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光のもとでⅠ 第十一章 トラウマ  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
52/120

00 Side Kaito 01話

 これはいったいどういう状況だろう……。

「あのぉ……」

 生徒会が使う図書室で、俺はいわゆるお誕生席と呼ばれる場所に座らされていた。

「海斗、なんてことないわ」

「桃華……おまえがきっれーな顔で人形みたいに微笑むときはたいていいいことであったためしがないだろっ!?」

「あら、そうだったかしら?」

 とぼけるなとぼけるなっ!

「俺たちは海斗くんにぜひお願いをしたいだけさ」

「優太先輩、普段は俺のこと『海斗』って呼びますよねっ?」

「そうだったか……?」

 優太先輩が朝陽先輩に尋ねると、朝陽先輩は「どうだったかな?」とクスリと笑う。

「海斗、いつものことだって」

「久先輩、それって俺が生贄ってことじゃないですかっ!」

 第一、この部屋に司がいない時点で何かおかしいだろ、をぃ――。

「海斗、プレゼントして?」

 そうかわいらしくじゃれついてくるのは茜先輩だった。

 ふわふわしていてバニラエッセンスみたいな甘い香りがする。男なら、この人のお願いを断るなんてことはできないだろう。しかも、俺のフェミニストは秋兄仕込みなんだよっ!

「はああああ……今度は何やらかすんですか?」

「そうこなくっちゃ!」

 嵐子先輩に渡されたのは一枚のプリント用紙。それに目を通し始めると、

「俺も茜も紅葉祭が最後の仕事だからね」

 と、久先輩が口にした。

「あぁ、紅葉祭の恒例行事ですね」

 プリントにはこう書かれていた。




------------------------------------------------------------------



● 姫と王子の出し物 ●


全校生徒によるアンケート結果


1 歌(60%)

2 学園敷地内三十分デート(20%)

3 王子と姫との記念撮影(15%)

4 演劇(5%)



------------------------------------------------------------------



 なんだ……。

「もう、全校アンケート終わってるじゃないですか」

「えぇ、終わってるわ」

 にこりと微笑む茜先輩。

「あれ? これって確か、姫と王子には知らされずにことを進めるものですよね?」

 なんで茜先輩がここにいるんだ?

「ふふ、そういう名目だけど、私にとっては最後の紅葉祭だもの。それに、このメンバー最後の仕事だわ。なのに、全部に加担できないなんて不公平だと思わない?」

 何と比べて不公平なのだろうか、と思いつつ、こんなとき、たいてい企てが画策されているんだよな、と心構えをする。

「海斗、見てわかるとおり、今年は歌に決まったんだ。そこでさ――」

 朝陽先輩の言葉を遮る形で俺は声を発した。

「ちょっとたんまっっっ! ねぇっ、それっ、誰が司に言うわけっ!? しかも、絶対にやらせなくちゃいけないんでしょっ!?」

 その役目、俺に振ろうとシテマセンカ……?

