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みにくい竜の子、あわれな子。  作者: 遊楽
お出かけ編
3/15

みにくい竜の子、拾われ子。2


その頃のリーシャ。





 バルがお仕事に行っている間わたしがすることといったら、家庭教師のフェリさんに言葉を教えてもらい、その合間にこっそりと筋トレをすることくらいだ。


 メイドさんのお仕事を手伝おうにも重すぎてほうきすら持てないし、ならば絵本で勉強をと思ってもこれまた絵本がとんでもなく重くてページをめくることすらままならない。日常生活すら人の手を借りねば送れないわたしにバルがフェリさんを家庭教師としてつけてくれたのだ。

 わたしの言語能力じゃ詳しいことはわからなかったけど、上品なおばあちゃんを絵に描いたようなフェリさんはバルの子ども時代の恩師らしい。フェリさんの教え方はとてもわかりやすくて、絵本を中心に読み書きを教わっている。文字の方はほぼアルファベットなので意味は分からずとも形は取ることができた。ただ発音がとんでもなく難しい。なんていうんだろう、口の中でこもる感じ?自分では聞こえた通りに発音しているつもりでも、どうにもうまくいかない。でもフェリさんは直すべきところはきちんと指摘しながら、できるようになったことは自分のことのように喜んで褒めてくれる。だからわたしもがんばるぞ!と毎日絵本を開くことができるのだ。

 坊ちゃんも昔はこれを読んでましたよ、とにこにこするフェリさんから、バルの子ども時代の話を聞くのがわたしの当面の目標である。



「あひるのこは、いーました」


「リーシャ様、言いましたですよ。もう1回読んでごらんなさい」


「い、いー、いいました?」


「そうです。綺麗な発音ですよ」



 フェリさんがにこにこ笑うとわたしもなんだか嬉しくなる。


 来たばかりの頃に比べてずいぶんと発音も、聞き取りもできるようになったと思う。もちろん、まだまだ知らない単語だらけだし、早く喋られると何を言っているかわからないし、きっと発音だってひらがな表記のつたないものだけど。人間、必要に迫られればなんでもできるものだ。



「リーシャ様はこの短い間でずいぶん上達なされましたねぇ。リーシャ様、すごいです」



 わかりやすいようにと簡単な単語で褒められて、すごいだろうと胸を張る。他にすることもなく、ただただ絵本をめくっているのだから当たり前といえば当たり前なのだが。それでも、わたしはとても頑張っている! と自分で言っちゃう。



「リーシャ様、お勉強は進みましたか?」



 こんこんと部屋をノックして入ってきたのは執事のデリウィルさん。ロマンスグレーのすらっとしたおじさまで、とっても有能な執事さんである。奥さんを早くに亡くし、それからずっと独り身なのだとか。息子さんが1人いると言っていたけど(わたしが聞き取った情報に間違いがなければ)、今は独立し、『がくえん』(小学校のこと、だと思う)で先生をしているのだとか。



「あい!あひるのこは、い、い、いいました!」



 どうだ!とばかりに今日の成果をご披露すると、今日も頑張りましたねとデリウィルさんも微笑んでくれた。



「リーシャ様、そろそろお昼にいたしましょう」


「おひる!」


「はい。準備が整いましたよ」



 お昼ご飯のお知らせに、お腹がすいたとぴょんと椅子から飛び降り、ようとしてバランスを崩して転んだ。地味に痛い。


 平均身長が高いこの世界のものは全てが大きいということは、それはつまり椅子やベッドなどがわたしが使うにはずいぶん高い位置にあるということだ。椅子に座るにはよじ登らなければいけないし、ベッドも然り。お風呂に入るにもそっと入らないと湯船が深すぎて一度溺れかけた。椅子から降りるのも注意しないと今回みたいにみっともなく転ぶことになる。うう、膝が痛い……。



 「まあああ、リーシャ様! 大丈夫ですか? お怪我は? 大変、女の子なのに傷でも作っていたらどうしましょう!」



 慌てたフェリさんに早口でまくし立てられて、きょとんとする。ごめんよ、フェリさん、うまく聞き取れなかった。


 わたしが理解していないことが伝わったのか、デリウィルさんがわたしの目の前にしゃがみながらゆっくりとした発音で話しかけてくれる。



「痛いところはございませんか、リーシャ様」


「あい。だいじょーぶ」


「それはようございました。一応医者を呼んでおきますね」


「いしゃ?い、いしゃ、ない!いたい、ない!」



 医者、はて医者ってなんだっけ、この前も聞いたんだけどと首を傾げ思い出す。


 わたしがものの大きさに慣れずすっ転ぶたびに派遣される白衣のお姉さん、すなわちお医者さま!ただ着地に失敗して転んだだけで医者なんて呼んでいたらキリがない。頭を打ったわけでもなく、たぶん傷ができても膝に痣ができるくらいで大したことないのに!



「そうはいきません。わたしが叱られてしまいますから」



 それはダメ、の後に続いたのは知らない単語だ。とにかく医者を呼ばなきゃダメーって言われてることはわかったけど、やっぱり単語力はまだまだである。会話の中に2、3回は意味がわからない単語が出てくる。



「さあ、リーシャ様。本日はリーシャ様のお好きなオニオンスープですよ」



 ううう、と自分の情けなさに唸り声をあげるわたしをひょいと立たせて、デリウィルさんが笑いかけてくれる。



「オニオンスープ!」



 それで、ひゃっほいと元気を取り戻すわたしもわたしだけど。だって、ここのオニオンスープすっごくおいしいのだ。フランスパンを上に浮かべてチーズを乗せて上からパセリを散らすのが最近のお気に入りメニューである。カロリー高そうだけど、おいしいものはおいしい。


 さあ、行こう今すぐ行こう、とデリウィルさんとフェリさんの手を引くわたしに、「本当にリーシャ様はオニオンスープがお好きですねぇ」「お肉を好まない、なんて本当にどんな環境で育ってきたのかしら……」と2人がわたしに憐れみの視線を送っていただなんて、このときのわたしには知る由もなかった。


 まさか自分が育児放棄された竜人の子どもだと思われている、なんて一体誰が想像するというのだ……!!





竜人は基本的に肉食です。時々お野菜を食べる程度。


分厚いステーキよりオニオンスープが好きだなんて……!という独特な可哀想な子認定。ステーキの脂はもたれるから苦手です、と竜人にあるまじき発言をしたせいでもある。



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