みにくい竜の子、拾われ子。5
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何分か後、憮然とした表情で戻ってきたバルはなぜか知らない男の人と一緒だった。バルほどじゃないけどこの人もデカい。そしてマッチョである。マッチョと言ってもボディービルダーのそれじゃなく、スポーツマンマッチョだ。
ちなみにバルは隠れマッチョだと推測している。イケメンのうえに細マッチョ。知れば知るほどスペックが高い。
「バル、えっと、だれ、ですか?」
どちらにせよ、見上げなければ視線が合わないのでこれでもかと頭を上げる。グレーの髪にグレーの瞳。ちょっぴりいかつい顔だけど、くりくり動く目がまるで犬みたいで可愛いような気もする。
バルが黒髪黒目だから考えたこともなかったけれど、行き交う人をみる限りでもこの世界は様々な色に溢れている。デリウィルさんだって銀色の髪に銀の目だし。メイドさんたちもいろんな色をしていたけれど、共通する点としては髪と目は必ず同色ってことくらいだろうか。それから、黒髪黒目は珍しいのかバル以外に見たことがない。
「リーシャ、こいつは視界に入れなくていいですよ。ゴミだと思いなさい」
「ごみ?…………ごめんなさい、もういちど、おねがい、する、ます」
ちょっと聞き取れなかった。もっかい頼むよと見上げれば、珍しく不機嫌顔のバルを押しのけてマッチョさんがわたしの前にかがむ。おお、視線を合わせてくれるのはたいへんポイントが高い。なにせ目が合わなくて首が痛い。
「俺はヴィズーガ。ヴァルネルとは悪友でな!本当に偶然、偶然さっき会ったんだ!お嬢ちゃん、名前は?」
「あ、う、もういちど、ゆっくり、はなす、して、くれますか」
ちょっと早いよマッチョさん。今までバルもデリウィルさんもフェリさんもずいぶん気を遣ってゆっくり喋っていてくれたことがわかる。これじゃ、1人でお出かけはまだ当分先のことになりそうだ。みんながみんなゆっくりと繰り返してくれるわけではないだろうし。
「おお、悪い悪い。俺の名前はヴィズーガ。ヴァルネルの友だち、あー友だちってわかるか?」
「友だち。あい、わかる、ます」
どうやらヴァルネルさんのお知り合いだったらしい。一体どうしてあんなに怒っていたのかわからないけど、偶然会ったんだろうか。わたしのことなんて気にせず、2人で遊んできてもらってもいいのだけれどとバルを見上げる。
「友だちではありません。迷惑です不愉快です」
聞こえてきたのは否定の言葉である。え、友だちじゃないのか、どっちなんだ、と目の前のビズーガ?さんに目を戻す。
「気にすんな、気にすんな。で、おまえの名前は?」
「なまえ、……わたしの名前は、梨佐です」
「リーシャ?」
「あ、う、あい。リーシャ」
やはり聞き取ってはもらえなかった。まあ別にいいか、と頷く。リーシャでも梨佐でも大した違いはない。響きは似ている。
「よろしくな、リーシャ!」
「よろしくおねがい、する、ます」
ぺこりと下げた頭をわしゃわしゃと撫でられる。その手をぺいと振り払うバル。……なんだ、仲良しってわけじゃないのか?
「リーシャ、飯食おうぜ飯」
「めし? くう?」
それは一体どういう意味。にかっと笑っているところ悪いのだけれど、もう一度言ってもらえる?と言おうとした矢先、どがんっとすごい音を立ててバルがビズーガさんの頭を殴った。いってぇぇぇ!と涙目になって頭を押さえるビズーガさんに「うるさい」とバルは容赦ない。……ほんとにどうしたというのだ。
「リーシャに汚い言葉を教えるのはやめてもらえますか。リーシャ、本は後でもいいですか?先に昼食にしましょう」
「あい」
別に本はいつでもいいんだけど。いつもの優しいバルはどこに。
ビズーガさんはどうするのだと目を向ければ、にこりと人好きのする笑みを返される。初対面にここまでにこやかにできるとはなんというコミュ力の高さ。きっと友だちがたくさんいるに違いない。
「リーシャ、何が食べたいですか。ヴィズーガが奢ってくれるそうなので、リーシャの食べたいものを食べましょう」
「は、おい、そんなこと一言も……」
「おごる?」
「はい。ヴィズーガが昼食のお金を払ってくれます」
「いや、だから、そんなこと、」
「おかね、はらう…………。ビズーガ!ありがと、ございます!」
お昼はビズーガさんの奢りなのか!財力もあるとは、ますます友だちが多そうだな!申し訳ないけど、わたしはお金を持っていないから割り勘ができない。ありがたく奢っていただこうと頭を下げる。
「あー、まあいいけどよ……」
なぜかがっくり頭を垂らしたビズーガさんを、ふんとバルが鼻で笑った。……ほんとに友だちなんだよね……?
「ヴィ」とか「ヴァ」とか発音できずに「ビ」「バ」になっちゃうリーシャちゃん。おかげでわたしの書き分けが大変。