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妖精の一日

 普段、妖精ツバキは一体どんな一日を送っているのでしょうか、一葉の知らない所でツバキはなにをしているのか………


 今日はそんなツバキに視点を向けて話を続けてみましょう。

ツバキは毎日、日の出と共に起き朝露で顔を洗い、花の蜜で朝食をすませ、朝のパトロールに向かいます。

これはツバキの日課で、パトロールとは一葉の家の菜園を森の動物達が荒らさないように動物達に言って聞かせることです。


「おはよう皆っ、今日も一葉の畑は荒らしたゃダメだよ、欲しい子はちゃんと畑の横に野菜があるからそっちから皆で分けてね?」


 一葉はいつも収穫した野菜を自分の分とは別に、動物達の分を畑の横に小さな置き場を造っていて、そこに野菜を置いているのです。


「いつも元気だね、妖精さん」

「解ってるよ、そんなに毎回同じこと言わなくても大丈夫だよ」

「あそこの野菜は美味しいしね」

「そうそう、彼は僕らにもわざわざ美味しい野菜を置いてくれるのだもの、畑を荒らして、もし、貰えなくなったら嫌だからね」

「でもさっ、もう少し俺らも食べたいよね?畑で作る野菜増やしてくれないかなぁ」


 森の動物たちは段々好き勝手な事を言い出し、次第に自分達が食べたい野菜を挙げ始める始末。もともとは一葉の祖母が育てていた庭で、一葉自身が育てられる範囲かつ庭のバランスを壊して仕舞わない程度を一葉は意識しているため、動物達の願いは叶うことは当面ないだろう。

 土竜のクラム(暗夢)はジャガイモ、鼬のセン(扇)はトウモロコシ、狸のコグレ(木暮)はカブ、鹿のカナン(霞楠) はホウレン草、熊のムガン(武巖)はカボチャ、と、いった感じで彼らは自分達の好きな野菜を一葉に造って欲しいと話しては盛り上り、蚊帳の外になったツバキはその場を後にする。

 次にツバキが向かったのは一葉の家の近くの茂みまでいってツバキは地面に向かってミミズさんに話し掛ける。


「おはよう、ミミズさん達っ今日もお仕事頑張ってね」そう言ってツバキはミミズさんの声が聞こえるように地面に耳を当て、ミミズさんの返事を待つ。

「その声は妖精さんか、解ってるよ。

ほんと妖精さんはあのお宅が好きだねぇ」

「えへへっお祖母ちゃんも優しかったけど、一葉も優しいから好きっ、ねぇミミズさん、ミミズさんは知ってる?

人間は怖いって聞いていたけど、本当にそうなの?あそこの家の人、以外の人間は、恐いの?」

「ん〜、私も余り知らないんですけど、他の仲間はあそこの家は特別住みやすいって言ってましたよ。

なんでも、他所の人間は私達の姿を見ただけで驚いたり、あまつさえ踏み潰そうとして来るらしいですよ。

恐い話しですよ本当に、私は此所に住んでいて本当によかった。」


「……ひゃ〜恐いっ恐いよっ踏み潰すなんてぇ…なんで?なんで踏もうとするの?」

「ああ、それは私達が気持ち悪いそうですよ?人間は違う生き物に対してとても許容が狭いんです」

「?人間は、人間以外の生き物が嫌いなの?

でも、畑を耕したり、お花を育てたり、猫さんや犬さんと一緒に暮らしてるよね?」

山からでたことのないツバキは、人間と直接話したりするのは一葉だけで、たまに山の中を歩く人間を見る事があるくらいだが、それでも人間が、悪いとは思いたくなかった。


「確かにそうなんですが、人間は犬や猫をペットにしているんです。傍に自分より下だと思えるものを置いておきたいんですよ、そうやって人間達は自分の自尊心を保とうとするのです」

「でも、あの家のお祖母さんも一葉も優しいよ?」

一葉も一葉のお婆さんも、とても優しかった。人間の二人、人間だからと彼等を悪いとは思いたくはない


「だから、あの家は特別なんですよ。

そりゃぁ人間が全部恐い存在じゃないですよ?本当に優しい人間は極僅かなんです」

「ヘェ〜、そうなんだぁ…皆が皆優しいんじゃないんだ……」

「そうなんですよ。

所で妖精さん、今日はあの家には行かないのですか?」

「あっ、そうだった!

