」

 佐野が訊くと、

「知ってるわよ。しかも嬉しそうに呼ぶから余計に腹が立つのよね」

 桃華さん、マジ面白くないんですね?

「で? なんて呼んでるの?」

 痺れを切らしたのは嵐子先輩。

 俺も気になる、とっとと言えっ!

「それが、『ツカサ』って下の名前呼び捨てです」

「「マジでっっっ!?」」

 再度声が重なった俺と千里は顔を見合わせた。

「なぁ、俺たちってなんでこういうところでだけ息がぴったりなわけ?」

 俺が訊けば、

「おまえがやめろよ」

 んな殺生な……。

 そんな俺たちと桃華を取り残し、ほかの人間はキャーキャーと騒ぎ出す。

「一応、私たち同い年だから先輩は取れることはあっても、まさか呼び捨てとは思わなかったわ!」

 嵐子先輩が頬を紅潮させ嬉しそうに飛び跳ねる。

「翠葉ちゃんにツカサって呼ばれたときのあいつの顔が見てみたい」

 優太先輩の言葉に、「同じく」と朝陽先輩が同意した。

「そっかそっか……ツカサって呼ぶようになったんだ~」

 花を飛ばして、ついでに魂まで口から出ていってしまいそうなのは久先輩で、茜先輩は「そんなふたりを早く見たいわっ!」とはしゃぐ。

「なぁ、俺、諦めたつもりではいたけど、ちびっとブロークンハートなんだけど」

 千里、それは先日の俺の心臓のことを言うんだ……。

「でも、この流れだと……」

 佐野がプリントに目を移す。

「姫は里見先輩と御園生ですよね? 藤宮先輩を嵌めるっていうのには大いに賛成なんですけど、御園生は大丈夫かなぁ……」

「そっちは私たちでフォローするわ」

 桃華が言い切った。

「もっと――翠葉にはもっと学校を楽しいと思ってもらいたいし、行事にだって率先して参加してもらいたい。楽しくて仕方のない場所にしたいの」

 桃華、それはさ、俺ら一年B組の人間はみんなが同じように思ってるよ。そのための努力なら、誰も惜しまない。

「そうだな……まずは引っ張り込まないとな。そう思ってるの、簾条だけじゃないよ。うちのクラスはみんながそう思ってる。その結晶があのCDだろ?」

「そうね……」

「でさ、御園生、俺が見舞いにいったとき、まだCD聴いてなかったんだけど。俺は心が折れた」

 佐野がパタリとテーブルに突っ伏す。

「あら、それはまずいわ。翠葉に対するリクエストって奥華子の曲なのよ?」

 そうだった……。

「徹底的に聴かせないとだめね」

 きれいに微笑む桃華はいつもの桃華に戻っていた。

 桃華はバリバリの姉御肌で、基本表情を崩すこともない。けれど、翠葉が絡むと覿面なんだよな……。それだけ気にかけてる存在ってことなんだろうけれど、そういうところが司とかぶって見えて、ちょっと面白い。

「ねぇ、私、シンディローパーの『True Colors』を歌いたいわ。翠葉ちゃんに向けて……」

 茜先輩がふいに口にした。

「シンディローパーの『True Colors』ね。どうしてその選曲って……まぁわからなくないか」

 即座にそんなコメントをできたのは佐野のみ。

「どんな曲なんだよ」

 佐野に訊くと、茜先輩がアカペラで歌いだす。  歌詞も音も頭に入っているようだ。その歌声に思わず鳥肌が立った。

 俺たちすんげー贅沢だ……。

 歌を聴いて、だいたいの歌詞はわかった。


 ――どうかなりそうな気分のときは、我慢なんかしないで電話をして。

 ――私が駆けつけるって知っているでしょう?


 きっとそんな訳になるのだろう。

 続けて朝陽先輩が違うフレーズを口にする。

 この人の英語は聞き取りやすく、きれいな発音だと思う。そして、フレーズを言い終えると、

「翠葉ちゃんにぴったりだよね。臆病な子だからさ」

 なるほどね、と思っているところにまた茜先輩の歌声。

「私が伝えたいのはこっちかも?」

 直訳すると――。


 ――本当のあなたを隠さなくっていいんだよ。

 ――あなたの色は本当にすてきだから。

 ――虹のように。


「色」っていうのは翠葉自身のカラーのことを指してるんだろうな。この曲、思いが詰まりすぎなんじゃ……。

「これ、三人で歌わない?」

 茜先輩の提案に、どうしてか涙ぐんでる桃華がコクリと頷き、鼻をずびっとすすった嵐子先輩も「賛成」と口にした。

 茜先輩は桃華と嵐子先輩の肩を抱いてにこりと笑む。

 あぁ、ちっこいけど先輩なんだな、なんてちょっと失礼だけどそう思った。

 このミーティングのあと、俺は佐野にその曲を聴かせてもらった。

 普通に、すごくいい曲だった。

 でもさ、茜先輩知ってる? 翠葉ってすんごい英語が苦手なんだよね。

 そのあたりはなんか違う形でフォローしたほうが良さ気。

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