「ご名答~!」

 優太先輩が楽しそうな声をあげ、

「で、どうして海斗がお誕生席に座っているかの理由はご理解はいただけたかな?」

 楽しげに嵐子先輩が腕を首に絡めてきた。

 あ~……どうせこんなことだろうと思ったよ。

「何、それを今から俺に考えろと?」

 桃華に訊くと、

「まぁ、そんなところね。やることは決まってるんだから、あとは藤宮司を嵌めればいいだけよ」

 さもなんでもないことのように言うけどさぁ……。

「俺がそのあとどんなひどい仕打ちされるのかわかって言ってるだろっ!?」

「あら、だから海斗にやらせるんじゃない」

 さらりと返しやがった……くっそぉおおおおっっっ――。

「海斗、これなんだと思う?」

 久先輩がテーブルに広げたのは数々の写真。

「俺の力作隠し撮り!」

 ……ったく、よくやるよ……。

 並べられたのは見事なまでに、司と翠葉の写真だった。ほかにも茜先輩の写真もあるけれど、それはいたってまともな写真で隠し撮りと言われる類ではない。

「司の色んな表情を見たいっていう乙女たちの気持ちも汲んであげないとねぇ……」

 そう言ったのは、人気投票次位の朝陽先輩だ。

「っていうか、朝陽先輩、毎年夏はぎりっぎりまでジュリアんとこじゃなかったですか?」

 この人は海外に彼女がいる。それがゆえ、長期休暇に入ると必ず海外へ行ってしまって連絡がつかなくなるのだ。

「うん、行ってたよ。今年はこうなるだろうと思っていたし、案の定、海外まで連絡来ちゃうし。仕方ないからジュリアをなだめすかして帰国を早めたんだ」

 頭痛くなってきた……。

「あ、でもこれ……姫と王子の出し物だから翠葉にもお鉢が回んない?」

「当然! でも、彼女には個別にピアノ演奏とかそういったものもリクエストが来てるから、それも混同しちゃうつもりよ」

 茜先輩が嬉しそうに話す。

「私の歌の伴奏は翠葉ちゃんにお願いするんだ!」

 茜先輩はすでに歌う気満々なわけで……。

「問題は司かぁ……」

 必死で色んなことを考える。

 あの司をステージ上で歌わせるわけだろ?

 どうにもあとに引けない状況を作らなくてはいけない。

 あいつに歌を歌わせるのかあああああ……。どれだけ至難の業なんだ。

 生徒総会ならいざ知らず、基本、人前で何かをするってことが大嫌いだ。加えて目立つこともしたがらない。そこへきて、ステージで歌ってさぁ……ハードル高すぎでしょー。

 嵐子先輩が、「はい!」と手を上げ、

「ひとつ提案!」

「どうぞ」

 茜先輩が指名すると、

「優太がね、歌得意なの。でもって、朝陽も得意よね? そういう目立つこと全般。で、ほら、千里起きなさいよっ!」

 部活後で疲れているのか、いたことすら気づかれないようなところで寝ていた千里を叩き起こす。

「そんなの海斗に適当にやらせりゃいいじゃないですかぁ……」

 千里がぼやきつつ再度寝そうだったので、俺はすかさず蹴りを入れた。

「痛えよ……」

「俺の心はもっと痛い」

 俺の元気な心臓返しやがれ。ブロークンハートだぜ、まったく……。

「この間、茜先輩と千里拉致ってカラオケ行ったんだけど、これも意外となかなかだったわ。千里も海斗も朝陽も優太も人気投票上位常連者なんだからみんなでステージに立っちゃえばいいのよ」

 嵐子先輩の案がするり、と頭に入ってきた。

「あ、それいいですね? ほかのメンバーが出ているにも関わらず、王子本人が雲隠れなんて許されませんし」

 俺が言おうと思ったことを寸部違わず桃華が口にする。

 こういう画策は大好物だ。

「……やばい、俺楽しくなってきた」

 俺の言葉を受けて優太先輩がにっこりと笑う。

「司を抜くとちょうど男五人だから嵐とか歌わね?」

 優太先輩の、ニコニコの理由が嵐子先輩にあるとは思わなかった。

「きゃーっ! 嵐大好き、優太も大好きっ!」

 何、嵐子先輩って嵐のファン……? 意外とミーハーなのな……。

 どうやら、嵐子先輩が嵐好きなことで、優太先輩は嵐の曲を全曲振りつきで歌えるらしい。

 それはそれですげぇ根性。いや、愛情の間違いか?

 茜先輩は、

「優太の肺活量すごいもんね? さすが水泳部!」

 そうだった……。優太先輩は水泳部だった。

 確か、温水プールの設備がしっかりしているのが藤宮しかないと知って、ここを目指して受験したなんて話を聞いたことがある。

「海斗、司にはもちろんラブソングを歌わせたいわけなんだけどさ」

 いつの間にか、久先輩が俺の隣に座ってにぃ、っと笑っていた。久先輩と反対側の席へ静かに腰を下ろしたのは桃華。こちらもきれいににこりと笑っている。

「そうそう、まるで翠葉に告白でもするような歌を希望するわ」

 ――こいつらの目的そっちかっ!?

 俺はテーブルから身を引き、

「ねぇ、これってさ……紅葉祭っていうのは口実で、本当はそっちがターゲットでしょ……」

「「「「「ピンポーン!」」」」」

 その場の人間みんなが人差し指を立て口にした。

「だってさぁ、もう見ててじれったいのなんって……」

 優太先輩がそう言う気持ちもわからなくはない。

「このままじゃ秋斗先生の掻っ攫われちゃうよー。秋斗先生、何気に立場考えずに行動派だし」

 そう言ったのは嵐子先輩。しかし、その「秋斗先生」って俺の兄貴なんだけどねぇ。

 思わず苦笑が浮かぶのは仕方ないと思いたい。

 ここにいるメンバーは翠葉と秋兄が付き合うことになったことや、それで翠葉がいっぱいいっぱいになっていることを知らない。知っているのは俺と桃華だけだ。

 でも、その桃華が加担するってなんだ?