じゃぁ、ミミズさんまた今度ねっ」

「はい妖精さん、また」ツバキはミミズさんと別れて一葉の家に行く。



 ツバキは、あの家で過ごす時間が大好きで。姿が見えていると知る前から、知ってからはもっと好きになった。

 森の中とは違う時間があの家では流れている、そんな気がするのです。


「一葉〜っ遊びに来たよっ」

 ツバキは丁度、庭の手入れをしていた一葉に声をかけた。

「?お〜、ツバキいらっしゃい」

 一葉は振り向きながら首に巻いていたタオルで汗を拭く。


「一葉っ、私ねさっきミミズさんから聞いたんだけどね、

人間達の中でも優しい人間は珍しいって、

一葉の知ってる人間でも珍しいの?」

「ん〜、どうだろ?一概には言えないけど

基本は優しいんじゃないかなぁ、でも、ツバキが聞きたいのはそういう事じゃないよね?」


 そう、一葉から見れば大体の人間は優しい部類に入ってくる。それに、ツバキ達の価値観で人間が優しいかと聞かれれば首を傾げてしまう。


「??そういう事じゃないの?」


「そうだと思うよ?ツバキは人間をあまり知らないだろう?

俺は人間だし、人と生活しているからこそ、人がどういう者かを知ってる、人間は山を壊したり、森を荒らしたり、動物を痛め付けたりするし、妬んだり憎んだり、人間同士で歪み合ったり

そういう暴力的な一面があるのも事実で、それと同じように人を助けるし、森を守ろうとする、人は絶えず何かを守る。

だから、ツバキは人間がどんなだったら優しいって思う?」


「ん〜、優しい……ミミズさんを見てもミミズさんを踏み潰さないとか?」

「っ、いきなり具体的だなぁ、……ミミズを踏み潰す人間は…少なくはないな」


「ツバキ、俺が言いたいのはさ、人は人に優しいものなんだよ、でも、ツバキが大切に思う者達にも優しいかっていうと、それは違うんだよ」


「んっ〜…難しいよぅ」

 ツバキはすっかり困りはててしまいました。まさか優しさに基準があったなんて。

「そうだね、難しい。だから人と解り合うのは大変で楽しいんだよ。

俺とツバキだってそうだろ?」


「大変だけど楽しい?

じゃあ、皆と分かり合えたら皆、ミミズさんにも優しくしてくれる?」


「そうだね、でもそれには、沢山の時間がかかるし、中には解り合えない人もいるかもしれない」


「解り合えない人もいるの?」


「ああ、残念だけどね。

だから、少しでも理解し合うことがとても嬉しいんだ」

「少しでも嬉しいの?みんなの方が嬉しくないの?」


 ツバキの疑問に一葉は優しく笑いかけて答える。


「それは、どっちも嬉しいよ」

(こうゆうとき一葉はお婆さんの孫だなって思う。お婆さんもよくそんなふうに笑ってた。この笑顔はもう見れないんじゃないかって思ったのに、まさかこんなふうに私に向けられるようになるなんて思いもしなかったな)

 優しく笑いかける一葉にツバキもつられて笑う

「ふ〜ん、人間って難しい」

「これから、俺と一緒に人間を知って行けばいいだろ?」

「うんっ、そうだっ、じゃあ一葉には私が山の動物さんの事教えてあげるねっ」

「へえ、山の動物かぁ、聞きたいなぁ」「あのねっ、モグラのねクラムはね、ジャガイモが食べたいって、それでねっ、この前のトマトが美味しかったって、それからそれから……………………――――ーー」


 ツバキは喋り疲れるくらい一葉に動物達の話を沢山喋って聞かせて、へとへとになってから、一葉が苦笑いで帰るように促してくれても、ツバキは「もう少しぃ」と言って居座り続ける。

ツバキが静かになってから一葉が躊躇いがちに口を開いた。


「……なあ、ツバキ、ツバキは死んだ祖母にも、歌ってくれたかい?」

「歌? うん、歌ったよ?」

「そっかぁ…ありがとう、ツバキ」

 一葉のありがとうの意味はツバキには解らなくて、それでも、一葉の心からのありがとうはツバキにも伝わってくるのに、意味が解らなくてありがとうの置き場所を持て余してしまう。


「???」


 ツバキは一葉にありがとうの意味を聞けずに一葉の家から森に帰りました。

一葉の心からの感謝の意味を自分が聞き返してしまったら、せっかくの感謝の言葉が色褪せて仕舞う気がして聞き返す事が出来なかったのです。



 森に帰ったツバキは夜になるまで眠りにつき、夜が深くなり、星たちが光を増す宵の時にまた起きるのです。そして、山に住む者達の為に歌をうたうのです。

死んで仕舞った者達の魂が迷ってしまわないように、真っ直ぐ天に昇れるように………


 夜の空のように静かにゆっくりと風が歌声を運び、高い声音が空高く昇っていく。


 これは、妖精である、ツバキにとって当たり前の事で、昔、ツバキ以外の妖精がこの山にいた頃は、みんながそうしていたのです。

だから、一葉のお祖母ちゃんが居なくなったときだって、お祖母ちゃんがいなくなるのは辛いけど、お祖母ちゃんが迷って仕舞わないように願いながら、あの日も歌った。

歌い終わればまた、ツバキはいつものように朝まで眠りにつく。




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