 こいつは翠葉の気持ちを無視するようなやつじゃないし、司を擁護するとか援護するとか――絶対にしないだろ?

「海斗、言いたいことはなんとなくわかるわ」

「エスパー機能卓越シテマスネ?」

「事情が少し変わったのよ」

 桃華がここに来て表情を曇らせた。そして、次には驚くことを話しだす。

「一応、伏せてはいたのだけど――たぶん、二学期に戻ってくる翠葉は記憶が一部欠けている状態です」

 その一言に湧いていたその場がしんとなる。

 桃華のこの物言いは緘口令そのものだ。口外できる類じゃない。

「どういう意味……?」

 かろうじて声に出せたのは俺だけ。そのあとすぐに、

「また男性恐怖症とかっ!?」

 寝転がっていた千里が瞬時に起き上がって席に着いた。

「それともちょっと違うのだけど――藤宮司と秋斗先生の記憶だけが一切合財なくなっちゃったの。蒼樹さんの話だと、その間の出来事はすべてふたりから話を聞いたそうだけれど、それでも思い出せはしないみたい」

 桃華の深刻そうな顔を見れば、それが事実だとわかる。

「あ、それでこの間桃ちゃんアルバムを借りに来たんだ?」

 久先輩が訊けば、桃華はコクリと頷いた。

「アルバムを見せると、ところどころは覚えているようでした。でも、お誕生会兼生徒会就任式はずっと藤宮司が翠葉の側についていたからか、全体の九十パーセントも覚えていませんでした」

 俺、んなこと知らされてねぇし……。

「今は? ……今、翠葉って――」

 嵐子先輩の声は震えていた。

「二学期前には退院する予定です。夏休み中に有効な治療法が見つかったみたいで、なんとか二学期には間に合うようにって調整しているところです」

「……桃、もっと早くに言ってくれたら良かったのに。そしたら私、お見舞いに行ったわ」

 茜先輩が眉根を寄せて泣きそうな顔になる。

「すみません……。私も一度行ったきりで、とてもお見舞いに来た人と会える状態じゃないって蒼樹さんが言っていたので……。でも、そんな中でもあの男だけは毎日のように顔を出していたんですって」

 最後は面白くなさそうに口にした。

「「司がっ!?」」

 驚いて口にしたのは優太先輩と嵐子先輩。朝陽先輩は、

「なんだ、意外とがんばってるんじゃん?」

 意外と、っていうか、本当に意外すぎるほどご執心って言葉のほうが俺にはしっくりとくるんだけど。

 へぇ……あの司が、ね。翠葉のことを好きなのは知っていたし、俺には翠葉の味方でいてくれと言ったのはいつだったか。

 あぁ、期末考査の前だったかな。……そっか、司、一歩は前に進んだのかな。

「俺、ちょっとやる気出てきた。エンジン始動っぽいっす」

 司が動くと決めたのなら、背中を押すのは俺らの仕事だよな? 秋兄は俺が押さなくても勝手に動くし。

 でも……今の翠葉の気持ちはどこにあるんだろう。

 確かに、翠葉は秋兄を好きだった。けど、秋兄のやり方はまずかった。

 あの状況で記憶がなくなるって――。

 たぶん、もしかしなくても秋兄が何かやらかした可能性が高い。

 翠葉相手に何やってんだよ……。あぁ……蒼樹さんが怒り狂ってる気がする。

 俺は最近マンションには顔を出していなくて、秋兄とも会っていなかった。

 マンションに帰ったところで翠葉は幸倉へ戻っていていたし、テスト前でもなければ行く必要がないから。

 なんだ、俺の知らないうちにえらい展開があったもんだな。なんか少し疎外感……。

「桃華、翠葉は大丈夫なのか?」

「体調的には徐々に復調しつつあるみたい。気持ちの面は一時ひどい状態だったみだいだけれど、今は落ち着いてるって。それがひとえに藤宮司の支えの賜物っぽいのよね」

 微妙な顔しやがりますね……。

 桃華は頼られたのが自分ではなく司であることが面白くないのだろう。

「なるほどね……翠葉はもともと司に気を許してる部分があったけど、それがもちっと進んだ感じなわけだ」

 なら、問題ないかな。

「いいよ、司にステージで告白ソング歌わせましょう?」

 にんまりと笑うと、その場の人間が揃って悪代官の顔つきになった。

 やっべ……俺も基本的にはこういう悪巧み大好きなんだ。

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